鋭い銃声が響く。
立花が膝をつく。
その向こうに見えた車は、姿を消していた。
鳩村の手には、漆黒の拳銃。
立ち上る銃煙。




ゆっくりと振り返った立花は、そこに大門軍団の鳩村の姿を見た。




「は・・・とむら・・・さん?」
「無事か、立花」
「は、はい・・・」

立花を庇う様に、道へと出ると、鳩村は銃弾の行方を確認した。
電柱に激突した車の中でうめく男は、右肩を血で染めていた。
事故の傷ではない。

鳩村の銃の傷だ。
そう、思った立花は、再び鳩村を見た。

「結局、俺にはこの道しか、無いみたいだな」

そう呟いていた目は、前のような暗さは無かった。寂しさは、残っていたけれど。

「鳩村さん、有り難うございます。俺、命拾いしました」
「気にすんな。俺のやるべき事を、やっただけだ」

鳩村はそういうと、拳銃のグリップを軽く握り直した。
まるで、感触を確かめる様に。

そう。自分は自分。そうあり続けたい。それが答え。


女性を殺して埋めようとしたのは、その空き地のオーナーだった。
身がわりをしたのは、そのオーナーの弟。
殺されたのはオーナーの妻。
その死体を人柱に、建物を建てて失踪届けを出すつもりだったという。



また事件とは無縁の日々を送る事になった立花だが、ある日、黒いバイクが目の前に現れた。
乗っている人も真っ黒。
唖然としていると、そのライダーの後ろから菊池の白バイが現れた。

「菊池!!」
「立花、やっぱり、教官・・・鬼」
「え・・・? ええ?」
「鬼で悪かったな」

黒一色のライダーは、バイクを降りると、ヘルメットを取った。

「鳩村さんっ」
「どうだ、あのあとの調子は」

どうやら、ベンチで倒れかけたのを見て、心に何か残っているのではないかと思い、心配して見に来たらしい。

「はい、大丈夫です。というか、いいバイクですね、それ」
「あ、いいだろ。刀っていうんだ。これ、フルチューンしてるんだぜ。ま、これ一台じゃあまり役には立たないがな。今のうちに、勘を戻しておかないと」
「勘、ですか?」
「フォーメーション組むなら、こいつと一体にならないとね。・・・立花巡査」
「・・・はい」

それまでの軽い口調と一変したので、立花も居住まいを直した。

「俺は、あそこに戻る」
「・・・」
「それだけ、言いに来た。戻るまでは半年ある。それまで、ここの署の白バイの技術力をアップさせておくから、楽しみにしていてくれ」
「教官、それマジできっついんですが・・・」

菊池の泣き言に、鳩村は軽く手を振って一蹴した。

菊池が可哀想に、と思うと同時に、少しだけあの額縁の彼を見る事が出来て、ちょっとほっとした立花だった。
















「兄貴?」
「何だ、功か、どうした」
「俺、やりたい事見つけたんだ」
「そうか。何だ?」


「おれ、刑事になりたい」
「・・・功?」
「目標、見つけたんだ。俺もあの人と同じ人を追いかけたくなった」
「刑事って危ないんじゃないのか?」
「刑事課に配属されたら、刑事って言われるだけだよ。やることは変わんないって」
「そっか・・・? それならいいけど、無茶だけはするなよ。俺には功がたった一人の兄弟なんだから」
「ああ。無茶はしない」





それから1年後。




「立花功巡査部長です」

自己紹介した途端、 鳩村と視線が合った。

「よろしく、立花君」

「前、ハトさんがいた署にいたんだって? どんなだった、ハトさん」

嬉しそうに、平尾が聞いて来る。

「えと、とても優秀な教官でした。おかげで、白バイの検挙率が跳ね上がったんです。事故率は凄く落ちて」
「だろーなーだろーなー」

まるで、自分の事の様に、平尾は頷いて聞いている。
北条が、鳩村を突いた。

「ハトさんは、立花さんの事知ってる?」
「・・・ん? いや、全然」
「あれ。事件絡みで一度組んだってジュンから聞いたよ?」

平尾がさらに畳み掛けたが、鳩村はきょとんとした顔で、立花を見直した。

「そーだっけな」
「だめだ、こりゃ。物忘れ酷いとは、ハトさんも歳だなぁ」

平尾が肩を竦めて、机に戻る。

「ハト、立花君を連れて、署を案内してやってくれ。それと、彼の教育係は、君に頼む」
「はい。分かりました」



鳩村は、車庫に来ると、刀の前で止まった。
そして、くるりと立花に向き直ると、

「俺は、鳩村英次。大門軍団の、鳩村だ」

その言葉は、重く、そして熱い。

「軍団魂、叩き込むから、覚悟しておけよ。倒れている暇はないからな」

立花は一瞬目を丸くしたが、すぐに真顔に戻り、「はいっ」と答えた。



「あ、それと、あの頃の話は、俺の黒歴史だから、シークレットでお願いします」

子供っぽく笑った鳩村に、立花はにこりと笑った。


End.


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