妖魔界

39 服と百合恵の心のお話 M/M

「トゥーリナ。ザン様の所のアトルちゃんって女の子、人間のような服を着ているわよね。普通の上着に可愛いミニスカート。」
「妖魔界は人間界の物を輸入するからな。」
「わたしもこんな疲れるドレスじゃなくて、普通の服が着たいわ。ねーえ、買ってよ。人間だった頃の服を着ようとしたら、駄目だったの。あなたが前言ったみたいに胸が大きくなっちゃったから窮屈で…。羽や尻尾の穴もないし…。」
「駄目だ。あんな素足が見えるようなふしだらな格好をさせられるか!」
「あれくらいで“ふしだら”…?」
「文句言うな!絶対に駄目だからな。」
「でも、ドレスだって体にぴったりで、体の線を強調してるし、あれだって見方によったら…。」
「俺に逆らうな!!駄目ったら、駄目なんだ。いい加減に、はいって言え!」

「何でそんなに怒るのよ?…分かったわ。」
 百合恵は、ちっとも納得できません。妖魔界の学校の先生は、体の線を隠すような大きな布を肩からかけています。でも基本的に女性の服は、上半身は体にぴったりしているのに。
「でも、あんなに怒ってるのに従わなかったら、またお尻をぶたれちゃうわね…。」
 それに百合恵には自由になるお金もありません。こっそり買ってくる事も出来ないのです。
「僕は、お母さんのドレス、好きだよ。とってもきれいだもん。」
「リトゥナ…。…でも、わたしは嫌なのよ。元々こんな服は映画や絵でしか見た事ないのに…。…なんとしてもトゥーリナにいいと言わせなきゃ。大体あの人ったら、何様のつもりなのかしら。偉い人だからって、わたしまで従うとでも思ってるのね。」
「だって、妖魔界の女の人は男の人に従うんだって、ターランさんが教えてくれたよ。」
「わたしは元人間だし、トゥーリナに従うつもりないわ。夫婦で支配関係なんて変よ。」
「…そうなの?」
「そうなの。妖魔界は体質が古いのよ。だからザン様がそれを直そうとしてるの。トゥーリナもそうすべきよ。」
「ふーん。」
 そこへトゥーリナがやって来ました。
「お前の我が侭を聞かなかっただけで、酷い言われようだな。(-_-)」
「我が侭なの?」
「我が侭だろ。妖魔界では女は素肌を見せないんだ。手と顔は隠さなくてもいいけど。」
「じゃあ、長いスカートでもいいから…。」
「…そう言ってやるつもりでここに来たけど、俺を散々けなしてくれたから、罰として買ってやらねえ。」
「そんな…。…じゃあ、お尻叩きを我慢するから…。」
「俺はお前の言いなりになんてならねえからな。お前が俺の思い通りになるんだ。」
「…むぅ。」
「むくれるな。郷に入ったら、郷に従えだ。お前はもう妖魔界の女なんだから、黙って俺に従ってればいいんだ。」
「妖魔界の女性が夫に従うのは、夫が守ってくれ、しかも尊敬できるような男性だからだって聞いたわ。…あなたを尊敬できないわ、わたし。」
「…。」
「お父さん、凄いのに。」
「リトゥナは黙ってて。大人の話に入ってきちゃ駄目よ。」
「…ごめんなさい。」
「ともかくわたしはあなたに従えないし、尊敬もしてないわ。でも、服は諦めるわよ。あなたがそう言うって事は、皆がわたしをふしだら女って思うんでしょ。そんなの嫌だから。」
「…。」

「だからって、何で僕がぶたれるのー。」
「五月蝿いーっ。八つ当たりしたら、また馬鹿にされるだろっ。」
 トゥーリナは、とってもいらいらしながら、何の罪もないターランのお尻を叩くのでした…。まあ、ターランは構ってもらえて嬉しいので、可哀想なのは、トゥーリナ…。

2008年12月22日(月)

■作者からのメッセージ
人間と妖怪の文化の差です。
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