虐待系わたしが叩かれる話

お出かけ 両親から

「爽やかですねー。」
 お姉様が微笑み、
「うむ、気持ちが良い。」
 お父様が頷く。
「来る事にして良かったねー。」
 体力を持て余しているお母様が軽く走り出し、皆より少し先の位置で振り返る。
 休日に、出かけたいと言い出したお兄様に皆が同意し、こうしてやって来た。林の中にある散歩道を歩く家族達は楽しそうだ。だが、わたしは沢山ある荷物に喘ぎながら、よろよろと歩いていた。全ては持ちきれないので、使用人も少しは持っているが、多くて持ち辛い。泊りなので、着替えもあるのだ。使用人がいるのに、わたしが多く持たされているのは、ただ単に苛めである。貴族の玩具として短い人生を送る、孤児院から買われた子供の扱いとしては、随分と優しい。とはいえ、大変である事に変わりはない。
 疲れたわたしは荷物を下に置き、立ち止まった。家族達が歩いているのをぼんやりと見送る。このまま黙って立っていたら、はぐれて自由になれないかなと少し思った。林で迷うし、食べる物も無く、すぐ餓死するだろうが……。
 わたしが付いてきてないのに気づいたお兄様が戻ってきた。
「何やってんだ。」
「疲れて……。」
「甘えてないで急げよ。皆、怒ってるぞ。」
 お兄様にお尻を叩かれた。「うわっ、汗で濡れてる。」
 お兄様が手を上げると、使用人がやって来た。
「荷物を少し持ってやってくれ。」
「はい。」
「お兄様、有難う御座います……。」
「お前の為じゃない。早くホテルに行きたいんだよ。」
 お兄様は素っ気なかったが、どのみち楽になったのは事実だ。
 ホテルに着いた。少し楽になったとはいえ疲れたので、部屋の隅で伸びているわたしの側へ、お母様がやって来た。
「あんた汗臭いから、温泉に入ってきな。」
「はい……。」
 家だったら、誰よりも先にお風呂に入るなんて有り得ない。お出かけに連れて来て貰って、良かったと思った。


 家だとわたしは使用人達と同じ物を食べるが、今日はいい物を食べさせて貰えた夕食の後。
「トランプがやりたいです。」
 お姉様が、わたしが運んだ荷物のうちの一つからトランプを取り出し、言った。
「何やるんだ?」
「神経衰弱!」
「あたし無理だな。勝負にならない。」
 お母様は主婦をやってるのが勿体無いくらい、優秀な人間だそうだ。なので、こういう発言をするのだろうと、わたしは他人事なので気楽に見ていた。そんなわたしの側にお母様がやって来て、わたしはトランプの前に座らされた。
「ひろみにやらせるのか?」
 質問したのはお父様だが、実子二人とわたしも疑問である。いつも、わたしは蚊帳の外なのに……。
「うん。三人じゃつまんないじゃん。だから、ひろみにやらせる。」
 お母様はニコニコしながら言う。そしてわたしを見た。「最下位になったらお尻叩くからね。頑張れよ。」
「えっ……。」
「罰ゲーム付きか。それはいいな。」
 お兄様は楽しそうだが……。
「え、わたし達もですか?」
 お姉様は不安そうだ。
「いや、ひろみだけだよ。さととるみを叩くわけないでしょ。ルトーちゃんを叩いたら、面白そうだけど。」
「……。」
「ルトーちゃん、目がマジで怖いよー。冗談だからね。」
 お母様が焦っているのを、わたしはニヤニヤ笑いながら見てしまった。気づかれたら叩かれるが、幸い気づかれずにすんだ。ただ、お父様はこちらを見ていた。
 トランプが並べられ、神経衰弱が始まった。何回目かの後。
「えっと、これと同じの……。」
 お姉様が迷っていた。
 『あそこにあったな。』
 わたしは分かったが、彼女は位置を把握していないようで、考えている。
「あー、違ったー。」
 間違ったのを引いて、お姉様が残念そうな声を出した。次のお兄様は、それをあっさりと当てていた。「あー、そっちだったのね。とられちゃった。」
「るみちゃん、暫く、家庭学習用の奴、記憶問題を増やすね。」
「お母様! 何でも、勉強に繋げないで下さいよー。」
「しかし、それはいい事だの。」
「はははは。」
 楽しいやり取りの後。
「うーむ。こっちだったような、そちらだったような。」
 今度はお父様が唸っている。
「さっきは、あんな事を言ってたのに。」
 お姉様がむくれている。
「大人はねー。勉強しなくなるからね。あ、あたしは特別製だから、参考にしちゃ駄目だよ。」
「うーむ。」
 お父様が違うのを取ったので、思わず声が出た。
「「あ。」」
 お母様も声を出したので、計らず重なってしまった。お父様がこちらを見たが、何も言わずトランプを見た。
「お前達の言う通り、間違えているの。」
 お父様はトランプを戻した。
 そして……。神経衰弱は終わった。最下位になりたくないので、頑張ったつもりだったが、負けてしまった。
「ひろみ最下位だねー。じゃ罰ゲームね。」
 わたしはお母様の膝に乗せられ、それなりに強く叩かれ始めた。
「もう終わりのするのかの?」
 お父様の声が聞こえたが、お尻の痛みで聞いている余裕がなかった。目を閉じて、拳を握り、痛みに耐える。実子達の前なので、叩く強さは普通だが、そうでなかったら、もっと痛く叩かれたんだろうなと思う。
「……何回、叩くんですか? 多くないですか。」
 お姉様が少し怯えた様な声を出したので、お母様が手を止めた。
「50回だよー。」
 本当だったら100叩きだったろう。怖がってくれたお姉様に感謝する。
「次は7並べだって。」
 お兄様がのんびりした口調で言った。


