真志喜家
8 厳しい折檻 父から
部屋でイラストを描いていると、お父様がやって来た。
「あ、お父様……。」
驚いているわたしを無視して、お父様が、今まで描いていたイラストを手に取った。「下手だとは思うんですけど、わたしなりに一所懸命に描いたんですよ。」
へらへら笑いながら説明するわたしを、お父様が冷たい目で見てきた。
「何か怒ってます……? まさか、下手だから怒ってるわけじゃないですよね?」
別にお父様はイラストレーターでも、趣味に絵を描くような人でもないし、わたしのイラストが下手でもどうでもいいと思うのだが……。
戸惑ってるわたしを尻目に、お父様がイラストを机の上に戻した。そして口を開く。
「……立ちなさい。」
「はい。」
立ち上がると、腕を引かれた。お父様がソファに座り、わたしはその膝の上に乗せられた。
ビシッ、バシッと平手がお尻に飛んでくる。スカートの上からだが、その分強くされているので結構痛い。15回ほど叩かれた後、スカートをめくられた。パンツの上からも叩かれる。25回だろうか。お父様の手が止まり、パンツを下ろされた。裸のお尻に手が降ってきた。
「痛い、痛いー。」
それまでもだって痛いのだが、裸のお尻は質が違う痛みだ。
「どうして叩かれているのか、分かるか?」
お父様が訊いてきた。
「え、絵が下手だから……。」
絶対に違うと思うのだが、他に折檻を受けるような記憶がないのだ。
「イラスト自体はどうでもよい。」
「ですよね……。」
「何も思いつかぬのか。」
お父様の声が怖いし、叩かれる力が少し強くなっているが、考えても分からない。
「だって、学校で叱られたりはしてないし、悪い点のテストを持って帰って来たわけでもないし、お母様に叱られたりもしていない。朝に寝坊のような事もないし、二日連続の折檻中なんて事もない。」
わたしは思いつく限りを言う。「ですを付けてないけど、お尻が痛くて、そんな余裕も、物を考える余裕もないー。」
「そうか。なら、分かって反省するまで、尻叩きだ。」
「ええっ!?」
吃驚して体を起こしたが、背中を押されて元の姿勢に戻った。
「大人しく罰を受けるがよい。」
びっちん、ばっちんと強く叩かれ始めた。
「いえ、叩かれる事に抵抗したわけではなく……。痛いです、お父様。」
「それならよい。」
元の強さに戻った。あの強さで叩かれたらあっという間に痣だらけだったので、ホッとする。
「他に何があるんですかー!」
「大事な事を、一つ忘れているだろう。」
左右のお尻を、パンッパンッと連続で早く叩かれる。
「大事な事……? ぐすっ。」
「お前は100叩きを超えないと泣かないの。強情な娘だ。」
「別に、意地張って泣かないようにしてるわけじゃ……。ひっ。」
バチッ、ビチッと強めのが飛んでくる。
「そして、いくら叩いても、口答えを止めぬ。200では少ないのやもしれぬ。」
強めのは20回くらいで、元に戻ったが……。「道具で打ってやった方がいいのか、300まで増やすがいいのか、いつも悩むのだ。」
「さ・さんびゃく……。そんなの絶対無理です……。」
「そうか。では、折檻部屋で、穴開き罰板といこうか。しかし、後10で200なので、まずは平手だ。」
ばっちん、びっちんと一番痛いのが飛んできて、わたしは泣き喚いた。手が止まった後もぐすぐすと泣いていたが、お父様に体を起こされた。
「中々泣かぬが、泣き始めると長いの。」
腕を引かれた。「折檻部屋で、穴開き罰板40だ。」
「穴開きパドルも辛いです……。」
わたしはいやいやと首を振って抵抗した。
「細鞭20でもよい。」
「ケインはもっと痛いから嫌です。」
わたしの言葉にお父様が溜息をついた。背中を押され、馬とびの姿勢にさせられる。腰を抱えられて、強めのが20発は飛んできた。「いだっ、いだっ。」
「平手で100か、穴開き罰板40か、細鞭20。どれかに決めなさい。」
「そもそも、まだ何でぶたれてるか、まだ教え……。痛っ。」
また馬とびの姿勢で20はぶたれる。
「どれかに決めよと言っている。早く決めぬのなら、全て行う。尻が痣だらけになるだろうが、それくらいした方が、お前には相応しい罰やもしれぬ。」
お父様の目が怖い。お父様は、怒鳴ったりしない代わりに、怒れば怒る程、冷静になって目がすわるタイプだ。こういう人は怒らせてはいけない。
