そいつは、月明かりの下にいた。
ここまで俺に追いつめられても、余裕の表情で。
その幼い顔立ちに、俺は驚愕した。
こんな、若い男だったなんて、思ってもみなかった。
「ここまで、俺を追っかけて来たの、あんたが初めてだよ」
「顔を晒すってことは、捕まってもいいってことなのか」
「だって、あんた刑事じゃないだろ?」
ふっと笑ったその顔に、一発拳を打ち込んでやりたくなる様な、いらいら感。
こんな奴に、いままで振り回されていたのか・・・?
「ま、俺、まだやる事あるから、Un bon reve」
そいつはそう言うと、ビルから飛び降りた。
・・・・ここ、7階だぞ・・・?
慌ててそこへと駆け寄ると、かすかなワイヤーが見えた。
奴は、そのワイヤーに金具を引っ掛け、そのまま一気に隣のビルへと移っていたのだ。
そのあまりの身軽さに、俺はどうすることも出来なかった。
まるで、月光が見せた幻・・・。
ワイヤーの微かな反射だけが、現実へと繋ぎ止めていた。
end