白の中の赤

珍しく雪景色の横浜。
とても綺麗だな、と思う。

普通ならば。

「いて」
「痛いのは当たり前だろ、怪我してるんだから。びっくりさせるなよ」

鷹山は、腕にハンカチを巻いている大下にそう言った。

周りでは赤色灯が忙しく回転し、警官がバタバタ走り回っている。

ついさっきまで、命のやり取りをしていた現場とは到底思えない賑やかさだ。

鷹山がトメ吉から連絡を受けて、大下の行方を追ってここに来た時、点々と倒れている男たちを手がかりに走った。

ようやく追いついたその目前で、大下は撃たれた。
どこを被弾したか、わからなかった。

目の前で、白い景色に赤い血が舞う。
被弾の反動で、大下は雪の中へと倒れこんだ。

鷹山は大下への脅威をさっさと片付け、駆け寄る。雪に血が滲んでいた。

「ユージっ!」

抱き起こされた大下は、ちっと舌打ちして顔をしかめた。
その様子に、ようやく鷹山は緊張がとけた。

「無事なようでなにより」
「おせぇ! 無事じゃねぇっ!」

助けに来てこの言い方である。
今度は鷹山が舌打ちする番だった。

「助けなけりゃよかったな」
「いていてて」
「大丈夫か?」
「ま、な」

そうこうしている間に、今のような喧騒になったのである。

「あーあ。またスーツダメになった…」
「その度に新調して、その度に誰かに金借りて…」
「いたいいたい、そのセリフは痛い!ってか、人の事言えるのか?」

大下のその言葉に、鷹山は肩をすくめただけだった。

「家計簿つけてたら、毎月赤字だな、こりゃ」
「だなぁ。毎月ノートが真っ赤っか、あーやだやだ、書いてなくてよかった!」

大下は首を振って歩き出した。

「ユージ、取り敢えず病院行けよ」

背中から声をかけると、大下は振り向きもせず、ひらひらと手を振って、救急隊員の元へと歩いて行った。

つと見ると、雪の上の血痕。
出血の度に出金してる、と考えてしまい、うすら寒くなった鷹山は、そそくさとその場を後にしたのだった。


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