そもそも、変わる度に罰の内容が重くなっていってるのに、それに気づかず調子にのって、嫌だと言い過ぎてしまった。どうしてわたしという人間は、分かっていてやってしまうのか。だが今はそれを反省している余裕はない。急がないと、全部やられてお尻が酷い事になる。
既にお父様は、わたしを引っ張っている。折檻部屋に行って全部するつもりになってるのだ。
「手で100にします!」
間に合うのか謎だが、慌てて叫んだ。だが、お父様が手を緩めてくれる事はない。引っ張る力そのものは弱まったが、引かれている事に変わりはない。
『遅かった……。』
肩を落とした。お父様について行くしかないようだった。
折檻部屋の戸をお父様が開け、わたしは背中を押されて先に入る。まだ腕を取られて、拘束台に俯せにされた。これは、跳び箱の1段目みたいな細長い台に、4本の足が生えている変な物体だ。台の部分と足の部分にはベルトがついていて、体と手足をその名の通り、拘束する事が出来る。見た目は、一見首がない馬の玩具のような滑稽さだが、実際は、厳しくお尻をぶたれても暴れる事すら出来ないという、恐ろしい物なのである。
お父様に腕だけ拘束された。
「平手50、罰板10、細鞭5にする。決めるのが遅かったので、全て行う。ただ、決めはしたので、数を減らす。」
「はい……。」
「手が終わったら、足も拘束する。酷く暴れるだろうからの。蹴られてはかなわぬ。」
意図して蹴るつもりはなくても、暴れていたら当たる可能性があるという事なのだろう。拘束は、自由を奪うだけが理由では無いようだ。
「まずは平手50発だ。」
ぱんっ、ぱんっと叩かれ始めた。それほど強く無いようだが、普段は200回以上叩かれる事すらあまりないのに、既に240回は叩かれている。わたしは悲鳴を上げてしまった。
お父様が近づいてきて、屈みこむ。手が終わったので、足を拘束する為だろう。今回は急だったのでお父様自らやっているが、いつもだとメイドさんがやる仕事だ。
初めて拘束台に拘束された時、現代日本でこんな事をやらされるメイドさんは、どう思ってるんだろうと考えたりしたが、今は慣れたので、何も思う事はない。多分、メイドさんもそうだろう。
カチャカチャとベルトを締める音がした。それほど強くないので、少しは足が動く。
「次は罰板10だ。」
お父様は、わたしから離れた。壁にぶら下げられている穴開きパドルを取りに行くのだ。ケインや、穴の開いてないパドルや、ベルトを二つ並べてくっつけたような道具、トゥースなんかが下がっている。パドルには板製と革製が存在しているが両方ある。
説明を忘れていたが、お父様は、日本語を愛していて、外来語をなるべく日本語に言い換えたり言葉を作ったりする。パドルを、罰板や尻板などと表現しているネットのスパ漫画や小説を見た事があるので、お父様独自の造語ではないと思われる。
罰板と言っているが、革製の方のパドルを罰革や尻革とは言ってないし聞いたことはないなと、ふと思った。平手だけで290も叩かれて、まだ泣いている癖に、精神の方は余裕があるらしい……。
そんな事を考えている間に、お父様が、穴開きパドルを持ってきた。穴が開いているので空気抵抗が少なく、強烈な痛みを与えてくる恐ろしい板だ。
まだこの家の娘になっておらず、お尻叩きが憧れだけの存在だった頃。洋画に登場したそれを見て、一瞬でその脅威を理解出来た自分は、お尻叩き好きが高じた変態なのか、空気抵抗について思いつける自分は頭いいと喜べばいいのか複雑だったりした。だが、実際に痛みを味わったら、そんな阿呆な感想も吹き飛んだものだ。
「行くぞ。」
お尻には手とは比べ物にならない痛みが4回襲ってきて、耳と部屋にはいかにも痛そうな音が響く。ただ、音はそんなに強く叩かなくても鳴るので、音ばかり大きくてあんまり痛くないという場合もある。今回も多分そうだが、平手290の痛みが残るお尻には、充分痛い。
「痛いーっ。」
お父様の吐息が聞こえた。それほど強く打ってないのに、わたしが悲鳴を上げたからだろうか。それを口に出さないのは、平手のダメージを考慮しているからかもしれない。ただ、元々叩かれて喚いたりする事を禁じない人なので、煩いとしか思っていない可能性もある。
残り6回は素早く連続で飛んできた。ゆっくり叩かれると痛みが染み入るが、早いのも痛い。そろそろ痛いしか考えられなくなってきた。
「大分痣が増えたの。しかし、細鞭5も行う。」
痛みは変わらない筈なのに、痣が出来たと聞くと、物凄く痛くなったような気がしてきて、うえーんと幼い子供みたいに泣き出してしまった。そんなわたしを放置して、お父様はパドルを戻し、ケインを手に取る。
