ロビン(24)

ロビンがゴッサム球場で生き恥を曝して一週間が過ぎた夜。

ゴッサムシティの玄関口・ゴッサム駅の待合室に、

たたずむ一人の少年の姿があった。

待合室に置かれた大型テレビがバラエティ番組を報じていたが、

それには目もくれず、じっと下を向いている。

ロビンである。

ヒーローへの夢敗れ、静かにこの街を去るつもりなのだ。

 

だが・・。

♪六甲おろしに颯爽と〜 蒼天駆ける日輪の〜

静かでない者が現れた。

虎仮面である。

「おぉっ、旅は道連れ世は情け。

 えぇ暇つぶしのネタがおるやんけ」

ロビンを見るなり歩み寄ってきた。

「おい、ウサマビン・ビン。

 元気しとるか?!」

夜も更け、待合室の人も少なかったが、虎仮面の一言で

人々の視線はロビンに集中する。

「と、虎仮面さん」

「ぎゃははは。冗談やんけ。

 お前にはあんなヒゲもなければ、チン毛もない事ぐらい、

 このワシがよう知っとるわい」

「は、はい。みなさん、よくご存知ですよね」

目を伏せるロビン。

「フン。元気がないのぅ。

 まぁ、あんな事があって、元気モリモリやったらおかしいけどな。

 お前、これからどないすんねん?」

「はぁ・・、西海岸にでも行って、ひっそり暮らそうかと・・」

「オジンか、お前は」

「虎仮面さんは?」

「新庄の奴、今度はよりによって巨人に入りよった」

「で、でも、あれはサンフランシスコ・ジャイアンツで・・」

「ジャイアンツいうたら、巨人やろが!。

 阪神に世話になっといて、何やねん。その態度は!。

 あいつ、しばいてから、日本に帰るつもりや」

「日本ですかぁ・・」

ふと顔を上げるロビン。

「虎仮面さん、僕も日本に連れて行って貰えませんか。

 僕を弟子にしてください」

「お前がっ!。ケッ。甘いのぅ。

 アメリカでヒーローになれんかった奴が、日本ならなれると思っとるんかい。

 えぇか。日本はアメリカより、ヒーローには厳しい土地柄なんや」

「えっ?。どうしてですか?」

「一言で言うのも難しいがな。要は考え方の違いや。

 お前らヤンキーにとっての正義は、自由を守る事やろ。

 そやけど、日本人は平和を守る事を正義と考えるわけや。

 それも争いを起こさない事を正義と考えてしもとる。

 そやから、チョン○(差別用語)の不審船に反撃しても非難されたりする。

 信じがたい世界なんやぞ」

「文句は言うけど、自分では何もしないっていうのは

 アメリカも同じですよ。

 この前の件じゃ、僕のところに『頼りない』とか何とか、

 抗議の電話が殺到なんです。

 マスコミも勝手な事ばかり言うし」

ロビンはそう言って、大きなため息をついた。

「まぁ、そうかも知れんな。外野は黙って見とればええんや。

 今年の金八先生の贈る言葉は『全世界が幸せにならない限り、

 一個人の幸せはあり得ない』ちゅうモンやったが、

 そんな事言うたら、幸せになれる人間なんかおらんようになる。

 『ワシが幸せにならん限り、全世界が幸せになる事はない』ちゅうべきなんや。

 要は一人一人の努力が大事やっちゅう事やけどな」

 

虎仮面の説教が始まった時、待合室のテレビ画面が突然乱れた。

数秒後、画面は正常に戻ったが、そこには忍者仮面少尉の姿が映し出されていた。

ショッカーによる電波ジャックだ。

「ロビン。見ているか?。

 俺たちは人質とともにゴッサム渓谷にいる。

 人質を助けたければ、一人でここに来い。

 まぁ、お前にそれだけの度胸があればの話だがな」

画面は、次に人質を映し出した。

忍者仮面少尉がマイクを手に、人質に近づいていく。

「おい、お前。ロビンは来ると思うか?」

頭の禿げたオヤジにマイクを向けた。

「う〜ん。彼も頑張ってくれたし、来なくても仕方ないかも・・」

次々にマイクを向けていく。

「もし来てくれなくても、恨みはしないからな」

「無理な事はしなくて良い。警察に任せれば良いんだ」

誰も悲観的だ。

と、一人のオバタリアンが自らマイクの前に進み出た。

「ロビン。あんた、ヒーローなんでしょっ。

 私たちを助ける義務があるんだから、さっさと助けてくれたらどうなのさ。

 それとも、私たちを見殺しにするつもり!」

耳を覆うロビン。

が、

「大丈夫だよ。ロビンは必ず助けに来てくれる。

 僕、ロビンを信じているもん」

ロビンはテレビ画面に目を向けた。

小学生ぐらいの少年だ。

「ロビンはきっと、悪い奴らをやっつけてくれるんだ」

忍者仮面少尉は少年にマイクを向けた。

「ほう、ロビンが助けに来てくれるのか」

「そうだよ。お前達なんか、やっつけてくれるんだ」

「では、もしもロビンが助けに来なかったら、

 お前を殺しても良いのかな?」

「良いよ。だって、ロビンは絶対に来てくれるんだモン」

 

ロビンは立ち上がった。

「虎仮面さん。僕、行きます。あの子を、いや人質を救ってきます」

「フン。お前もまだ青春しとるのぅ。

 まぁ、ええやろ。

 そや、餞別に技を教えたる。ユニカッターや」

「えっ、今ですか?」

「あぁ。手間はかからん。

 こう、手を相手にかざして、『ユニカッター』と叫んだらええんや。

 簡単やろ」

「簡単すぎて・・」

「どうせユニレンジャーの技やさかいな。

 信じる者は救われる程度のモンや」

「それじゃ、行ってきます」

走り去るロビンを、虎仮面は大きなため息とともに見送った。