学校のお話

3 賊の正体

「弱い、弱すぎる! そんな弱さで、ザン様の留守を預かるとは!」
「お前……何様のつもりなんだ……? 大体、誰なんだよ……?」
 賊が叫び、リーロが弱々しく言う。そこへザンが辿り着いた。壁際で倒れているリーロに駆け寄り、
「リーロ、大丈夫か?」
 と、抱き起こした。
「ザ・ザン様……。」
「ザン様、そんな奴、どうでも良いでしょう!? 屑の相手なんてする必要はありませんよ。」
「賊が何を馴れ馴れしいこと言ってやがる。よくも俺の可愛い部下達を……。」
 ザンはそこまで言ってから、振り返って……。「……!! お前、ネスクリじゃないかっ!? トゥーリナに殺されて、人間界に行った筈なのに、どうしてここに!?」
「お久しぶりです。ザン様。また貴女様の麗しいお姿を、この目に映せる日が来るなんて……、感無量です。」
 ネスクリは妖魔界式の丁寧な礼をする。
「よくそういう台詞を思いつくよな。」
 ザンは呆れて、戦意が喪失してしまった。
「貴女様を見てると自然に出てくるのです。……あのですね、実はこの体の事で相談がありまして、久しぶりに妖魔界へ来たのです。」
「…。」
「あの…。」
「どうした、リーロ。すげー痛むのか?」
「痛みは、我慢出来ます。…こいつは、誰なんですか?偉そうに…俺達を攻撃しやがって…。」
 リーロはネスクリを睨みつけた。
「元俺の部下、ネスクリだ。この通り、性格に難ありだが天才でな。こいつが居なければ、俺は今、ここに居ないだろう。」
「ああ、何と嬉しいお言葉でしょう。あの時、死ななくて良かったです。」
「思い出しました。こいつが死んだから、俺が貴女の二者になったんですよね。」
「ああ、そうだ。トゥーリナからお前を貰ったのは、このネスクリの穴を埋めるためだったのさ。」
 ザンは、ネスクリの言葉を無視して続ける。「こいつは年齢に関係なく、誰にでも尊大な態度をとっていて、皆から嫌われていた。トゥーリナもそう。俺の部下だった頃のトゥーリナは、今ほど落ち着いていなくてな。滅茶苦茶に偉そうなこいつの一言に、腹を立てた。」
「今は、あの馬鹿こうもりが第二者だそうですね。」
 ネスクリは懲りずに口を挟む。
「ああ、本当はターランの方が強いけど、トゥーリナに王様になってほしいと言ってな。」
「ターランの方が相応しいのに…。」
「本人がやりたくないんだから、仕方ないだろ?」
「皆が怯えていた理由が分かりました…。」
 リーロが言う。「いくら妖怪でも、死んだら復活は出来ませんよね。」
「こいつは、禁呪文を使って、寄生妖怪になった。」
「今までは、人間にとりついていたんですけど…。」
 ネスクリが顔をしかめる。「こいつは…今までと様子が違って…。」
「寄生妖怪って、守護霊なんかとは違うんですよね?」
「守護霊は人間を守るものだぞ。寄生するのとはまるで違う。」
「だからと言って、人間に害を及ぼすわけではないですよ。ちょっとだけ力を貰うんです。」
「でも、禁じられている…。」
 リーロはまたネスクリを睨んだ。「死んだら、天国か地獄に行くのが世の決まりだ。」
「お前に関係無いだろう?」
「何っ!?」
「黙れ。」
 熱くなった二人をザンは止めた。
「「はい…。」」
 リーロとネスクリは静かになった。
「ネスクリ!」
「はい、ザン様!」
 ネスクリは直立不動になった。
「妖魔界に来た理由は、トゥーリナの城で訊く事にする。皆が怖がっているからな。」
 そこまで言った後、ザンはネスクリをギロッと睨んだ。「…その前に訊くが、何故、皆を襲った!?何のつもりだっ!!」
 凄い迫力に、ネスクリだけでなく、リーロまでもが青ざめた。
「ご・ごめんなさい…。俺を知っている皆が、俺を見て恐れおののく…その情けない姿を見ていたら、ザン様不在の際、本当の賊が侵入してきたら…と思い、つい…。」
「力量を試してやろうと思ったのか?」
「お前は本当に、傲慢な奴だな。」
「……。」
「……俺は、お前の動きを見ていない……。でも、リーロもペテルも、まだ発展途上だ。ジオルクはもう限界だし、シーネラルはあの通り、障碍者なんだ。」
「どうして、あんな者を?」
「お前は何様のつもりだ?」
「…うっ。すいません、これは性格なんです…。周りの奴等が、劣って見えて…。」
「頭が良すぎるのも考え物だな。…シーネラルは、伝説の男なんだ…。」
「えっ、あの髪の毛の?」
「ああ、そうだ。」
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