戻ってきたお父様が口を開く。
「そんなに泣くくらいなら、大人しく平手100を受けれていれば良かったのだ。」
「そうなんですけどー。」
うえっ、うえっとまだ幼い子供のように泣いているわたしを、お父様は呆れた顔で見ていたが、ケインをビュッと振るった。
「付き合ってられぬ。とっとと細鞭5を行う。」
ケインは、大抵のスパ動画でゆっくり振られるものだが、付き合ってられないと言っただけあって、素早く振られ、わたしは喚き散らして、暴れる事になった。拘束されているので、大して動かないし、ベルトが食い込んで痛いのだが、そんな事を考える余裕はないのだ。多分、後で縛られていた部分が痣になるだろうが、今はお尻の方が痛いのだ。
厳しい折檻が終わった。拘束を解かれた後もそのままの姿勢で泣きじゃくるわたしを、お父様は無言で見ていた。
「毎回これくらい打ったら、ひろみは口答えをせず、勉強を真面目にし、品行方正な娘になるだろうか……。」
背筋がゾッとしたわたしは、慌てて首をぶるぶると横に振った。
「これだけ打っても、今までと同じとは……。むしろ暫くやってみた方が、良いのやもしれぬ。」
「ち・ちがっ……。」
お父様が近寄ってきて、拘束台から降ろされた。立たせたかったのかもしれないが、お尻が痛いので、わたしはそのまま床にうずくまった。
「部屋まで連れて行ってやってもいいが、服を汚されそうだ。」
涙と鼻水で酷い事になってるわたしの顔を、お父様に嫌そうに見られた。
「酷い……。」
わたしはわーっと泣く。「イラスト描いていただけで、散々叩かれた上に、酷い言われよう。血の繋がっていない娘を虐待する冷酷な父親……。」
「泣いてる割に語るのう。」
お父様は口ではわたしをからかいつつ、部屋の隅にあるソファに俯せに寝かしてくれた。ぐすぐすと泣いていると、いつの間にかやって来たメイドさんが、お尻に薬を塗ってくれていた。
「沁みるぅ……。」
「我慢しなさい。」
お父様に手の甲を叩かれた。
「まだ叩く……。」
「やはりあれだけ打っても堪えないのだな。尻は薬を塗ってしまったので、両手を鞭で打とう。」
「ひっ。ご・ご免なさい! もうぶたないで!」
「もう二度と口答えをしませんと言いなさい。」
左手の甲を、ピシャピシャ打たれながら言われた。
「今は、もう口答えしません。」
「何故、勝手に変えるのだ。」
今度は右手の甲を叩かれる。左手より強く沢山叩かれた。
「だって……。二度とか絶対に無理だし……。」
「どうしようもない娘だ。」
お父様が軽く合図をすると、薬を塗ってくれたメイドさんが短い鞭を持ってきた。それを見たわたしは慌てて逃げ出そうとしたが、お尻が腫れ上がっていて上手く動けない。もたもたしているうちに、お父様は鞭を受け取った。メイドさんに押さえつけられて、両手の甲を差し出すようにされた。
お父様が、その差し出した手の甲に鞭を振り下ろしてきた。メイドさんはわたしの腕を抑えているので、間違って当たる事はない。
「甲だとあまり打つと血が出る。兼平君、ひろみの掌を上に向けさせてくれ。」
わたしに言っても聞かないと判断したらしく、お父様はメイドさんに言った。女性を、さんではなく君付けで呼ぶなんておっさん臭い気がするのだが、お父様は年齢的にはおっさんだ。見た目は、タルートリーという何処の異世界人だとツッコミたい名前に似合わず、和風な紳士だが。
「もう無理ー。」
わたしは泣き叫んで暴れた。
「尻と手以外を打つのは、意に添わぬのだが……。西洋では尻を打ちながら、腿の裏も打つな。中国などではふくらはぎか。どちらかを細鞭で20ずつ打つか。足の裏を細鞭で打っているのを見た事もあるが、歩くのに支障が出そうだ。」
「ヒッ。」
硬直するわたしをお父様が見下ろす。「大人しくして、掌をこの鞭で20打たれるのと、暴れ続けて、細鞭で腿の裏かふくらはぎを打たれた後に、掌の鞭、どちらがいい?」
「お・大人しくします……。」
わたしは自分から両手の掌を上にして、差し出した。
「宜しい。」
目を閉じて、歯を食いしばって、20発を何とか耐えた。
「酷い目にあった……。」
やっとお父様から解放されて、部屋に戻って来られたわたしは、ベッドに上半身を乗せてぐったりしていた。お尻が物凄く痛いので、完全に乗れないのだ。もう一度、二度と口答えをしませんと言わされずに済んだのは幸いだが、こっぴどくぶたれてしまった。「今まではするか? って言われても、脅しだけだったのに、全部やられた……。」
