第5話
人間の姿に戻ったリュートは不意に痛んだ腹部を押さえ、うずくまった。
腹の傷はなんとか塞がったものの、服はボロボロに破れ、体中がズキズキと痛む。
自分の目の前に巨大な怪鳥の死体があった。
あたりに人はいない。
避難しているためだろう。
「・・・なんとか・・勝った・・うぐぅっ・・・痛って・・」
腹から胸にかけて強烈な痛みが刹那を襲う。
「・・・そうだ・・アルス・・・」
なんとか立ち上がり、歩き出す刹那。
すると長身の女性がこちらに向かってくるのがわかった。
バーム星人だった。
「・・・っっ・・・!!?」
バーム星人が何か大きな物を引きずって歩いてくる。
見るとそれは人間のようである。
それはウルトラマン・アルスの地球上での仮の姿だった。
動かないアルスの足を引っ張ってきたのだ。
「お疲れさま。運がよかったわね。」
「・・・・アルス・・・・?」
「あーら。あなたがはやくあのでかい鳥を倒さないからもう死んじゃったわよ。」
セツナの顔色から血の気が引いた。
「・・・えっ・・なん・・で・・・」
カラータイマーは無事のはずだ。彼等ウルトラマンは第二の心臓とも言うべきカラータイマーさえあれば、
例え五体が砕けても生き返ることができる。
動かないアルスに駆け寄るセツナ。
しかし、アルスの心臓は止まっていた。
「・・・・うあああああああああああああああああああああっっあああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!」
「かわいそうにね。でもあなたが悪いのよ。そもそもアタシが何もしないとでも思ったわけ?
あんたがあの怪鳥と遊んでる間にコイツのカラータイマーをグシャグシャに踏み潰してやったのよ!
キャハハハハ」
「あ・・・あ・・・あ・・・ッッ!!うああああああああああああ!!!!」
セツナは痛みを忘れてダダ星人に殴りかかる。
しかしダダ星人はセツナの細い腕を難なく掴んだ。
そしてセツナのボディーにパンチを一発叩き込んだ。
ボスッ!!!
「んぐっぅぅ・・・」
ドサッ・・・・
セツナの意識が薄れてゆく。
ガンッ・・・
追い打ちをかけるように後頭部に衝撃がはしる。
何がなんなのかわからないままセツナの意識は途切れた。
数ヵ月後・・・
ウルトラマンのいなくなった地球で、人類は今、まさに絶滅の危機に瀕していた。
それでも僅かに残った人々は希望を捨てず、シェルターを利用したゲリラ戦法で侵略者達との壮絶な戦いを繰り広げていた。
そんなときだった・・・
一人の少年が今、まさに怪獣に踏み潰されんとするとき・・・
暗雲が真っ二つに割れ、地上に光が降り注いだ。
「ウルトラマン・・・?」
誰かがポツリと呟いた一言を皮切りに、歓声が廃墟と化した街のあちこちから湧き上がった。
地上に現れた、青いラインのウルトラマン・・・ウルトラマン・アルスは、瞬く間に閃光と化し、
地上を我が物顔でのし歩く怪獣たちを駆逐した。
再び沸き起こる歓声・・・
だが、直後に降り注いだ黒い光によってそれはすぐに阿鼻叫喚の叫び声へと変色した。
振り向いたアルスの体が強張る。
今や全宇宙の支配者と化したバール星人に伴ってやってきたそれは最早昔の面影は無く、異形と化していた。
かつて赤かった部分が変色した黒と銀の不気味なボディ、露になった陰茎の鈴口に差し込むようにして取り付けられた巨大なピアス。
あの頃の幼い顔つきを僅かに残したマスクの中心でにごった光を放つ両の目・・・それは、かつてこの地球を守っていた英雄、
ウルトラマン・リュートの変わり果てた姿だった。
「リュート・・・」
通じないと分かっていたが、アルスは元・同胞へとテレパシーを送る。
「あのとき・・・オマエが気絶する直前、バール星人に気づかれないように放った光・・・・・・
あの光が消えかけていたボクの命を呼び戻してくれた・・・フン、まさかいじめてたオマエに助けられるとわな・・・だが・・・」
黒い巨人は無言で右腕を掲げた。その手の甲に黒い剣が生成される。
アルスは構わず続けた。
「だが・・・感謝・・・している・・・・・・。宇宙警備隊は壊滅したよ・・・・・ボクの命も・・・もう長くは無い・・・
だから・・・最後にオマエを・・・・・・オマエを殺しに来た」
アルスの右腕に光の剣が生成される。反対側の腕はすでに無く、そこからは絶え間なく光が流れ出していた。
・・・ありがとう
空耳だったかもしれない。だが、アルスにははっきりとそう聞こえた。
にごった瞳が僅かに微笑んだような気がした・・・
アルスは腰をかがめ、助走の体勢をとった。
宇宙の片隅で、ひとつの光が散っていった・・・