悶絶の銀狼(1)

  復活の祈り

 

 時代は、救世主を求めるようになっていた。

 それは一般人も同じ事で、新しい政治の救世主を求め、一円でも安いスーパーを求め、

オルグから守ってくれる救世主を求めている。

 そのオルグもまた、新たな救世主を必要としているのだった・・・。

「ねぇ、これからどうしたらいいの? 私達」

 ツエツエは、隣りに座り込んで頭を抱えているヤバイバにそう尋ねた。

 と言うのも、度重なる失敗のおかげで人間達の間にも民間防衛という意識が広まり、

様々な研究が始められていたのである。もちろんオルグ達にそれが通用するとは限ら

ないのだが、とにかく厄介な事に変わりはないのだ。

「新しく生まれたハイネスデュークもガオレンジャーに倒されちまったし・・・。士

気の低下も著しい・・・。どうやって手を打てばいいのかさっぱり分からない・・・」

「ラセツ様はやたら食べたがるし・・・」

「ウラ様は綺麗なものが大好きだし」

「あら? でもそれは悪い事じゃないでしょ? 私だって綺麗でいたいわ」

「そもそも異常すぎるんだよ。どこからどう見たって化け物って言われるって分かっ

てるのに街に繰り出してみたりするからさ」

「でも、人に見られると意識して、自然と綺麗になって行くものよ」

「そんなもんかねぇ・・・」

 ヤバイバにはあまり興味のない話である。あーだこーだと言い続けた挙げ句、

「どうしたらいいの?」

 と、また振り出しに戻ってしまう。

 その時だ。ふとツエツエがある事を思いついたのである。

「ねぇ! ガオレンジャーの事を思い出して!」

「何でこんな時にあんな奴らの事を思い出さなくちゃいけないんだ? 引っ張り込も

うとでも思ってるのか?」

「違うの! ほら、ウラ様に倒されたガオレンジャー達がまた戻ってきたでしょう?

それと同じように今までのハイネスデュークを全部生き返らせるのよ!」

「そんな事したらまたワガママ放題言われて、困るのは俺達だぜ?」

「それでもいいじゃない! ガオレンジャーさえ倒せばもう怖いものはないのよ!」

「それ・・・しかないか。で、どうやって復活させるんだ?」

「知らない」

 ヤバイバは危うくズッこけるところだった。

「でも探せばきっと何かあるはずよ!」

 ツエツエは自信たっぷりにそう言って、部屋を飛び出していった。

「待てったら!」

 と、ヤバイバも後を追って部屋をあとにした。

 

 それからしばらくして、

「あった! あったわ!」

 と、ツエツエが本を脇にかかえて小躍りしながら戻ってきた。

「あったのか!?」

 一足先に戻っていたヤバイバが(結局見つからなかったのである)顔を明るくする。

「でも一人しか復活させる事が出来ないのよ・・・」

 ヤバイバとしては今後の苦労(?)を考えるとその方がありがたいだろう。

「じゃあ誰にするかクジで決めよう」

「いいわね! あ、忘れてたけど、これで復活させると、たとえ倒されてもまた復活

できるの。それも、自分の意志だけで。本当にありがたいわよねぇ」

「そら、クジが出来た!」

 と、アミダクジを広げる。真剣なのかふざけているのか・・・。

 ツエツエが決めたアミダをたどっていく。

「ここね・・・」

「ああ・・・」

 二人は真剣な面持ちで、隠してある名前を開いた。

「ウ・・・ウラ・・・」

 二人が声を揃えて言う。

「またあの『おじゃる』がはじまるのか・・・」

「ここ、綺麗にした方がいいわよね・・・」

 ツエツエは白けた顔で本を開いた。

「ここに、復活させたい人の名前を書いて、本に挟んで閉じろ、って書いてあるわ」

「よし・・・これでいいか?」

「ええ、じゃ閉じるわよ」

 ツエツエが本を閉じて静かに床におくと、その本がまばゆい光に包まれて空中へと

舞い上がる。

 そして天井へ行き当たった直後、その光が一筋地面に向かって注がれ、究極体にな

る前のウラが、姿を現したのである。

 そして光が消え、ウラの頭に本が落っこちたのだ。

「・・・子供のいたずらでおじゃるか?」

「ウラ様!」

「お待ちしておりました!」

 さっきの言いぐさはどこへやら、である。

「まろを呼び戻したのはお前達か?」

「はい!」

「その通りです!」

 ウラは扇子を広げて、満足そうに笑った。

「そうでおじゃるか。しかしまた見ないうちに汚くなったものでおじゃる・・・」

「早速ですがウラ様、ガオレンジャーを倒す方策を考えていただけませんか?」

 ヤバイバはそう言って、今までの経緯を全て(脚色もあったが)ウラに伝えた。

 するとウラは何かを考えながら、部屋を歩き回り始めた。そして、こう言ったの

である。

「倒す方法はあるでおじゃる。奴らを復活させる事が出来ない形で、完全に」

 ツエツエとヤバイバが顔を見合わせた。

「電極オルグを作るでおじゃる。全てまろに任せておけば安心・・・。お前達、ま

ずはこの部屋を綺麗にするでおじゃる。部屋を金箔で飾り立てるのじゃ」

 また始まった・・・。ツエツエとヤバイバは顔には出さないものの、心の中で悲

鳴を上げていたのだった・・・。

 