正確に言えば足は打たれてない。だが、減らされたとはいえ、手で散々叩かれ、パドルとケインも受けて、更に手を鞭で打たれたのだ。
「自業自得の部分も一杯あったけどさ……。そもそも何で叩かれたか、教えても貰えずに……。」
「手がかりを与えたのに。国語はそれなりに出来る割に、察しが悪い。愚かな娘だ。」
ギョッとして振り返ると、お父様が立っていた。
「ヒーッ。ぶたないで下さい。ぶたないで下さい。口答えもなるべく頑張ってしないように努力しますから、もうぶたないで下さい。」
「酷く怯えているように見えるのに、口答えしないと言えないあたり、大分、余裕がありそうだ。」
お父様が側に寄ってきた。
「ご免なさい、ご免なさい。」
しっかりと抱き寄せられたが、恐怖しかない。
「虐待を受けたかのようだ。」
「……。」
「自業自得と言っていたから、自覚はあるのに。」
「……ううう。」
「まあ良い。」
縮こまって震えていたわたしは、お父様に顎をつかまれて上を向かされた。恋愛物なら色っぽいが、そんな優しさはない。髪をつかまれてあげられるよりは遥かにマシだが。
予想に反して、お父様は少し疲れているように見えた。わたしをたっぷり折檻したので、さすがに疲れたらしい。いくら鍛えていても、折檻し続けるのは体力の要る事なのだろう。
「今日は、勉強をどれほどしたのだ。」
「うっ。」
その言葉に、わたしはやっと、何でこんなに厳しく折檻されたのかを理解した。「全然してないです……。」
「今日、わたしが帰って来た時、今日はたっぷり遊んだと言っておったな。」
「はい……。」
「その時、わたしは何て言ったのだった?」
「“だったら、夕飯の後は勉強しなさい”と……。」
わたしはまた縮こまった。
「なのに、お前がちゃんと勉強をしておるのかわたしが見に来た時、実際にお前がしていた事は何だった?」
「イ・イラストを描いていました……。」
ああ、そうだ。わたしは勉強がめんどくさくて、問題を1問解いただけで、家庭学習用ノートを横に押しやり、落書き帳にイラストを描き始めた。しかもノリノリで描いていたので、お父様とのやり取りは、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだ……。
「しかもお前は、下手だが、“一所懸命“に描いたと言っておったな。」
「は・はい……。あの時、お父様が冷たい目で見てきて不思議だったんですけど、そりゃそうですよね……。」
「楽しそうに何か書いているので、勉強を楽しめるようになっておったのかと喜んで見てみれば……。」
勉強している筈のわたしが、イラストを楽しそうに描いていた。しかも、下手だけど、力を込めて描いたなんて聞いたお父様の心境は……。これがお母様だったら、何処に力を入れてんだよ! と怒鳴りつけられて、びんたの一つも貰っていただろう。
冷静なお父様だから、無言でお尻を叩かれただけだったが……。
「そりゃ、思い出すまで叩くなんて、言いますよね……。」
「しかもあれだけ尻を叩いたのに、思い出さぬのだぞ。子供でなければ痴呆を疑う所だ。」
お父様が溜息をつく。
「ほ・本当に……。すっかり忘れちゃってたんですよね……。」
「血の繋がらない娘を虐待とまで言われた……。」
「ご・ご免なさい……。娘思いの素晴らしいお父様に、酷い暴言でした。」
お父様からすれば、勉強しないで遊んでいた事を謝るどころか、頓珍漢な事を言うわたしは、誤魔化そうとしているように見えたのかもしれない。それでも数を減らしたのは、わたしの本心が分からなくなったのかもしれない。
正直それでも叩かれ過ぎな気もするのだが、だからと言って虐待は明らかに言い過ぎだった。
「明日からはちゃんと勉強するのだぞ。」
「はい、お父様。」
お尻が痛くて座るのが厳しそうだが、さすがに色んな意味でこの言葉に反抗する気はなかった。
お父様が出て行った後、ベッドにもぐりこんだ。まだお尻が痛いが、疲れて眠たくなってきた。お風呂に入ってないが、1日くらいいいだろう。薬を塗って貰うくらい叩かれているのだし……。明日、叱られそうな気もするが……。
お尻が痛くてそう簡単に寝られないかもしれないが、わたしは目をつぶったのだった。
20年3月21日
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