壊れたラルスが生きている世界

26話

 数日後。正気のギンライへ、シーネラルから言われたことを伝えるトゥーリナ。
「……お前が責任を取る必要はない。ラルスは俺の息子だ。俺がやろう。」
 殺さなくてもいい方法を考えてくれるかと思ったのだが……。そんないい方法は、やはりないのだろう。妖怪のザンにも諦めろと言われた。
「簡単に治るくらいなら、誰も壊れを恐れねえだろ。」
 そして、父もこの反応。それでも、トゥーリナは諦めたくなかった。
「親父がどうやって兄貴を。いい、俺が自分で何とかする。」
「だかな、トゥーリナ。」
 父が言いかけるのをトゥーリナは遮った。
「何か方法がないか、考えてみる。駄目だったら…。」
 とりあえず、そのことは考えないでおこう。


 その頃、ラルスは。
「仕方ないけど……。僕、迷惑をかけてるね……。」
 武夫達に会いに行こうとしたら、城に来なければ良かったのになんて、話しているのが聞こえてしまった。「ちぇーっ。つまんないの。」
 廊下をぶらぶら歩く。しかし、散歩すらやりにくいとすぐに分かった。トゥーリナの部下達は冷たい視線を向けてくるし、メイド達も不安げな表情で急ぎ足になるのだ。一人で暮らしているのも辛かったが、疎まれるということがこんなに辛いとは思わなかった。
「ここに居たいのに……。」
 人は沢山いるのに、ラルスは一人だった。


「どうして、余計なことをトゥーへ言ったのさ? ただでさえ第一者として、色々忙しくて疲れているのに。」
 怒り心頭のターランはシーネラルへ八つ当たりする。
「ラルスのことが噂になってるんすよ。」
「噂って何? まさか…。」
「ターラン様は頭がいいんすね。そうっす。壊れた者が第一者の城に出入りしてる…だけでなく、関係者じゃないかとまで…。」
「もうそんなになってるんですか?」
 冷静になったターランは丁寧な言葉になる。
「まだ憶測の域を出ていないっす。でも…、時間の問題っすよ。」
「俺が勝手に殺すわけにもいかないし、シーネラルさんだって同じですよね…。困ったなあ…。大人しく出て行ってくれればいいのに。」
 ターランは頭を抱え込んだ。



08年12月16日
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