セイバーレンジャー

 

激烈な電撃攻撃を受け,全身のセイバースーツを破壊されたアキラが,

ゆっくりと地上に降ろされていく。

足をやや開き,黒の競パン一枚の姿で浜辺に立つアキラ。

盛り上がった肩,しっかりと筋肉がついたたくましい腕と足,ぶ厚い身体。

パワー溢れるそのシルエットは戦士そのものである。が,しかし・・・・

 

「うっ・・・」

 

低いうめき声をもらして,アキラは 直立した姿のまま,前のめりに砂浜に倒れていった。

 

 

第7話 【エナジー尽きるとも】

 

 

しばしの沈黙のあと,群衆からため息がもれた。すすり泣く声も聞こえる。

何人かの防衛隊員がアキラの救出に向かわんとしたが,すぐに彼らの足は止まった。

 

ラファエルの口から伸びる金と銀のウミ蛇が牙をむいて彼らを威嚇する。

セイバーレンジャーをも倒したウミ蛇たちに立ち向かおうとする無謀な隊員は

いなかった。

数百匹のウミ蛇はいつの間にかラファエルの腹の中にもどり,今は金と銀の二匹の

大ウミ蛇のみが,つっぷしたまま動かないアキラの周囲をうごめいていた。

 

やがて2匹のヘビは,倒れているアキラの身体に巻き付き,仰向けに横たえた。

全身のあらゆるところに,裂傷,出血,焼け焦げ がある。

超高圧電流による苦悶の表情が砂にまみれている。

分厚い胸も,筋繊維に満ちた腹も ぴくりとも動かない。

 

アキラの特殊競パンの中央部は,すでに金ヘビの分泌液によってぼろぼろになり,

大きく裂けていた。

その裂け目から,プレエナジー液にまみれた極太のペニスが露出していた。

そこに金ヘビは食らいついた。

びくん とアキラの身体が大きくはねた。

ぴちゃ・・・ ぴちゃ ・・・

ヘビの細い舌が口腔内の巨大な肉塊を打ちすえ,しゃぶりまくる。

意識を失ったままアキラが悶える。

 

「・・・んんっ・・・んっ  んッんッんッ・・・・」

 

プレエナジー液がどっと吹き出す。

戦士たちの「命」=ヘルデンエナジー流失の危機を知らせる液である。

ヘビの喉がたちまちボールのように膨れ上がる。

それでもアキラの急所を離さず,舌によるいたぶりを繰り返す。

ヘビの口の周囲から,だらだらとプレエナジー液があふれだす。

 

「くくくくくく,ブラックセイバーよ,もはや限界であろう。

 そろそろ,とどめをさしてしんぜよう。

 意識が戻らぬまま果てるのも,幸せかもしれぬな ふはははははは・・・」

 

ヘビの舌が,割れ目に強引にねじ込まれた。

 

「んっ!!」

アキラの目が大きく開いた。

意識が戻ったわけではない。ただ,筋肉の反射運動でまぶたがあいただけである。

何も見えてはいない。

 

差し込まれた舌は,尿道にぐいぐいと押し入ったり,内部でぶるぶるとふるえて刺激を

与えたりと,思うがままにアキラのペニスをもてあそぶ。

下半身が暴れまくる。

目は見開いたまま,まばたき一つしない。

「うおっ! うおっ! ・・・・あっ あっ あぁっ!  があっ! ぐををっ!!・・」

 

とても人の声とは思えない声が,闇に響く。

 

「・・・・だっ,だれか・・・・ブラックセイバーを・・・助けて・・・・」

 

抵抗は長くは続かなかった。

アキラの頭が大きくのけぞった。

「うぉ・・・うぉっ・・・・ぅぅぅぅぅぅぅううううううううううう・・・

 ・・・・・がはああああああああああああッ!!!!」

 

 

最後の長い絶叫が,この戦いの「終わり」が始まったことを告げた。

ついにヘビの口の中にあふれ出すヘルデンエナジー。

真の獲物にやっとありつける金色の巨大ウミ蛇。

ラファエル本体に続くヘビの長い胴がどくんどくんと不気味に波うち始めた。

 

ラファエルの身体が強く輝きだした。表情が恍惚としている。

 

「こ,これが・・・・ヘルデンエナジー・・・・

 なんと美味な・・・・ ふははははははははは  美味じゃ 美味じゃ・・・・」

 

アキラの大きく見開いていた目が,ゆっくり閉じていく。

口がかすかに開く。

よだれが一筋流れる。

戦士のあまりに無惨な姿。

身体の激しい動きは消え,今は細かなふるえ,けいれんが全身を覆っていた。

たくましい腕がときおり,びくっと大きく動いた。

意識を失ったアキラの肉体の最後の抵抗だった。

 

「ブラックセイバー!! 起きてくれーっ!! 目をさましてくれーっ!!

