少女ザン番外3 シィーとクーイ

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  鉄釘の鞭の記憶  

 酷くいらいらしていた。クーイの為の鞭選びで、見つけてしまった鉄釘の鞭。消してしまいたい記憶の底に封印された孤児院での出来事。それが、掘り起こされてしまった。
 あれは、まだシーネラルが幼かった頃。ただ生きるだけが精一杯だった頃…。

 朝。大きな部屋に固まって寝かされている子供達が、蹴られたり棒で打たれながら、目を覚ます。大きな子達は先生達の足音で目を覚ますが、幼い子供達には出来ない芸当だ。普通に育った者が旅する時に、寝ている間に殺されないよう訓練することが、孤児院で育つと普通に染み付いてしまう。
 子供達は痛い目に合わされても、殆ど泣かない。泣くともっと酷い目に合わされるし、痛い目に慣らされてしまっているからだ。シーネラルもすでにそうなって大分経っていた。母親に捨てられたと理解し、ここから出て行くことも出来ないと知ってから、彼は他の子供達のように、ここの理不尽な扱いに何とか慣れてきた。

 僅かで味のない朝食が終わると、畑へ向かう。鎖がつけられ、逃げられないようになっている。通りすがりの旅人などに見られても大丈夫なように、鎖は服に隠れて見えないようになっている。先生達が監視する中、子供達は畑仕事を黙々と行う。
 大抵、皆は自分のことだけで精一杯で、弱い者、幼い者を助けてあげられないのだけど、中には、なんとかそうする子もいる。忘れられたらどんなに幸せかと思う記憶の中にいるその少年は、線が細く、彼こそ、助けを必要としている感じの子だった。他にも数人が幼い子達を助けてくれたけど、彼だけが強く記憶に残っているのは、その子が鉄釘の鞭で殺されたからだ…。

 何をしたかは覚えていない。何もしていない可能性も高い。普通の孤児院は、理不尽と嘘と暴力で満ちていたから。シーネラルは先生の一人を怒らせ、鞭で殴られていた。孤児院でも、基本的にはお尻を叩くのだけれど、所かまわず打たれる方が多かった。その時、シーネラルが受けていたのも、罰でもなんでもない、暴力だった。
「そんなに殴ったら、シーネラルが死んでしまいますっ。」
 少年が黙っていたら、死んだのは自分だったのか。分からない。そうかもしれないし、ぼろぼろになってはいても、生きていたかもしれない。
 ぎゅうっと抱きしめられた。
「お願いですから、彼を許して下さい。」
「邪魔だっ。」
 嫌な音が聞こえた。酷く蹴られた少年の何処かが、多分骨折したのだろう。少年がうめく。シーネラルはさらに強く抱きしめられた。少し苦しかったが、それどころではなかった。
「大丈夫だから…。」
 シーネラルが必死に言っても、彼はうんとは言わなかった。
「どうしてこんなに殴るんですか?俺達はそんなに殴られなければならないのですか?」
 苦しげに息を吐きながら、


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