魔法界 落ちこぼれ

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2 村長夫婦

 村長夫婦の家に着いた。軽そうな男性と、ほわほわした雰囲気の女性が出て来た。わたしには村長夫婦というより、出来たてほやほやカップルに見えた。
「お疲れ。ザルト君。ひろみとは仲良くやっていけそうかい?」
 村長が見た目と変わらない軽い調子で、ザルトの頭をぽんぽん叩きながら言う。
「ちょっと村の中を歩いたぐらいじゃ、分かんないよ……。」
 ザルトの感想は当然と言える。わたしだって、彼が優しそうな性格くらいだとしか分からない。
「そりゃそうか。ま、これからゆっくり仲良くなっていけばいいよ。」
 村長が笑う。
「そうする。」
 ザルトが頷く。
「それってどういうこと? そりゃ友達はいた方がいいだろうけど。ザルトって面倒見が良い性格とか?」
 娘を宜しくって事なんだろうかとわたしは思う。まだ娘になってないのに、気の早いことだ。
「君らは将来結婚して、次の村長夫婦になるんだ。今から仲良くなっておいて、悪いことはないよ。」
 村長は平然と言ったが……。
「へ!? もうわたしの将来が決まってるって、どういうことなの!? まだおじさん達と、親子の儀式すらしてないのに。」
「確かに儀式はまだだけどね……。ザルト君は次の村長になることが決まっている。そして、次期村長の妻は現村長の娘がなるのが、この村の決まりなんだ。僕達が君を引き取れたのも、ザルト君の奥さんが必要だからなんだよね。」
 村長はわたしの頭を撫でながら続ける。「だから、ひろみ。君が大人になったらザルト君と結婚することは決定事項なんだよ。」
「えええー……。わたし、この村に来たばかりなのに……。しかも、魔法が全然使えない落ちこぼれだし……。村長の妻とか重要そうな役職は無理なんだけど……。」
「大丈夫よ。魔法の才能がなければこの世界に来てないから。」
 奥さんに言われたが……。
「ないから、わたしはこんなことになってるんだけど? しかも、親になりたい人達も居なくて、ここに捨てられたんだし。」
 わたしは思わず、痣だらけの自分を指さしながら怒鳴ってしまった。
「それは……。」
 奥さんが俯くと、村長が彼女の肩をぽんぽんと叩いた。
「それは、あっちの人達がお行儀良い生き方をしているからさ。横に倣えと、周りの顔色を伺っている。でも、僕達は違う。この村では、人に迷惑さえかけなければ何をしてもいい。無理に周りに合わせる必要もない。」
「えーと。」
「出る杭は打たれるって言葉があるだろう? あっちでは規格外の人間は生き辛いんだよ。だから、君もこっちに来ることになった。」
「それは分かる。出るって言うか、へっこんでるけど。」
「むしろ、こっちでは君は人気者でね。魔女王から打診された時、誰が君を引き取るか揉めたくらいさ。」
「えーっ。」
 わたしは驚いて、側にあった机に足を取られて転んでしまった。「あたたた……。」
 奥さんが側に来ると、癒やしの魔法をかけ始めてくれたが……。
「一番酷いのは、今ぶつけたところじゃなくて、お腹の傷みたい。」
 魔法の光りは、ぶつけた足ではなくて、お腹に注いでいた。場所を選べないって事は、重症から治す魔法って事なのだろうか。
「……あー、治すのは後にしよう。虐待の跡を確認しておきたいんだ。」
「はい。」
「とりあえず座ろっか。あ、ザルト君、付き合わせて悪かったね。もう帰ってもいいよ。」
「ほーい。」
 ザルトが手を振る。「ひろみ、また、後でな。」
「う・うん……。」
 許嫁になってしまった相手に気軽に手を振られて、わたしは照れていた……。そんなわたしを、村長夫婦はニコニコしながら見ていた。





15年10月26日
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