小説版 師匠と弟子

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  12 ミスヴィスとクロートゥルのお仕置き 後編  

 依頼終了後。エイラルソスがクロートゥルの腕を掴んだまま、キョロキョロしながら歩いている。
「師匠……。ご免なさい。反省しました。心を入れ替えます。もう、偉い人に会いたくないなんて、我が儘は言いませんから……。」
「駄目だ。我が儘の罰を与えないと。クロートゥルの為にならない。」
 エイラルソスはクロートゥルのお仕置きを出来る場所を探しているのである。立ったまま叩かれることもよくあるのだが、今回はしっかりお仕置きしたいらしい。そういう時は家の中の場合、地下室だと、普段は階段に座って叩かれたりもするのに、わざわざエイラルソスの部屋まで連れて行かれたりもする。
 なので、クロートゥルは焦っていた。外で下着まで下ろされて叩かれるのは御免被りたい。故郷の村でそうされた時は、クロートゥルが懸念していたのとは違い誰にも笑われなかったが、違う場所では笑い声が聞こえた。村人はクロートゥルを知っているから、笑わないでいてくれただけなのだ。村で叩かれた時に、誰も笑わなかったとエイラルソスに言われたことを指摘すると、恥ずかしいのも罰になっていいのではと言われてしまった。更に、そもそも叩かれるように事をするお前が悪いとも。開き直っているようにも思えたので反論したかったが、正論なので言い返せなかったことを覚えている。
 だからクロートゥルとしては、どうしても外でのお仕置きは避けたいのだ。
「師匠ー。お仕置きは当然なので受けますけど、別に外じゃなくても良いでしょう? 家に帰りましょうよー。」
「我が儘の罰なのに、更に我が儘を重ねるとは……。そうだな。クロートゥルの言う通り、家に帰ってしっかり鞭で打つことにしようか。」
「ひっ。ご・ごめ・ご免なさい。そ・外でのお仕置きでいいです……。」
 クロートゥルはガタガタ震えながら謝った。鞭で叩かれるくらいなら、恥ずかしい方がよっぽどマシだ。
 エイラルソスが呆れた顔で溜め息をついたが、また引っ張られ始めたので、鞭は勘弁してくれるようだ。クロートゥルはホッと息を吐き出した。
 うろうろ探し回った結果、いくつかのベンチが置いてある広場が見つかったので、クロートゥルは覚悟を決めた。恥ずかしいのもそうだが、かなり叩かれる筈だ。恥ずかしさを軽減する為にも、なるべく声を出さないようにしなければと思う。それに、そこに集中していれば、笑われても恥ずかしさを感じずにすむ。
 ベンチに腰掛けたエイラルソスがクロートゥルを見た。
「ほら、尻を出して膝に乗れ。」
「いきなり裸の尻ですか……。」
「我が儘を2回も言ったんだから、それくらい当然だろう? それとも今から家に帰り、鞭で……。」
「出します、出しますから、鞭は勘弁して下さい!」
 二人のやりとりに、広場に居た人達が何事かという顔をしている。エイラルソスだけではなく、クロートゥルの顔も売れ始めているので、だだでさえ注目されやすいのだ。
 『それなのに、皆の前で裸の尻を叩かれるとは……。師匠は厳しすぎるぜ、ほんと。』
 ローブをたくし上げ、下に穿いているズボンとパンツを下ろす。ローブが目隠しになるので、息子を衆人環視に晒すという目には遭わずに済むが、お尻はそうもいかない。クロートゥルは、ぴちぴちの女の子ならともかく、30近いおっさんの尻なんて誰が見たいんだ……と思いつつ、エイラルソスの膝に俯せになる。
「しっかり反省するんだぞ。」
 言葉と共に手がお尻に降ってきた。エイラルソスはそれ程、怒っているようにも見えなかったが、実際は違ったらしく、最初の1発から大分痛かった。クロートゥルは、歯を食いしばり、手を握りしめ、痛みに耐える。
 じっと耐えていると、手が止まった。お尻の痛みからすると、まだ早い。気分的にはもう終わってくれても構わないが、そうはいかないだろう。
「……どうしたんですか?」
