ユニレンジャーV3(4D)

 

シャドの長官室で、キリヤマとフルハシが机をはさんで向かい合っていた。

キリヤマの机の上には、フルハシの辞表が置かれている。

キリヤマがゆっくりと話を始めた。

「フルハシ。シャドの最高司令官ともなれば、こういう時でも気の利いた言葉の一つぐらいは

 言えるものなんだろうが、俺はそういうのが苦手でな。

 すまない」

「長官にはお世話になりました」

「くどい話をするつもりはないから、最後に一言だけ訊かせてくれ。

 参謀として、残ってもらえないか。シャドはまだ、君を必要としている」

フルハシが静かに答えた。

「そのお言葉だけで十分です。

 セブンのような宇宙人に頼るのではなく、地球人のヒーローによる地球防衛。

 私はウルトラ警備隊の時代から、ずっとその事ばかり考えてきました。

 私はその夢の実現を、ユニレンジャーにかけていたんです。

 その夢が潰えた今、私に参謀を続ける意味はありません」

「そうか、分かった」

キリヤマは立ち上がると、戸棚からウイスキーを取り出した。

フルハシの前にもグラスを置き、酒を注ぐ。

「フルハシ。今日は飲もう。

 俺も時々、考える時がある。ウルトラ警備隊の頃が懐かしいとな。

 俺もよく第一線に立って・・」

「隊長!」

フルハシがキリヤマの言葉をさえぎった。

「んっ?」

「長い間、お世話になりました」

フルハシはキリヤマに敬礼する。

「そうか・・、分かった」

キリヤマもグラスを置くと、フルハシに敬礼を返した。

「長い間、ご苦労だった」

「失礼します」

フルハシが退室する。

ウルトラ警備隊から地球防衛の最前線に達続けた男の、

それは最後の勇姿だった。

 

フルハシと入れ替わるように、ソガがキリヤマの部屋を訪れた。

「長官、重要なお知らせがあります。

 実は・・」

ソガは言いかけた言葉を飲み込んだ。

机の上に置かれたフルハシの辞表と、飲まれる事のなかったグラス。

キリヤマはばつの悪そうな顔を見せたが、勘の良いソガにはそれだけで全てを理解できた。

「重要な報告とは何だ?」

キリヤマは努めて冷静を装った。

「はい。今回、敵の宇宙空母が接近する際、地球上から敵の宇宙空母に向けて

 発せられた通信がありました。

 情報部でそれを解読した結果です」

ソガはキリヤマに1枚の紙を手渡した。

「何だと!!」

キリヤマの顔が変わった。

「そうです。今回の囮作戦は、敵に筒抜けになっていたのです。

 おそらく、偵察衛星の位置も敵に知らされていたのでしょう」

「信じられん。今回の作戦を知っているのは、私の他には君たち3人の参謀と

 ユニレンジャーだけだ」

「その誰かが裏切ったという事です。いや、参謀の誰かでしょう。

 ユニレンジャーは今回の作戦は知っていても、偵察衛星の正確な位置は知りません」

「何か方法があるのかも知れん。

 ユニイエローは本当に撃墜されたのか?

 いや、ユニブルーの撤退は早すぎるんじゃないか?

 あるいは・・。フルハシが・・」

「ま、まさか・・」

「いや、フルハシは人一倍責任感の強い男だったはずだ。

 それが、作戦の途中で参謀職を投げ出すのは不自然すぎる」

“あなたがフルハシさんをそこまで追い込んだんじゃないですか”

ソガは心の中で反論した。

考え方は違っても、地球防衛にかけるフルハシの情熱には

学ぶべきものがあると、ソガは思っている。

ソガはもう一度、机の上に置かれたままのグラスを見た。

“キリヤマ長官は、どういう気持ちでこのグラスをフルハシさんに差し出したんだろう”

ふと、フルハシがこの酒を飲んでいれば、キリヤマのフルハシへの疑いは

なかったのではないかと思えた。

“キリヤマさん、あなたも老いましたね”

ソガの心に、冷たいものが吹き抜けていった。