学校のお話

10 本題へ入ろうよ

「和也って、やっぱり子供なんだなー。」
「むーっ。」
 皆が居る部屋の扉を開けて、和也とトゥーリナが入って来た。
「どうしたの?喧嘩?」
 百合恵が言った。トゥーリナは、彼女を見ると、答えた。
「和也を迎えに行ったら、俺が来るのを予知したえおが、タルートリーの奴と一緒に居たんだ。」
「懐かしい。えおに会いたいな。」
 妖魔界にえおが居た時、仲良くしていたリトゥナが言った。
「いい年の大人になってたぞ。中身は変わっていないけどな。」
 トゥーリナはそこまで言って、ちょっと笑った。「だから、怖いぞ。」
「怖い?」
「俺が、えおみたいな言葉で話す所を、想像してみろ。」
「怖い事を言わないでよ。」
 ターランがぞっとしたような顔で言う。
「今のえおが、そうなんだ。あいつ確か20代くらいだから、まだ若々しいけど、でも、いい年した大人が、あの赤ちゃん言葉だぞ?顔で笑ってやったけど…。」
 トゥーリナは顔をしかめた。
「えおは傷つきやすい子なのに、そんな態度を取ったの?」
 百合恵が非難した。
「ガラス細工の心の持ち主に、そんな態度をとるわけないだろ。でも、あいつは鋭すぎるからなー。テレパスだし…。多分、気付いてたな。和也と話し始めたら、すぐさよならって言って、居なくなった。」
「…テレパスって何?」
 和也がボソッと言った。
「人の心を読める能力の事だよ。テレパシーね。」
 ターランが教えた。「ま、一種の超能力者さ。」
「あの赤ちゃん言葉の人、凄い人なんだ…。」
「で?続きは?」
「まあ、懐かしかったし、ザンが居なかったから、ちょっと話し込んだんだ。そしたら、和也が拗ねて、何処かへ行こうとしたんだ。だから、やっぱり子供だって、言っていたんだ。」
「ザンが居なかったって?」
 妖怪のザンが言う。
「とうとう天国へ強制送還だそうだ。」
「…まあ、えおが幸せになったんなら、あいつも天国で隠居出来るか。」
「そういう事だな。」
「えおって、予知能力まであったっけ?」
「相当俺に会いたかったらしいな。あいつは知能の変わりに、超能力を手に入れた。妖魔界で暮らして、霊力(霊感のような力)が強くなったのは確かだが。霊力は思いの強さも影響するから、今回の予知は、特別に使えたって所だな。」
「場所まで特定出来てるからねえ…。」
 ターランが唸った。「人間って、ほんと、魔法界から隔離されてる癖に、色んな可能性を持ってるよね…。悪魔よりドス黒かったり、聖魔界人でさえ出来ない力を発したり、天使より清らかだったり…。」
「…なんか昨日、ネスクリと似た会話したな…。」
 ザンが言う。「何故神は、人間界だけを差別するのか…みたいな話題だったな。」
「僕は隔離する事によって、魔法界の生き物のような制限をなくして、実験体にしていると思ってますが…。」
 ターランが言った。「悪魔は悪、天使は聖、聖魔界は魔法、妖魔界は比較的混沌だけど、悪より。妖精界は聖より。」
「人間は制限がないから、酷いのも居れば、良いのも普通のも居ると。僅かながら、超能力と言う名の魔法らしき不思議な力を持つ者…。」
 ザンはうーんと唸った。
「考えようですね。まあ、神様がなさる事を、わたし達が理解できなくて、当然だと思ってますが…。」
 ジャディナーが意見を述べた。
「そんな高レベルな話しなんかより、学校の話をしようぜ。」
 トゥーリナは、大人達についていけなくて、静かに遊んでいた子供達の中から、和也を連れて来て言う。「折角学校作りに役立つ人物を連れて来ているんだからよ。」
「そうだよなー。他に片付けなきゃならねえ仕事が、山となってんだし…。」
 頭脳労働の苦手なザンがため息をつく。
「ネスクリが居るから、激減するだろ。そもそも俺が馬鹿な事をする前は、仕事は少なかったんだから。」
「まあな。でも、あいつは事務処理能力もあるけど、専門じゃねえから、片付けるなら、ターランの方が早いぞ。」
「ネスクリの仕事のめどがついたら、ターランに中学校に行ってもらうから、大丈夫だ。」
「…勝手に決めてるね。今、初めて聞いたよ?」
「前から考えていたけど、口に出したのは、今が初めてだからな。」
 トゥーリナはターランに笑いかけた。「それに、ネスクリが生き返るなんて思ってなかったから、機会が見出せなくて…。」
「僕の気持ちは、聞いてくれないのかい?」
「お前は、俺の命令を聞くのが生き甲斐だろ?」
 トゥーリナはニカッと笑う。
「…人の気持ちを悪用しないでくれよ…。…そんな君に逆らえない僕も悪いけどさ…。」
「…そういう夫婦みたいな会話は、二人だけでやってくれ。」
 ザンが呆れて言う。「ま、その意見には賛成だけどな。ターランがもっと使える。」
「俺は、貴女様の命令は聞きませんから。」
「言われなくても分かってる。お前は、“愛しい愛しい”トゥーの為“だけ”に、生きてるんだからな。」
「…そうです。」
「はい、はい、変な意地の張り合いは、止めて下さいね。わたしも子供達も、学校のお話が聞きたくて、待ち遠しくて仕方ないんですから。」
 百合恵が割って入る。「もう何日も前から楽しみにしてるんですよ。」
「そうだな。じゃ、昨日の続きから始めるか…。」
 トゥーリナは、和也を膝に座らせた。『また膝の上…。』和也は、また拗ねたくなった。
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