「いつもなら、痛いだの、ご免なさいだの言うのに、何も言わないので気になって……。」
 エイラルソスが戸惑ったような声を出した。
「ああ、それは。人に見られながら叩かれるのが恥ずかしいので、声を出さないように集中することによって、恥ずかしさを軽減しようと……。」
「成る程。でも、それでは、外で叩いている意味が無いな。だったら、少し弱めるか。痛みに集中出来ない分、恥ずかしさも感じるだろう。」
 弱めに叩かれ始めた。痛みは感じるが、それ程強くないので、エイラルソスの言葉通り、周りを意識し始めてしまう。 子供の、「あのお兄ちゃん、大人なのにお尻ペンペンされてるよー。」という声が聞こえた。笑い声も聞こえる。
「……師匠って何でそう、厳しいんですか……。」
「厳しくしないと、クロートゥルの為にならないからな。」
「ううう……。」
 立ったままぺしぺし叩かれるような強さで叩かれ続ける。早く終わってくれとクロートゥルが祈っていると……。
「クロートゥル……。」
「わー……、ほんとお尻叩かれるんだ……。」
「こ・こんな人前で……。」
 勇者一行の声がした。気のせいであって欲しいと思うクロートゥルだったが……。
「勇者達か。」
 エイラルソスの声が、それを否定した。
「み・見られた……。」
 クロートゥルから見える範囲に、勇者一行が立っていた。
「見ちゃった。これでおあいこだねー。」
 ミスヴィスが悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「そういや、そうだな……。裸の尻を見た仲になったのか……。」
「変な言い方しないでよ。」
 ミスヴィスが顔をしかめている。
「勇者みたいな若くてハンサムな男が側に居て見放題なのに、俺みたいなおっさんの尻なんか、今更どうでもいいか……。」
「勇者君のお尻は見たことないから! もう、クロートゥルは何、訳の分かんないこと言ってんのよ。」
「いや、男は女の子のお尻を見られたら嬉しいんだから、女の子は男の尻が見られたら嬉しいのかなって。」
 ミスヴィスが呆れた顔で言う。
「残念ながら違うから。」
「そっかー……。」
「そもそも、全ての若い男が、女の子の尻を見たい前提で話されるのもちょっと……。」
 勇者が戸惑ったような顔になっている。
「クロートゥルは、自分基準で物を考えるからな……。」
 エイラルソスが溜め息をついた。
「勇者って性欲薄いのな。年齢的にはむしろ強い時期の筈なのに。」
「そんなこと言われてもなー。」
 勇者が困った顔をした。
「あー、勇者の性欲が強かったら、可愛い女の子二人と旅なんて出来ないよなー……。」
 クロートゥルは俯いた。「勇者、ご免なさい。魔王を倒す為に頑張ってる勇者に言うことじゃなかった。」
「いや、別に謝られる程では。人によっては、下世話な感じに言うから。それくらいなら別に。」
「若い男女だと、そんな想像をされるのか……。」
 エイラルソスが苦笑する。
「俺に言われるくらいなら、まだ良いけど。」
 勇者が顔をしかめる。
「ミスヴィスちゃんやマーフリナちゃんにまで言うんだ。下品だなぁ。」
「僅かな娯楽の一つみたいな感じなんじゃないの。」
 ミスヴィスが言う。「嫉妬とかもあるかも知れないし。」
「皆に注目されて狡い……と。」
「そうそう。」
 勇者とミスヴィスが頷く。
「……ずっと叩かれているのに、喋る余裕があるんですね……。痛くないんでしょうか……。」
 マーフリナが静かに言う。
「周りの声とか聞こえて恥ずかしい思いをするようにって、師匠がわざと弱く叩くから……。」
「……エイラルソスって、ほんと厳しいのな……。」
「クロートゥルの為だ。」
 エイラルソスが当然だと言いたげな声を出す。「勇者達と話している間に、大分赤くなったから、そろそろ許してやろう。ほら、立て。」
 お尻をピシャッと叩かれた。






17年2月
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