12月27日(さらにつづき)
「それらしきもの(オーロラ)が見えてますよ」
と、別のツアーの人に起こされてみれば、全快とまではいかないまでも、かなり体調回復。人間てすごいわ。
時刻は9時少し前。
センターの前の滑走路に出てみれば、先ほどまでの曇り空は嘘のように晴れ上がり、星がきれいにまたたいている。
北極星が天頂方向に見えるということは、やっぱりここはノーザンポールにほど近いということを実感。北斗七星とカシオペアが同時に見える…。
見上げると、確かにそれらしき影がうっすら横切るが、まだそれほどくっきりと見えるわけではない。
ともかくも、防寒準備を整えて、メインロッジでKさんとおしゃべりなどしたあと、オーロラ観測小屋に向かう。
小屋はちょっとした高みにあり、そこに至るまでに5分ほど歩くのであるが、目印は2カ所の光だけ。ペンライトを持っていなければ、あやうく徒歩5分圏内で遭難するところだったが、小屋の周りは明るくできないので仕方がない。
暖房設備と椅子があるだけのスペースで、前面は総ガラス張り。屋内も真っ暗で、オーロラが出現したらすぐ確認できる。
ペンライトを握りこんで、三脚の準備とモード設定。あとはひたすら体を温めておくことが、生き延びるコツである。
10時半。
それらしきものが、再びぼやぼやと見え始めた。
観測小屋の住人は、20人くらいになっていただろうか。
外に出て雪面に三脚をセット。寒いのでどうしても機敏にはいかない。
と。
突然、紗のカーテンが全天を覆った。
オーロラだああああ!
呆然としつつも、カメラカメラ、とシャッターを切るが。
切れん!! なぜだ!!
レリーズ代わりに採用したリモコンが、寒さのあまり作動しません!!
ああああ、うそでしょおおお!!
マイナス20度の地でパニックになりつつ、とにかくシャッタースピードを20秒に切り替えて撮影。しかし繊細でたおやかな光なもんで、カメラが認識してくれない。無理矢理シャッターを押しまくるが、こんなんで写るんかいな。

そうこうしているうちに、意外な動きの早さで、第一波、第二波と、現れては消え、現れては消え。あっという間にその姿は闇の彼方に吸い込まれてしまった。
今までとは較べものにならないくらいの寒さである。
空の方が一段落したのを期に、暖かい小屋の中へ避難する。冷たさを感じているうちはまだいいが、感覚がなくなると知らずに凍傷になっている危険があってこわい。
またしても雲が出てきたらしく、星影もすっかり隠れてしまった。
23:45。今後のことをツアーの皆と相談するために、いったん山を下りてアクティビティーセンターに戻る。
大方の意見で、市街まで引き返すことに。
1:00。チナを発つ。
来た道を引き返すだけだが、なにせ灯が「いっこもない(まじで)」荒野の一本道である。気温はマイナス25度。路面の雪はアイスバーンとなって、も、このままスケーティングできますけんね、てなくらい滑らかである。その状況下で、安定した走りを見せるKさん、推定年齢29歳。
慣れてはいるだろうものの、助手席に座った者の勤めとして、時々話しかけることにする。
零下の世界で、車が故障して立ち往生するのは、生命に関わる。ほとんどの人は工具一式をいつも車に積み、用心深い人はさらにエマージェンシーシートの用意もしているそうだ。
あたりまえといえばあたりまえだが、寒くなればなるほど、故障の頻度も高くなる。ほんとに寒くなると、マイナス40度にもなるそうで、ファンベルトが切れたりバッテリーがあがったり、オイルだって下手すると凍りそうだ。
今走らせているのはフォードのバンであるが、アラスカで人気の車はなんといっても日本車だとか。やはり、故障しにくく耐久性があるということが、極寒の地で証明された。
「一番人気は、スバルなんですよ。やっぱりアウトドアの国でしょ。意外なことに、ここフェアバンクスのスバルのディーラーが、全米での売り上げトップなんです」
ご多分に漏れず、彼女もスバルのステーションワゴンにあこがれていたのだが、やっぱり高嶺の花だねーと思っていたという。ところが、夫婦でシアトルの友達のところに遊びに行ったとき、軽い雑談からディーラーにつながり、値段の交渉が始まってしまったのだとか。
アラスカ州民であれば、自動車に税がかからない。地元で買うより安い値段になったので、その場でランカスターを購入し、10日ほどかけてカナダを縦断して帰ったのだそうだ。
1:40。外を見ていたら、オリオン座が。お、晴れた。
よくよく見ると、暗い夜空に白い帯が。
「出ました!」
またしても全天にオーロラである。
「おおおー!」
全員車から降りて、しばし空を見上げ。
市内の灯が空に映える頃。
道の先を、なんとムースが横切った!!
日本でいう、ヘラジカである。
鹿は夜行性で、よって、車との衝突事故はそのほとんどが夜に起きるという。凍った道の上では急ブレーキも踏めず、とっさの判断でムースを轢く! こともあるそうだ。
だいたいが雄1頭に雌4〜5頭のハーレムを形成して移動しているので、先頭の雄は車のいない時を狙って道路を渡っても、あとの雌たちが続いて渡ろうとしてしまうので、それで事故になることが多いのだとか。
幸いこのときは距離があったので、鹿もゆうゆう避けられたが、彼女(?)はなぜか路肩で足を滑らせて、ぽて、と尻餅をついてしまった。
…かわいい。しかし野生動物がこんなことでいいんだろうか。
Kさんも、「ムースがあんなふうにコケるのは、初めて見ました」とのこと。

草木も眠る丑三刻。へろへろとホテルに到着。
お疲れさまでした〜。
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