野球戦士・真樹(プロローグ1)
県営球場が大きなどよめきに包まれていた。
高校野球地方予選の準決勝。
ここ数年、連続して全国大会に進み、最近は県外からも選手を集めて、
全国優勝をも狙うQL学園。
それに対するは、創立3年目で、地方大会にも初出場という無名の県立高校である。
誰の目にも勝敗は明らかに思える試合であった。
だが、ドラフト候補の見本市とまで呼ばれたQL学園の強力打線の前に、
一人の男が立ちはだかった。
県立聖峰高校野球部エース・松浦真樹である。
マウンドの上で、彼の純白のユニフォームは輝いていた。
しなやかなフォームから投げ下ろす快速球はQL学園の強打者を圧倒し、
角度のある変化球は相手を翻弄する。
試合は1−0と聖峰高校のリードのまま、9回を迎えた。
完全試合まであと一人。
QL学園の圧勝を予想して集まった観衆も、今ではすでにヒーロー誕生の瞬間を
待ちわびている。
最後の打者も、カウント2ストライクと追い込まれていた。
マウンドで純白のユニフォームが大きく振りかぶる。
真樹の指を離れたボールは、一直線にキャッチャーミットに吸い込まれた。
「ストライク、バッター・アウト!」
ヒーロー誕生の瞬間。
だが、真樹はナインの祝福にもわずかに白い歯を見せただけで、笑みすら浮かべない。
そこには、強豪QL学園を相手にしても、勝って当然という風格すら感じられる。
スポーツ紙の記者も、もはやQL学園の選手には目もくれず、
真樹を取り囲んだが、真樹は「まだ、決勝がありますから」と
言葉少なに語るだけだった。
「違うんだよ、何かが。俺が求めている物とは・・・」
ロッカールームで、真樹は一人つぶやいた。
強豪QL学園を破って、この上何を求めているというのか、
今の真樹にも、まだ分かってはいなかったが・・。