藤津家

4 侮辱 父から

 わたしはお父様の部屋の前に入れて貰った。
「あ・あの……。わたしが、全然言う事をきかなかったり、すっごい反抗したりしたら、追い出されたりするんでしょうか?」
 わたしの言葉に、お父様が顔をしかめた。
「何を言うとるのだ。」
「えっと……。別に、今、反抗したい気分だとか、そういうんじゃなくて……。ただ、気になったというか……。」
「……。」
 お父様が口を開きかけたが、トントンとノックの音がした。「誰だ?」
「姫香です。」
「入りなさい。」
 お姉様が入ってきた。彼女はわたしを見て、少し驚いた顔をする。それから、お父様を見た。「ひろみは今は無視していい。何だ?」
 お父様の言葉に、お姉様は嬉しそうな顔をすると、ソファに座ったお父様の後ろへ回り、軽く抱きついた。
「暑いですし、海水浴に行きたいです。お父様、行きましょう。」
 お姉様が甘えた声を出しているのを、わたしは少し羨ましい気持ちで眺めた。
「良いな。アトルと陽明には言ったのか?」
 お父様の、お姉様へ向ける表情は優しい。わたしにはしてくれる事のない顔だ。少しだけ、切ない。
「お兄様へはまだです。お母様へ言ったら、お父様から許可を頂きなさいと言われたので、言いに来ました。」
「そうか。行く事にしよう。陽明に言いに行きなさい。」
「お父様、有り難う御座います。嬉しい♪」
 お姉様がピョンと跳ねた。それから、部屋を出て行った。楽しそうでいいなと思っていると、お父様の手が伸びてきて、ソファの背もたれに俯せに寝かされた。戸惑っている間に、スカートをまくられた後に、パンツを下ろされた。びしっ、ばしっと平手が飛んできた。
「お前は連れて行かない。家に居なさい。」
「はい……。」
 何となくそうなるだろうなと思っていたが、思った通りになった。
 それはいいが、叩かれる必要はあるのだろうか。今まで、冷たいし、ちょっとした事でも多く叩かれたりはしていたが、こんな無意味に叩かれたのは初めてだ。ばちん、ばちんと強めに叩かれて、涙が出てきた。
 しゃくりあげると、お父様の手が止まった。
「泣くのが早い。」
「だって、何で叩かれているか分からないですし……。」
「反抗的な態度を続けたら捨てるなどと、わたしを侮辱するからだ。」
 苛立ったような声を出された。やっと理由が分かった。
「え、じゃあ、海水浴に連れて行って貰えないってのも……。継子苛めじゃなくて……。いだいっ、いだいっ。」
 ばっちん、びっちんと強いのが飛んできた。
「罰に決まっとるだろう! そんなに苛められたいのなら、今度からそうするぞ。」
「ご・ご免なさい、ご免なさい! 苛められたくないです〜。失言でしたーっ。」
 びっちん、びっちん、ばっちんと強いまま連続で叩かれて、わたしは泣き叫ぶ。このまま、痣だらけになるまで強く叩かれるのかと思うくらい長く続いたが、少しして元の強さに戻った。
「たっぷり打ってやるから反省しなさい。」
「はいー!」
 こっぴどくぶたれて、散々泣かされたわたしだった。


 自分の部屋に戻ってぐったりする。
「滅茶苦茶ぶたれた……。痣が一杯出来てそう……。」
 メイドさんが薬を塗りに来てくれるといいが、これから出かけるので、お父様は忘れているかもしれない。
 半分諦めたわたしの耳に、窓を叩く音が聞こえた。そちらを見ると、お姉様とお母様が立っていた。あの、花壇で作業しているお祖父様が丸見えになった窓だ。そのまま外に出られる窓で、掃き出し窓やテラス窓と言うらしい。
 お尻が痛いのでよろよろ歩きながらそこへ行き、わたしは窓を開けた。
「何してるのよ。ひろみは話を聞いていたでしょ。」
「ひろみはのんびり過ぎますわ。さっさと準備なさいな。」
 お姉様とお母様に睨まれた。お父様は、二人に、わたしが海水浴へ行けない話をしてないらしい。
「いえ……。お父様を怒らせて、罰として、連れて行って貰えないんです……。」
「泣いた顔してると思ったら……。皆で楽しめると思ったのに。」
 お姉様は呆れた顔をした後、さっさと車へ向かって歩いて行った。彼女はわたしが来るものと思ってくれた上に、楽しみにもしてくれていたと分かり、嬉しくなった。
「どうして笑っているのか、分かりませんけども……。どんないけない事をしたんでしょう。帰ったら、じっくりお尻に訊きますからね。」
 お母様に睨まれた。
「お・お尻は、お父様に叩かれまくったので……。」
 わたしは身を竦めた。お尻を叩かれながら何をしたのか言わされるのは、既に経験済みだが……。叩かれるだけでも痛くて辛いのに、説明もするのは中々ハードだった。上手く言えなくて、強めに叩かれたりするオプションもついてくるので、焦ってしまって、より叩かれてしまう。
「そのようですわね。メイドが薬を持ってきましたわ。」
 お母様の言葉に振り返ると、メイドさんがやって来ていた。お父様は、ちゃんとメイドさんに指示をしてくれていた。疑って悪かったなと思う。
「ノックをしたのですが、お返事がなかったもので……。」
「いいえ。有り難う御座います……。」
 そんなやりとりの後、待っていたお母様が口を開く。
「まあいいですわ。そのかわり、正座でお説教をたっぷりしましょう。」
「はい……。」
 身を竦めたわたしを見て、満足そうな顔をすると、お母様は車へ向かって歩いて行った。足がとても痺れそうで、わたしは気が重くなった。お尻を叩かれながら叱られる方がいいが、出来る状態ではないので、仕方ない。
 お母様も居なくなったので、わたしは窓を閉めた。
 お尻に薬を塗って貰う為、わたしはパンツを下ろして、スカートをまくり上げてから、ベッドに俯せになった。
「えーと、お願いします……。」
「はい。」
 メイドさんが側にやって来た。何回されても慣れなくて恥ずかしいが、女としてはそれでいいのかもしれない。傷に薬が染みる痛みに耐えながら、わたしはそんな事を思った。
 ちなみに、その後、海水浴から帰って来たお母様だけでなく、何故かお父様も参加して、二人がかりで2時間くらいはお説教されて、また泣かされた。正座させられたので足が痺れてしまい、お父様から情けないと、追加で更に叱られてしまうという散々な一日だった……。



20年4月13日
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