 トランプ大会が終わった後、わたしはお父様に手を引かれて、窓際に置かれている椅子の前に来た。そこは、椅子に座って、景色を眺めて楽しめるようになっていた。最後のババ抜きでは負けなかったが、7並べでは負けたので、合計100叩きされた。お尻がそれなりに痛い。
 お父様の膝に乗せられて、裸のお尻を叩かれ始めた。今日は泣かずに済むかなと思ったが、そうはいかなかったようだ。
「お母様ばっかり叩いていたから、自分もって、思ってるのかな。」
「はははは。罰ゲームの時、ルトーちゃん羨ましそうだったもんねー。」
「そんな態度はとっておらぬ。」
 わたしのお尻を叩きながら、お父様が不快そうな声を出した。叩く力は変わらなかったのでホッとするが、お父様を怒らせるのは止めて欲しい。被害がわたしに来てしまう。
「ひろみは散歩道では遅くて皆に迷惑をかけたし、わたしをからかうザンを馬鹿にした目で見ていた。神経衰弱も手抜きをしていた。だからだ。」
「神経衰弱は誤解ですー。」
「覚えておっただろう。」
「あれはたまたま……。」
「信じぬ。」
 お父様に冷たく言われてしまった。
「何だ。お仕置きだったのか。」
「ちょ、人の知らないうちに……。こいつ。」
 お母様が怒っているが、怖がる余裕がなかった。
「ザン、叩くなら明日にしなさい。」
「はーい。」
 ぱんっ、ぱんっと叩かれる痛みに耐えていたが、お母様にも叩かれた後なので、声が出る。
「痛い、いたっ。」
 数は分からないが、しゃくり上げる程叩かれた後、やっと解放された。一日分を一気に夜に受けた気がする。いつもなら放置されるが、お父様に軽く抱かれた。驚いたが、今日は初めての事がいくつもあったので、これもそうなのかもと思った。
「非日常は、新鮮でいいものだ。」
「そうですね……。」
 泣きながら同意した。お尻叩きや荷物運びは大変だが、家族の遊びにも参加させて貰ったし、お父様にだっこもされたし、ずっとこうならいいのになと思った。まあ、わたしもーと甘えたお姉様に邪魔されて、すぐ終わりになってしまったのだが。



20年4月13日
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