コツンとひじに当たった。

ハトさんの机の上を片付けていた時の事。

それは38口径より少し大きいもの。

「これ、マグナム44・・・」

薬莢などはなく、発射後の弾頭だけだった。
よく見ると、線条痕が、大将さんとのは違う。

「これ・・・?」

不思議そうに見ていると、

「おはよう、宿直どうだったー?」

と、ジョーさんが出て来た。俺の不思議そうな表情に気付いたらしく、近寄って来て、
俺の手のひらの上にある、弾丸に目を止めた。

「いたって、平和でしたよ?」

そう返した俺に、歯切れ悪く、曖昧に笑って、

「良かったな」

とだけ、答えて来た。・・・何だよ、余計気になるじゃん・・・。

「ジョーさん、これ、何だか知ってるんですか? かなり古いものみたいですけど・・・」

「うん・・・。でも、ハトさんの持ちもんだろう? ハトさんに聞けよ」

「そうなんだけど・・・」

聞き辛い。勝手に机の上を片付けていたせいか。

 

一時間後、ハトさん含め、ほとんど揃っていた。あとは、班長が来た時点で、朝礼という頃。

引き出しをごそごそやって、何かをハトさんは探していた。

「あれ・・・・、おっかしいなぁ・・・」

「何探してんですか、ハトさん」

「うーん・・・、ちょっとね・・・」

「これ、ですか」

俺は、さっき見つけた弾を、ハトさんの机の上に置いていた。それを指差す。

「あ・・・、それそれ。サンキュー」
「全く、兄貴と一緒で、整理整頓しないから、大事なモノをなくしそうになるんですよ? 片付けて下さいよ、今度から自分で!」
「悪かった」
「・・・大事なんでしょ、これ・・・」

ハトさんも、ジョーさんと同じく、曖昧に微笑んでいた。もう一人、同じ視線を感じた。・・・イッペイさん・・・。
余計気になる・・・。

「ハトさん?」
「まあまあ、いいじゃん、コウ。ハトさんにとって、お守りみたいなもんなんだから」
「イッペイっ、余計なことを・・・」

じろりと睨まれたイッペイさんは、静かになった。大将さんは、きょとんとしている。
と、ハトさんがため息をついた。

「・・・まあ、気になるか・・・。俺のとは口径違うしな・・・」

と、弾を自分の所へ引き寄せた。

「こいつは、俺の元相棒が撃った弾だ。最期に会った、事件解決した直後の現場から、拾って持って帰って来たんだ」

ハトさんの、弾を見つめる視線は、いつになく優しくて・・・。

「あいつは必ず生きて戻って来るって・・・。そしたら、この弾渡して、またコンビ組むんだって・・・、思ってたんだけどさ。
時間は残酷だよ。コウ、法律上、7年間行方不明だと、どうなる?」

視線に、影を感じた。俺は、踏み込んでいけないところに踏み込んだんだろうか・・・。

「・・・死亡扱い・・・」

「そう、正解。もう、戸籍上、沖田五郎って男は・・・存在すらしない。けど、あいつらしいよ。未だに、あれ以降、
何の手がかりすら掴ませないんだからな」

ハトさんは、大きく一つ息をついた。そして、思い空気を吹っ切る様に、声のトーンを上げた。

「俺も、オキみたいに、今を懸命に生きてやるって、思ってさ。この弾は、あいつへの俺の誓いのため、持ってるってわけ」

 

・・・悪い事を聞いてしまった・・・。
俺個人の好奇心のために、ハトさんの心の傷をえぐってしまった・・・。


「何をしみったれた顔をしてるんだよ」

弾を引き出しに突っ込んだ後、ハトさんはそう言って、俺の肩を叩いた。

「過去も大事だが、今一番大事にするべきは、今ここに生きている自分だって思ってる。
自分が、皆に生かされているって、思える。

それを教えてくれたのは、オキの生き様だ。

俺が奴の相棒だったってことを、奴の前で恥じない様に、一生懸命やるだけだ。
だから、コウ、お前も「今」を頑張れ」


最後の一言が、嬉しくもあり、重くもあった。多分、俺の過去の事を言ってるんだと思った。

 

俺も、沖田さんの前で、ハトさんの相棒として、行動していたと、胸を張って言える様になってみせよう。

そう努力する事を、密かに誓った・・・。


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