 オルグ反応を察知したガオレンジャー達が、現場へと急ぐ。その間にもウラが造

り出した電極オルグは、人々を好きなように操って楽しんでいた。

 喫茶店でケーキを食べている女性の頭に電極をつけて、

「あなたはケーキが食べられなくなる。ダイエットが生きる目標になります・・・。

甘いものをこの世から抹殺するのが、これからあなたに科せられる、新たな使命と

なるのです・・・」

 そう言って電極が取り外されると、女性の目がぎらりと光り、店の中で大暴れを

始めてしまった。

 さらに場所を変えて、公園に行くと、疲れてベンチで寝転がっているリストラサ

ラリーマンを見つけて電極をつけて、

「あなたはこれから、仕事を探すのをやめる。人々を恐怖のドンゾコに陥れる犯罪

集団を作り上げるのが、あなたに与えられた使命なのです。さあ、街へ出なさい。

あなたは目覚めると積極的に若者達に話しかけ、集団へ入るように勧めるのです。

悪こそが、あなたの生きる道なのです・・・」

 と、まさにやりたい放題である。電極をつけられた人間が、それまで何をしてい

たのかを瞬時にこのオルグは読みとり、そして催眠術にも似たものをつかって、人

々を間違った方向へと導くのだ。

「待て!」

 ようやくガオレンジャー達が現場に着いた。だが、そこにシルバーの姿はない。

「待ちくたびれたぞ」

「灼熱の獅子・・・」

「名乗りなど聞きたくない! 俺を探してみろ」

 そう言って、電極オルグは煙と共に姿を消してしまったのである。

「クソ、どこへ!?」

 ブルーが周囲を見回していると、後ろにいたブラックが、

「そう言えばシルバーはどうしたんだ?」

 とレッドに尋ねた。レッドが首を傾げると、

「寝てるんじゃないのか?」

 とイエローが言い出す。その脇腹をホワイトが小突いた。

「あとになれば来るでしょ! それより今は奴を探すのが先決よ!」

「そ、そうだな! よし、みんな手分けして探すんだ!」

 と、レッドは都心の方へと駆け出していく。残った四人もそれぞれ別の方角へ

走り出した。

 その時、シルバーはというと、

「やめろって言ってるのが分からないのか!?」

 と、拳銃を乱射している警察官を後ろから羽交い締めにしている最中だった。

テトムに、洗脳された人たちを元に戻すように言われていたのである。

「放せ! これが僕の使命なんだ!」

「何が使命だ! 放すもんか!」

 どうやったら洗脳を解除できるんだ・・・。暴れ回る警察官を必死で押さえ

込みながらシルバーが考えていると、煙と共に電極オルグが姿を現したのであ

る。

「お前は!?」

 シルバーが驚いて手を放すと、警察官が地面に倒れた。すかさず電極オルグ

はその警官の頭に電極を放ち、

「よく聞きなさい。あなたの目の前にいる人間達は全て犯罪予備軍なのです。

彼らを全て逮捕するのがあなたの使命なのです。さあ、よく思い出しなさい。

邪魔者は私が引き受けます。あなたは気にしなくても良いのです。この世を

浄化するには、あなたの力が必要なのです・・・」

 電極が外れると警察官は雄叫びを上げながらどこかへと走り去ってしまっ

た。

「貴様! そうやって人々を操っているのか!」

「洗脳は俺でないと解除は出来ない。お前も、そしてガオレンジャーも例外

ではないのだ」

「洗脳など破ってみせる!」

「ならばそれを証明してもらおう!」

 電極オルグが電極を放ち、そのコードでシルバーの体をぐるぐる巻きにし

てしまった。そして、紫色の電流を流し込む。

「ぐはッ!」

 シルバーが苦悶の声を上げると、電極オルグはコードをたぐり寄せた。そ

してシルバーを近くに寄せると、目から光線を出したのである。それを顔に

受けたシルバーは、そのままガックリと頭を垂れて眠ってしまった。

「シルバー!」

 ブラックが駆けつけて叫ぶと、

「まだまだ鬼ごっこは終わりではない!」

 と電極オルグが言って、電極がついていない左手から、妖しく光る触手を

ブラックに向けて伸ばしたのである。触手に巻き付かれたブラックが体をよ

じっていると、電極オルグがその触手を振り回した。

 ブラックの体が宙に浮いて、壁や地面に激しく叩きつけられる。

「うああッ!」

 地面に叩きつけられたブラックが悲鳴をあげると、今度は触手を思い切り

引っ張った。

 背中を地面にこすりつけて火花を散らしながら、ブラックが凄まじいスピー

ドで電極オルグに引き寄せられる。

 その足元を素通りして宙に高く舞うと電撃を食らわせ、再び地面に叩きつ

けた。

「あぐッ」

 ブラックがゴロゴロと階段を転げ落ちていく。そして下へと落ちたブラッ

クは、背中や足の痛みに耐えかねて、地面の上をのたうち回っていた。

 と、そこへツエツエとヤバイバが現れて、ブラックに執拗な攻撃を食ら

わせている。その隙に電極オルグは再び煙をまとい、シルバーと共にどこ

かへと消えてしまったのだった。