 立ち上がってくれよーっ!!」

 

悲鳴が,叫び声が,闇にとざされた浜に響く。

人々はそれぞれにアキラに呼びかけていた。

声がかれても,様々な叫びが,祈りの言葉はとぎれない。

 

 

その時,アキラの目が再びひらいた。さっきとは異なり,目の中に輝きがある。

「ん! なんだと・・・」

動揺するラファエル。

よろめきながら 何度も身体をけいれんさせながら,

ゆっくりと立ち上がっていく ブラックセイバー=アキラ。

獣のうなり声のような音が口からもれる。

大きな目が下からラファエルをぎらぎらとにらみつける。

両の手でヘビを引きはがそうとするが,そう簡単にヘビはアキラのペニスをあきらめない。

 

「お・・・・おれは・・・・・戦士・・・・・

 こんな・・・こと・・・・で・・・・ こんな・・ことでぇッ・・・・

 ぬをををををぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

ついに,たくましいアキラの足が直立した。

戦士は再び立ち上がった。

口元のよだれをぬぐう。

ヘビに股間を食らいつかれたまま,太い両腕を腰に構えた。

 

「ぬんっ!!」

 

怒りと誇りと闘志の気力が,全身のヘルデン細胞を刺激する。

最高度にピュアなヘルデンエナジーが生み出される。

腕がふるえる。全身の筋肉がむきむきと盛り上がる。

分厚い胸が激しく動く。

股間から全身にパワーがみなぎっていく。

徐々にアキラの身体から光が発し始める。

 

「むっ! こ,こやつ・・・・」

 

アキラの光はどんどん強くなる。人々の声援が高まる。

ラファエルが 顔をそむけるまでに 輝くアキラの裸体。

 

と,輝きが弱まった。

 

「くっ・・」

 

がくっとアキラの右ひざがおれた。

憤怒の表情が一転,愕然・呆然とするアキラ。

 

「ああっ・・・・・ んっ・・・・ん・・・・ん・・・・がっ・・・・

 ち,ちからが・・・ パワーが・・・・ ぬ,ぬけて・・・ こ,こんなっ・・・

 ぬん・・・・ う・・・・・ はうっ・・・・・ はあっ・・・・・」

 

「・・・くっ・・・くくっ・・・・

 わはははははははははははははは

 究極のヘルデンエナジー・・・・なんという濃厚な,なんという魅惑的な味わい。

 これこそ わしが 待ち望んでいたもの!

 これぞ まさに至高のエナジー,これぞ 真の戦士のスペルマ。

 このエナジーさえあれば・・・わしは・・・・わしは・・・

 いただくぞ もっともっと・・・・  それっ それっ  おおっ おおおおおおっ

・・・」

 

状況は群衆にもすぐにわかった。声援が止まった。

アキラの起死回生の最後のエナジーすら ラファエルは 吸収することができるのだ。

それでも なお気力を振り絞るアキラ。

 

「でゅふぁっ  ぬをっ  でっ・・・でやっ・・・・・

 ・・・・ ううっ!」

      

左ひざもくずおれた。

ももががたがたとふるえる。

ぎりぎりと歯を食いしばる。顔が苦悶にゆがむ。

両膝を砂地についても なお 気力を集中させるが,

エナジーはどんどん吸いとられ,皮肉にも怪天使ラファエルのパワーと化していく。

しかし今,エナジーを絞り出し続けなければ,アキラの命そのものが危なくなる。

いかにパワー戦士ブラックセイバーとはいえ,

ヘルデンエナジーの尽きる時は刻一刻と迫りつつあった。

事態は絶望的だった。

 

「くっ・・・・ うっ・・・・ ぐくっ・・・・・ あうっっっ・・・・

 だっ・・・だめ・・・か・・・・」

 

アキラの上半身がしだいにのけぞり,ふらふらと揺れ始めた。

意識が途切れ途切れになっていく・・・

 

 

と,二筋の光線が夜空を走った!

