ロビン(1)

 

悪がはびこる町−ゴッサムシティ。

今夜もバットマンの秘密基地には、事件発生を知らせるアラームが鳴り響いていた。

 

「化学工場がショッカーに襲われた。

 一味は大量の劇薬を奪って、7号道路を北に逃走中だ」

バットマンが地図をメインパネルに映し出す。

ショッカー一味の所在を示す赤い点が、パネルの上を高速で移動していた。

「この先はゴッサム森林公園だね」とロビン。

「そうだ。おそらく森のどこかにショッカーの秘密基地があるに違いない。

 私はバットカーで彼らを追跡する。

 君はバットヘリでゴッサム公園に先回りしてくれ」

「わ、分かった。任せてくれ」

 

バットマンの指示を受けた時、ロビンの心に緊張が走った。

これまでも、何度もショッカーとの死闘を演じてきた。

しかし、その傍らには、常にバットマンの姿があった。

自分が戦闘員と戦い、バットマンが怪人を倒す。

いつも、その繰り返しだった。

たしかに自分と比べれば、バットマンは力もあるし経験も豊富だ。 

だが、自分にも怪人を倒す自信はある。

“今日、それを証明するのだ”

 

ロビンは7号道路と繋がる公園の入口に身を潜め、ショッカー一味を待ち構える。

ロビンにとって、長い時間が過ぎた。

ふと、遠くに車の灯りが見えた。

走行音も聞こえてくる。

トラックのようだ。

おそらく、劇薬を積んだショッカーのトラックなのだろう。

やがてトラックは森の入り口で止まった。

ここから先はトラックの通れる道はない。

何人かの戦闘員がトラックを降り、荷物を降ろしているのが分かる。

“バットマンは?”

追跡の途中で見失ったのか等々、ロビンはいろいろな可能性を思い巡らせたが、

今はそれを考える状況ではない。

ショッカーの戦闘員が、奪った劇薬を基地に運ぼうとしている。

ここで飛び出して劇薬を奪い返すか、基地を突きとめてから戦うかだ。

後者ならバットマンと合流できる可能性もある。

おそらく、ロビンが冷静であったなら、後者を選んだだろう。

だが、ロビンは敢えて前者を選んだ。

“バットマンが来る前に、俺一人でカタをつけてやる。

 俺はいつまでもナンバー2の男じゃないんだ”

ロビンは心の中でそう叫ぶと、森から飛び出した。

「待て!。そこで何をしている」

ロビンの言葉に、戦闘員達は荷物を置いて身構えた。

「そこまでだ、ショッカー。

 大人しく荷物をトラックに積み直して、化学工場に戻すんだな。

 その後は、ゆっくり刑務所の個室で休ませてやる。

 何なら、今ここで寝かせてやってもいいが」

ロビンはそう言って拳を構えた。

狼狽える戦闘員。

だが、トラックの助手席のドアが開くと、

蛾の姿をした女怪人が現れた。

ロビンにとって、一人でショッカーの怪人に対するのは初めてだ。

「ふふふ。せっかく運んできた物を元に戻せだって。

 それは、私がショッカーのモス少佐と知って言っているのではあるまいな」

「だ、誰でも同じだ。大人しく荷物をまとめてUターンしろ」

「おやっ?。今日は一人かい。声がうわずっているよ、坊や」

「うっ」

ロビンの顔が怒りと屈辱で赤く染まる。

バットマンが一緒の時は、こんな事はなかったのだ。

「坊や、私たちを待ち伏せしていたつもりだろうけどね。

 後ろを見てごらん」

「あっ」

森の中から戦闘員が続々と現れてきた。

「『逃げるが勝ち』って知ってるかい、坊や。

 今日のところは勘弁してあげるから、大人しくお家に帰るんだね」

大勢の戦闘員でロビンを取り囲み、モス少佐は余裕綽々だ。

「な、舐めるな!、モスバーガー」

ロビンは叫びながら、戦闘員に襲いかかる。

「ふん、大人の忠告は素直に聞くものだよ、坊や。

 思い知らせておやり」

モス少佐の命令で、戦闘員も囲みを狭めてロビンに対する。

だが、ロビンと戦闘員では、やはりロビンに分があった。

ロビンのキックが戦闘員に炸裂する。

戦闘員のパンチを軽くかわすと、その首にチョップが飛び、

さらに別の戦闘員にパンチが見舞われた。

そして、次なる相手に右足でキックしようとした時だ。

左足に何かが巻き付いた。

「えっ?。わぁぁぁー」

考える間もなく、ロビンは左足を引っ張られ、地面を引きずられていく。

見ると、木の上にクモの姿をした怪人が立ち、口から吐いた白い糸を操っている。

この糸がロビンの足に巻き付いていたのだ。

「遅かったじゃないか、クモ男。

 早く、その意地っ張りの坊やを始末しておしまい」

「申し訳ありません、少佐殿。只今」 

クモ男はモス少佐に一礼すると、糸を木の枝に掛けたまま、木の下に飛び降りた。

「わーー」

ロビンは足を引かれ、木に逆さ吊りの格好になる。

「ふふふ。だから言わない事じゃないんだよ、坊や。

 あの時、大人しくお家に帰っていれば、こんな格好にならずに済んだのにねぇ。

 まぁ、今日はもう暗いから、悪いおじさんに捕まるといけない。

 私たちのお家に泊めてあげるから、しばらく待っているんだね」

モス少佐はそう言うと、羽を広げて二三度、前後に動かせた。

金色の粉が宙吊りにされたロビンの周囲に舞ってくる。

ロビンは金色の粉を見た瞬間、激しい睡魔に襲われた。

「今日はもうお休み、坊や。

 でも、私たちのお仕事の邪魔をしたんだ。

 明日はたっぷりお仕置きをしてあげるからね」

その言葉を最後に、ロビンの意識はなくなっていった。