ユニレンジャーV3(1)

 

「敵、宇宙空母。地球軌道に接近中」

シャドの誇る高性能レーダーが、地球に接近するインベダ星人の宇宙空母をとらえた。

「ミサイル基地、迎撃ミサイルをスタンバイさせろ」

シャドの司令室に、キリヤマ長官の命令が飛ぶ。

かつては、ウルトラ警備隊を指揮した老将だ。

ノンマルトやペガッサ星人の宇宙都市への攻撃などで、マスコミに叩かれる事もあったが、

インベダ星人の襲来という非常事態にあっては、むしろその冷徹さが認められて、

シャドの指揮を任されていた。

「宇宙空母から戦闘艇が発進しています。大気圏突入まで、あと17分」

ミサイル基地から、迎撃ミサイルが発射される。

一方、サッカーのユニフォームに身を包んだ3人の若者が、

インベダ星人の戦闘艇に向かって、空を駆けていた。

彼らこそ、初代ユニレンジャー・RYOの意志と力を受け継いだ正義の戦士、

「ユニレンジャーV3」だ。

「迎撃ミサイルがあと5分で着弾する。残った奴らは俺たちで叩き落とすぜ」

V3のリーダーであるユニレッド・モリタの意志が、他の2人にも伝わった。

初代ユニレンジャーの改良形であるV3には、飛行能力の他にも、

相手の姿が見える範囲であれば、テレパシーでの会話が可能になっていた。

「まぁ、ミサイルで落とされる敵は滅多にいないんだがな」

ユニブルーのオカダだ。

猪突猛進型のモリタと違い、やや引いた視点から物を見る理論派である。

「敵は多い方が良いよ。あんまり弱いと張り合いがなくってさ」

ユニイエロー・ミヤケはお調子者だが、ムードメーカー的存在でもあった。

 

やがて3人の前方にいくつもの閃光が見えた。

迎撃ミサイルの着弾ではない。

ミサイルはオカダの言うように、インベダ星人の戦闘艇によって打ち落とされたのだ。

戦闘艇の姿が見えてくる。

「今日は4機か。誰がたくさん落とすか、競争しようか」

ユニイエローは余裕綽々だ。

「油断するなよ。手っ取り早く片付けようぜ」

ユニレッドの指示で三方に分かれたユニレンジャーに向かって、

インベダ星人の戦闘艇から怪光線が発射される。

まず、ユニレッドが怪光線をかわしながら、敵の下に潜り込んだ。

ユニレッドの動きを追って、下に向きを変えた戦闘艇に、ユニブルーとユニイエローが

ユニビームを浴びせる。

ユニレンジャーの手から発せられる必殺の破壊光線だ。

2機の戦闘艇が一瞬のうちに青白い炎に包まれ、大爆発を起こした。

続いて、ユニレッドが下からユニビームで戦闘艇を狙い撃ちする。

残る1機は、怪光線を乱射しながら逃走を図ったが、3人にユニビームの集中攻撃を受け、

一瞬のうちに消滅した。

 

