それは、人と人とのつながり。
それは、自分と誰かを結ぶもの。
それは、口に出さない信頼の証。





















「俺たちがコンビ組んでからどれくらい経つ?」
「20年…それより少し長いくらいか。」
「そんなもんかぁ…。」
「秋風に吹かれて感傷的になったか?歳だなお前は。」
「うるせぇなぁ。タカだって歳の癖に。」
「一緒にするなよ、お前と。」

 

夏の終わりを告げるひやりと涼しい風が吹き抜ける。
そういえばいつの頃からだっただろうか。
こうして二人でコンビを組んだのは。
近くて遠いような気がするその日のこと。

空に広がる鰯雲。
吐き出した紫煙はその雲のもとへと吸い込まれていく。
さっきから何本タバコを吸っただろう。
それでも時間はゆっくりと流れている。
コンビを組んだ20年という時間はあっという間だったというのに。


「なんかさ、20年とか聞くと長く感じるな。」
「まぁな。実際それほど長いような気はしないがな。」
「つい昨日ってわけじゃねぇんだけど。それでも早いよな、20年。」
「よく持ったな、20年も。」
「まぁ他に相棒が務まる奴はいなかったし。俺もタカも。」
「ここまで来ると腐れ縁だな。」
「そうだな。まぁ可愛く言えば運命の赤い糸?」
「誰がお前と。会わない間に随分おかしくなったんじゃないか、お前。」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺はどっから見たってまともだっつうの。」
「そうか?」
「そうそう。タカはさ、会わない間にますます冗談通じない奴になったな。」
「なんだよそれ。」
「言葉通りだよ。運命の赤い糸なんて冗談だっつうの。本気にするなって。」
「相変わらずいい性格してるよ、全く。」
「何だよそれ。」
「そのままの意味だ。コンビ組んだ時から変わらないな、お前は。」
「タカの妙にハードボイルド気取ってるとこもね。」
「俺のは気取ってんじゃなくてハードボイルドなの。」
「そういうと思った。」
「じゃあいちいち言うな。」
「だって思ったことがさぁ、ついつい口から出ちまうんだもん。」
「もういい大人だろうが、その歳にもなれば。」
「そうなんだけどさ。」
「だけど何だよ。」
「そう簡単に変わらねぇよ。この歳にもなれば。」
「だな。」
「ああ。」



気付けばお互いに頬が緩んでいた。
結局変わらないのだ。
今までもそうだったし、これからもきっと。



「あのさ、さっきの話だけど。」
「何だ?」
「赤い糸云々の話。」
「まだそれ言ってんのかよ。」
「俺たちの場合さ、赤い糸じゃなくてコレの鎖でつながってんじゃないの?」
「手錠?刑事だけにか?よく言うぜ。」
「うまいこと考えたと思うんだけどな。」
「座布団でも欲しいのか?」
「おや、ハードボイルドらしからぬお言葉だこと。」
「お前が変なこと言うからだ。」
「そお?」
「誰が好き好んで手錠に繋がれたいんだよ。」
「まぁ確かに結構アレでつながってんの痛いし。やっぱ勘弁。」
「だろ?それに野郎同士がつながって何が楽しいんだ?」
「ああ、そりゃ言えた。前言撤回っと。」
「ころころ変わりやすい奴だな、お前は。」
「タカこそ、女には優しいくせに俺には冷たいのな。」
「俺は生まれつきフェミニストなんだ。」
「言うと思った。」



雲が流れていく。
曇りなき青い空が垣間見えた。
二人を結ぶのは赤い糸でも、手錠でもない。
信頼という目に見えない、絆。
過ごした時間がそれを実感させるのではない。
二人でくぐった死線の数こそがそれを実感させる。

目には見えないけれども確かに繋がっている、真実。
それさえあれば、何もいらない。
相棒と繋がっている。
それだけが彼らを突き動かす原点だから。




                    END


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