“伝説の男”の生い立ち

| 目次へ

10

途中

 目を覚ましてから、腕について考えてみた。暗にエッセルを責める言い方をした自分に対して、ジオルクは怒っていた。しかし、エッセルの可能性もあるような言い方をしたのはジオルクだ。余計なことは何も言わず、腕は駄目だったと言えば良かったのに、どうしてそういう言い方をしたんだろうか? ジオルク自身がエッセルの所為ではないかと思っていて、つい本音が出てしまったのではないか。
 シーネラルはそんな風に考えた。自分はジオルクの右腕で、自惚れではなく、彼にとって大事な人材だった筈だ。それなのに、強すぎる相手と戦っていたエッセルの所為で、シーネラルは障碍者になった。ジオルクの中で割り切れないものがあるのかもしれない。エッセルは団のお荷物で、そんな彼を助ける為に、大事な団員を失ったとなれば……。
「考えすぎじゃないのか。」
 ジオルクがそう思っているのではなくて、自分がそう思っているのでは? 「思っているかもしれない。」
 分からない。頭を使うのは止めたほうがいいかもしれない。良くない考えばかりで、本当に心が腐ってしまいそうだ。
 ジオルクの変な態度についても、彼は忘れることにした。


 ジオルク盗賊団の野営地。シーネラルが眠ってしまったので、言いたいことを言えないまま、ジオルクはここへ戻ってくる羽目になった。
「ふぅ。」
 ジオルクは溜息をついた。団へ戻ってくれる気になったのかをシーネラルへ訊きたかったのに、何も言えないまま戻ってきてしまった。ちょっと腐ってるなんて言い出す彼へ、団に戻ってくれと言うのは酷なんだろうか?
「どうでした? シィーは戻って来ると言いましたか?」
 ZIはこちらへやってくると、不安そうな顔で訊いてきた。
「言い出すタイミングがなくてな……。シィーはまだ心が立ち直れていないようだな……。訊く前に疲れていると寝ちまった。」
「当然ですよね……。俺だって、あんな体になったら……。」
 ZIは顔をしかめた。「面白半分に囃し立てなきゃ良かった。」
 ジオルクは彼を見た。そう。ZIはシィーが髪を切ると言いだした時、面白がっていた者達の一人だった。
「仕方ないだろう。シィーにも言ったが、髪の毛を切ったら弱くなるのが本当かどうか、あの時点では分からなかったんだ。誰にもどうしようもなかった。」
「そうですね。……ふぅ。戻ってきてくれるといいですが……。」
 落ち込んでいるZIをジオルクは不思議になって見ていた。
「お前は、シィーの地位にいることを喜んでいると思っていたが……。」
「最初は嬉しかったんですけどね、今は……。人の上に立つっていうのはなかなか大変で……。」
 ZIは溜息をつく。「にしてもG。」
「何だ?」
「立場なんてものは関係なく、俺がシィーを心配しているとは、思ってくれないんですか?」
「あー。それは、ほら、俺等は同じ団の仲間だ。心配して当然だと思ってな。」
「それならいいんですけどね。」
 ZIは納得した顔になると、戻って行った。
| 目次へ
Copyright (c) 2010 All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-