奴隷・仮面ライダー2号(1)

 

海辺の道を一台のバイクが疾走していた。

正義の心をライダースーツに包んだヒーロー・仮面ライダー2号である。

FBIからの情報で、ショッカーの大幹部・ゾル大佐が、

この近辺に潜伏しているというのだ。

しかも、わずかな戦闘員を連れただけで、怪人はいないとの情報である。

ゾル大佐を倒すには絶好の機会であった。

 

「いた!」

情報は確かだった。

ライダー2号の目が、ジープに乗ったゾル大佐を捉える。

随行している戦闘員もわずか数名だ。

「トーーー」

ライダー2号はサイクロンに乗ったまま、大きくジャンプして、ジープの前に躍り出る。

ジープは突然の事に急停車した。

「ゾル大佐。見つけたぞ。

 今日こそ決着をつけてやる」

サイクロンを降り、ジープに歩み寄るライダー2号。

太陽の光をライダースーツに浴び、その姿は輝いて見えた。

戦闘員など、そのスーツを見ただけで、すでに狼狽している。

 

だが、ゾル大佐もショッカーの大幹部だ。

全く怯むところを見せずジープから降りてくる。

「君か、我々の邪魔ばかりするという男は」

ライダー2号のスーツが正義の光に輝いているなら、

ゾル大佐の軍服からは、ライダー取るに足らずの自信があふれていた。

「今なら見逃してやる。大人しく帰りたまえ」

「なに!!」

ライダー2号は、今までどんな怪人と戦った時にも感じた事のない感情、

不安を覚えた。

これまでも、ライダー2号は多くの怪人と戦ってきた。

時には捕らえられ、或いは怪人の攻撃に痛めつけられる事もあったが、

どんな窮地に立たされても、不安を感じた事はなかったのだ。

そのライダー2号が今、戦わずして不安になっている。

 

「どうしたね。私を倒すんじゃなかったのかね」

ゾル大佐が歩み寄ってくる。

逆にライダー2号はジリジリと後退した。

“くそっ、何をやっているんだ。

 俺は仮面ライダー2号だ。

 正義のマスクをつけ、正義のスーツを着て、正義のブーツを履いて戦う戦士なんだ。

 このマスクとスーツとブーツを身につけている限り、俺に敗北はあり得ない”

ライダー2号は気持ちを奮い立たせると、ゾル大佐めがけて大きくジャンプした。

「トーー」

あまたの怪人を葬ってきた必殺技だ。

「ライダーキック!」

だが、ゾル大佐のムチが一瞬のうちに、いや一瞬の数百分の1のうちに、

ジャンプしたライダー2号のブーツに巻き付いた。

「えっ?」と思った時には、すでにライダー2号はゾル大佐に振り回されていたのだ。

次の瞬間、ライダー2号は海岸にあった漁師小屋に叩きつけられる。

すでに廃屋になっているのか、傷みかけた木造の小屋では、

その衝撃を受け止めきれず、ライダー2号は壁を突き破って、

小屋の中まで吹き飛ばされた。

“強い”

一瞬のうちに、ライダー2号の不安は恐怖に変わる。

逃げ出したい気持ちにもなった。

だが、そんなライダー2号を支えたのは、やはりライダースーツだった。

“これは正義の象徴なんだ

 俺は正義の戦士・仮面ライダーだ”

自分に言い聞かせて小屋を出る。

ゾル大佐は背を向けて、戦闘員と何やら話をしていた。

“今だ!”

ライダー2号は再びライダーキックを仕掛けた。

振り向くゾル大佐の動きが、わずかに遅れたように見えた。

“決まった”

そう思ったのも束の間、ライダー2号は自分の両足が

ゾル大佐に掴まれている事に気付いた。

そして、その状況を理解する前にライダー2号の身体は、地面に叩きつけられた。

さらにゾル大佐は、仰向けに倒れ、無様な姿を曝すライダー2号の股間を踏みつける。

身体を起こし、両手でゾル大佐の足を払いのけようとするが、ビクともしない。

ライダー2号の目前で、正義の象徴であるライダースーツが踏みにじられていく。

「手を放せ、ライダー2号」

隻眼のゾル大佐が上から睨みつけた。

ゾル大佐の足から手を放すライダー2号。

それは、ライダー2号の恐怖が屈服に変わる瞬間だった。