学校のお話

12 学校へ行く

 馬車で学校へ来た。和也は何かのテーマパークで、馬車に乗った経験はあったものの、やっぱり珍しくて面白かった。他の子供達も遠出をした経験がないのか、和也同様目を輝かせながら、馬車の移動を楽しんだ。
 学校の建物は、日本にあるものとは少し違っていたが、妖魔界の建物全てが日本とは違うので、和也は、特に強い感想は抱かなかった。
 学校の中を進んで行った。普通の教室以外にも、特殊な教室があるのは日本の学校と一緒だった。ただ、なんだか怪しげな雰囲気を持つ部屋もあった。和也以外の誰も気にしなかったので、彼は質問し損ねた。そこは、お仕置き部屋なので、体罰反対派の和也は知らなくて正解だ。
 空き教室へ皆で入った。
「ここが、普通の教室だ。」
 ネスクリが皆へ言った。皆はきょろきょろと周りを見た。大人達は、立ったまま「へー。」だの「ほう。」だの言っているが、子供達は興味津々、歩き回った。
「黒板が無い。」
 和也は言った。
「和也君、黒板ってなあに?」
 ディザナが言った。和也が答えようとした時、
「これは何ですの?」
 アトルが言った。部屋の真ん中に機械じみた台があった。机と椅子は、放射状と言うのだろうか、その台に向けられて置かれている。
「俺は黒板の本当の意味は分からないが…。多分、これがそれに当たるんじゃないかと思った。」
 ネスクリが言うと、その台へ近づき、ボタンを押した。ぶうんと低い音が鳴り、台の上に、白い球のような四角のようなの物体が現れた。「これに教師は字を書く。」
 ネスクリは言いながら、その物体に指を走らせた。ホワイトボードにマジックで書くように、黒い文字が書かれた。
「すっごい黒板…。」
 和也は呆然とそれを見た。
「まあ、凄い!」
 百合恵が声をあげた。「周りを回ってみたけど、これ、何処から見ても、ちゃんとネスクリさんの字が見えるわ。」
 ターランは、ネスクリが字を書き始めた時から、それに気付いたらしく、教室を回っていた。百合恵はターランの真似をして分かったのだった。
「立体映像だね。これ、会議室にあったけど、何の装置なのかが分からなかったんだ…。こんな便利な代物だったなんて…。」
「え、こんな物あったか?」
 トゥーリナが当惑して言った。
「君は会議室なんて行かないから、気付かなかったんだよ。」
 ターランは微笑んだ。
「会議なんてしないからなー。」
 トゥーリナは言った。「でも、ターラン。お前さ、リーロに訊けば良かったじゃないか。」
「会議室は使ってないから、忘れていたんだよ。これを見たから思い出したけど。」
 ターランは、立体映像式白板(はくばん。ホワイトボードの事)を眺めながら言った。
「うーんとさ、これってホログラム…フィ?とか言う奴だっけ。僕は、前に科学館で見たけど、触れなかったよ。」
 和也は不思議になって聞いた。
「あ、そうだよな。売春宿にもあるけど、あれも見られるだけで…。」
「トゥーッ!!」「トゥーリナったら。」
 ターランが叫び、百合恵が顔をしかめ、ザンは呆れ顔をし、ジャディナーは子供達を不安げに見た。
「あ。やべ。」
 トゥーリナが頭を掻いた。
「売春宿って何?」
 当然のように子供から質問が出た。
「女とお子様と結婚した男には、関係ない所だ。」
「…。」
 おませなソーシャルは顔を赤くし、奴隷でそういう経験ありのアトルはトゥーリナを睨み、和也とディザナとリトゥナはぽかんとした。
「品のない男だ。娘もな。」
 ネスクリは突き刺すように言った後、首を振って気分を変え、さっきの続きを話す。「…続けるぞ。教師は、ここに書いた字を元にして、授業をする。」
「教科書はないの?」
 和也が言った。ネスクリが彼を見た。ターランが皆へ教科書の説明をした。
「教師はそれを持っているが、生徒が持っているのは、教師の言葉や、これ(白板)に書かれた言葉を写すノートだけだ。」
「ふーん。なんか大変そう。」
「口承よりましだろう。紙が高価だった時代は、全てそれだからな。今でも大切な事は残さないし…。」
「???」
「口だけで教える事だよ。」
 ターランは分かっていない人達に教えた。
「何で紙に残さないの?」
 和也は不思議に思って訊いた。
「料理番組では、伝統の味とか、お店の隠し味なんかは見せないわよね。盗まれるのを防ぐ為にね。きっとそんな感じよ。」
 百合恵が答えた。
「あ、そっか。」
 和也は納得した。
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