ユニレンジャーの圧倒的勝利。

それは、シャド本部の司令室に設置されたモニタースクリーンにも映し出されていた。

キリヤマ長官をはじめ、フルハシ・ソガ・アマギの3人の参謀にも安堵の顔が浮かぶ。

いずれもウルトラ警備隊出身の参謀だ。

「やった、さすがユニレンジャーだ。連中がいる限り、地球は安泰ですね」

まず大声で勝利を喜んだのが、参謀の中でもリーダー格のフルハシだった。

作戦指揮担当で、武闘派の参謀である。

「しかし、フルハシ参謀。ユニレンジャーの能力では宇宙には行けません。

 依然として我々は、敵の宇宙空母を攻撃する手段を持っていないんですよ」

アマギだ。

兵器の研究開発を担当している。

「分かってるよ。だから、お前が研究中のメガビーム砲が必要になるんだろ。

 それで、開発の見通しはどうなんだ?」

水を差された格好のフルハシが、アマギに皮肉を返した。

地球上から宇宙空間の敵を攻撃できるメガビーム砲は、すでに試作機ができていたが、

同時に地球のオゾン層をも破壊してしまうという、致命的な欠点が未解決のままだった。

その欠点の克服に、アマギは行き詰まっていたのだ。

「俺は、むしろユニレンジャーのパワーアップに期待すべきだと思うがね。

 奴らは日増しに成長している。宇宙に出れる日も近いんじゃないか?。

 奴らに宇宙でも活躍してもらえば、それで良いんだよ。

 差し当たっては、ユニレンジャーの増員だな。

 今日の連中の活躍を見ただろ。

 あんなのが何十人もいたら、地球を侵略しようなんて考える宇宙人もいなくなるさ」

「私は反対です」

今度はソガだ。諜報活動担当の参謀である。

「ユニレンジャーに頼るべきではありません。それでは40年前の繰り返しになる。

 セブンがいなくなった後のウルトラ警備隊に、どれだけの事ができたかお忘れですか。

 1人のヒーローに頼った結果が、地球防衛軍の弱体化を招いたんですよ。

 それに・・」

「それに何だ!」

「V3は初代ユニレンジャーであるRYOのユニミサンガを改良して生まれました。

 しかし、そのユニミサンガ自体に謎の部分が多い。

 ユニミサンガは、たしかに人を超人にするが、副作用がある可能性は否定できません。

 我々は、インベダ星人という敵に対して、ほとんど知識を持っていないが、

 ユニレンジャーという味方に対しても、知識のない状態なんですよ。

 万が一、その副作用でユニレンジャーが使えなくなるとしたら・・」

「そんな仮定の議論をされても困るね」

「しかし・・」

「みんなの意見は分かった」

キリヤマが、ソガの反論をさえぎった。

「たしかに、ユニレンジャーにしろメガビーム砲にしろ、欠点なり不安材料はある。

 だが、インベダ星人との戦いが膠着化する現在、二者択一で考えるのは間違っている」

「では、どうすれば良いとお考えなんですか?」

フルハシが、やや苛ついた口調で尋ねる。

「私に策がある。私は、使える物は何でも使う主義なんだ」

キリヤマは自信に満ちた、しかし冷たい笑みを浮かべた。

 

翌日、シャドの司令室にV3の3人が呼ばれた。

司令室で3人を迎えたのは、キリヤマ長官とソガ参謀である。

「今日、君たちに来てもらったのは、重大な任務を頼みたいからだ。

 命を落とす危険もある。話を聞いて、嫌なら断っても良い」

キリヤマに続いて、ソガが話を始めた。

「現在、地球に侵入するインベダ星人は、君たちの活躍でことごとく撃破されている。

 しかし、君たちがシャドに加わる以前に地球に侵入した敵は、

 いまだ地球のどこかに潜伏しているんだ。

 おそらく、地球のどこかに基地を作っているのだろうが、

 我々諜報部の必死の捜索にもかかわらず見つかっていない」

「それを探せと言うのですか?。たった3人で」

オカダが冷めた口調で言葉を挟んだ。

「なんか、それって地味って言うか、ヒーローっぽくないっすよねぇ」

ミヤケもつまらなさそうに同調する。

「いや、そういう話ではない」

キリヤマが作戦の説明を始めた。

「今度、敵の戦闘艇が地球に侵入してきたら、君たちの1人に、

 わざとインベダ星人の捕虜になってもらう。

 地球に潜伏しているインベダ星人は、長期にわたって補給を受けていない。

 だから、おそらく向かう先は敵の秘密基地だ」

「敵の基地に連れて行かれたら、そこから脱出して、基地の位置を知らせるわけですか」

「いや、できれば敵の情報収集もしてもらいたい。

 何が狙いで地球に来るのかとかね」

「簡単に言ってくれますが、アッサリ処刑されるかも知れませんよ」

オカダは、半ばあきれ顔でキリヤマを見据えた。

「だから、命を落とすかも知れないと言っている。嫌なら断っても良いとも言ったはずだ」

「では断ります」

「んじゃ、俺も」

オカダに続いて、ミヤケも断った。

「君はどうだ、モリタ。これは初代ユニレンジャーを越える良い機会だと思うんだがね」

「初代ユニレンジャーを越える?」

「そうだ。君たちも知っているだろう。

 彼もいったんは敵の捕虜になったからこそ、敵の基地を破壊する事ができた。

 同じ事は君ならできると思うんだが」

キリヤマは、暗にV3が初代ユニレンジャーの域に達していないという認識をにおわせ、

モリタのプライドを刺激した。

「分かりました。やりましょう」

案の定、モリタが乗せられる。

「おい、マジかよ」

「やばいと思うけど」

「俺はそんなにヤワじゃねぇよ」

オカダやミヤケは翻意を促したが、モリタの意志は固かった。

 

「大丈夫でしょうか。今はまだ、ユニレンジャーに頼らざるを得ない状況です。

 今、もしユニレッドを失う事になれば・・」

3人が退室すると、ソガは声を潜めてキリヤマに問いかけた。

「その時はその時さ。アマギのメガビーム砲を使えば良い。

 オゾン層を破壊するといっても、完全に破壊する訳じゃない。

 少し大きめのオゾンホールができるだけだ」

「しかし、それでも市民生活に犠牲は出ます」

「なぁに、市民も分かってくれるさ。

 正義を貫くには、犠牲が必要だって事をね」

 

数日後、またもインベダ星人の宇宙空母が接近してきた。

戦闘艇を発進させ、大気圏に侵入してくる。

シャド本部を飛び立つV3。

それを見つめるキリヤマと3人の参謀達。

今まさに、それぞれの運命を変える戦いが始まろうとしていた。