金ヘビの胴が切断され,ぎょっとして鎌首を上げた銀ヘビもあっという間に切断された。

どさっと 砂浜にすわりこむアキラ。

「ちっ 来おったか!」舌打ちするラファエル。

 

セイバーシューターを手にした ブルーセイバー,イエローセイバーが海岸を見下ろし

ている。

人々の歓声が爆発する。

 

「ブラックセイバーよ,今夜はここまでとしておこう。

 またいずれ おぬしのヘルデンエナジー いただきに参上しようぞ。

 気に入った。気に入ったわ。おぬしのエナジー。

 次に会うときまでに もっともっとつよおなっておれよ。

 ふはははははははははははははははははは」

 

羽根を閉じ,ゆっくり波間に消えていくラファエル・・・・・

すわりこんだアキラの股間。断ち切られた金ヘビの頭がまだ離れない。

切断面から5色に発光する液体がしばらく流れ出していたが,まもなくそれもなくなっ

た。

ブルーとイエローが負傷者の確認や防衛隊と情報交換をしている間に,

ジャンパー姿のセイジがアキラに駆け寄っていた。

あごをこじあけてヘビの頭を引き剥がし,脱いだジャンパーをアキラの腰にかける。

顔をそっとなでて血と汚れをおとすと,頬に唇をつけた。そして何事かを耳元でささや

いた。

もちろんアキラは意識を失ったままである。

セイジは 171センチ 72キロの肉体を軽々と抱き上げ,歩き出した。

 

 

アキラの搬送も終わって,ブルー,イエローと話すセイジ。

「ケンタとまだ連絡がとれない」

「最後の連絡はS駅近辺からだったんだな」

「言い残していった連絡先は実在しない」

「蒸発かよ。それともプチ家出のつもりか? あいつトレーニング場であんなだったし」

「家出ならまだいいんだが・・・・

 この前の戦いといい,いまのアキラといい,やつらの目的が変わってきたのは確かだな」

 

「ふっ・・・・ 俺たちそのものか」

「だろうな。かなり分析されてるようだぞ,俺たち」

「もうスーツやメットはあてにならないってことか。厳しいな」

「博士に新型装備の開発を急いでもらってはいるが・・・・

 とにかく 今は ケンタが心配だ。全力をあげて探そう」

「よっしゃ。じゃ行くか・・・・・・・・おい,セイジ,ところでよ」

「なんだ?」

「これで ホントに プチ家出 だったらどうする?」

セイジが笑った

「スーパースペシャル地獄の猛特訓だ」

 

 

 

今日の特訓を思い出してケンタはため息をついた。

なんで 僕が セイバーレンジャーなんだろう・・・

もともと子供の頃からやっていたのはレスリングだ。レスリング部がない高校だったか

ら水泳部に入っただけだ。

あの日だって,夏休みのバイトで海水浴場の監視を手伝っていたにすぎない。

事前の救助の研修なんて ちょこっとすませただけだ。ただ,あそこでシュンスケさん

と出会ったんだよな。シュンスケさんもライフセイビングは素人だったけど,

泳ぎのほうはプロだった。

そして,突然のメーアの大侵略・・・・ パニックの中で,メーアの戦闘員に向かって

いったシュンスケ先輩がきれいな青い光に包まれたのは覚えている。だけど,自分がどう

してたのか,今でもよく思い出せない。

先輩が言うように,ほんとうに緑の光にあたったんだろうか。

気がつくと,先輩と一緒に戦っていた。

 

そのあとはめまぐるしかった。

家族の死がまだ受け止められないうちに政府の人がやってきて,つれて行かれて,セイ

ジさんやアキラさんたちと会って,訓練が始まって,スーツの実験があって,グリーンセ

イバーとして最初の戦いがあって・・・・

とにかく無我夢中だった。

でも,その夢中からいつ醒めてしまったのだろう。

もしかしたら・・・・

デヴィーラとの戦いも厳しかったけど,そのあとの ギガンデスに苦しめられる先輩を

見ていたときだったのかもしれない。手足を決められ,背骨をあそこまで曲げられ,

背中に杭のような針を何本も打ち込まれて スーツを破られていく先輩の姿。

僕は震えるだけで,助けるどころかまともに見ることすらできなかった。

あの時からだったのか・・・・

 

「ねえ,聞いてんのッ!」

「えっ?」

「ふふふ ケンタ君 ずいぶんぼーっとしてたね」

順一郎さんが前を向いたまま笑った。

「彼女のことでも考えていたんじゃないかな」

ハンドルを握る光二郎さんが冷やかした。助手席の順一郎さんがくすくす笑う。

「せっかく一生懸命話してたのに,もう!」

隣でカナちゃんがむくれた。

「ま,もうすぐ家だからさ」

「あ,すいません 順一郎さん,ニュース聞きたいんですけど,いいですか?」

・・・・・

ケータイも鳴らないし,特に事件はおこってないようだ。問題はあしただよなー

基地に顔,出しにくいな・・・・・

都心からすっかり離れたようで,窓の外は真っ暗だった。

車が止まった。

 

「さあ,ついたよ」





thanks Blue Dragon