死の幻想  

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謎の声:さぁ、準備は整いました。

    おいでなさい仲間の元へ。

    そして私の手の中へ。

    くくくくくくく・・・・

    ははははははは・・・・・

 

 周りには何もない。

そう言葉の通りになにもないその場所にサーカスのテントだけがある。

しかし、そのサーカスを見る観客もいない、サーカスのピエロ達の控え室などもない。

そんなおかしな場所にマントの男は一人たたずんでいた。

 こんなおかしなテントが現れても気にしなければよかっただけの話・・・・

そんな簡単なことだった・・・・

そうすれば少しは状況が違ったかもしれない・・・・・

いや、目をつけられた時点で運命は決まっていたのかもしれない・・・・・・

 

 

 

チチ:悟空さ、悟空さぁぁぁぁ大変だぁぁ

 

悟空:どうしたぁチチ?そんなに慌てて

 

チチ:この前、サタンさから頼まれて悟飯ちゃん達が調査に行った事件さあったべ?

 

悟空:おぅ、それがどうしたぁ?

 

チチ:悟飯ちゃん達の行方がわからなくなったんだぁぁ。

 

悟空:ベジータも一緒だっただろう?

 

チチ:みんな連絡取れないんだと、今電話があっただ

 

悟空:おっかしぃなぁ。

   ベジータがいるんだから、もしもなんてことないはずだが・・・・

 

チチ:みんなを探しに行ってけろ、悟空さ

 

悟空:よし!わかった、ちょっと出かけてくる。留守を頼むぞチチ!

 

チチ:悟空さも気をつけて

 

 チチから突如として聞かされた大事な家族、大切な仲間の行方知れずの知らせ。

そもそもの始まりはミスターサタンからの依頼でベジータ、悟飯、トランクス、悟天が現場に急行した。

というのも、大都市が一夜にして蒸発し、怪しげなサーカスのテントがあるだけ。

それを調べに行った警察官や軍隊はそれっきり帰ってこなかった。

一般人では解決が出来ない、しかしあのセルをも倒した世界の英雄ことミスターサタンならば

解決が出来るということで調査の依頼が舞い込んできたのだった。

もちろん自分では調べられない、そこでいつもの様に秘密裏に悟空達に調査の依頼を

かけてきたのだった。

 この世で並ぶものがいないほどまでに強くなった悟空、そしてベジータ。

その片割れであるベジータが調査に行き、行方がわからない事態など誰が想像しただろうか・・・

本人も想像していない事態だったのに違いない。

まして、あんなことになっていようとはこの世の誰も想像など出来はしなかっただろう・・・・。

 仲間、家族のことを不安に思いながら問題のサーカスのテントがある蒸発した大都市に向かった。

 そこは言葉通りに町が何もなくなっていた。

破壊ならば瓦礫もあるだろうが、破壊後に必ず残る瓦礫はどこにも見当たらず、

本当にその土地から綺麗になくなっているのである。

埋め立てたばかりの新しい土地の様でさえあった。

本当はそこに町などなかったのではないかと錯覚するくらいに綺麗だった。

しかし、そこに町が確かにあったのだ。

サーカスのテントの周りだけが綺麗になっており、

その円状に整地された場所から外側はそのまま町が残っている。

それも不自然にビルが切れていたりした状態で・・・・。

 

悟空:みんなの気が感じられねぇぞ。本当にここにいるのか・・・・?

 

 悟空は警戒しながらも問題のテントに入っていった。

まるで悟空を待っていた様にサーカスのテントは無用心にも開いていた。

 

サァァァァァァァ・・・・・・・

 

 悟空がテントに入った途端、幕が下り、入り口が塞がってしまった。

 しかし、破壊できない壁で塞がったわけではない、このふわふわしたテントの幕が下りただけ、

煩わしいが気にせずに出ることさえ出来る、なんなら気で生じる衝撃波で

ヒラヒラと開ける事だって簡単だ、そう思い悟空は引き返そうとは思わなかった。

これが大きな敗因だったのかもしれない。

いや、少なくともサイヤ人ならば誰だってそう思ったに違いない。

 入り口が自然に閉じたことよりもテントの中に入ったはずが、

まるで外にいるのかと錯覚する様な広さがあった。

いや、実際にテントの大きさなんかとうに超えていただろう。

セルと戦ったトランクスやブルマの様に賢くはないがその大きさは悟空にもわかるほど露骨に広かった。

 

悟空:みぃぃぃんなぁぁぁぁぁ

   いるのかぁぁぁぁぁぁぁぁ?

 

謎の声:やっと来てくれましたね、孫悟空さん。

 

悟空:?!誰だ、おめぇ。

 

謎の声:これは失礼。私はアメミットと申すものです。以後よろしくお願いします。

 

悟空:お前に会いに来たわけじゃねぇんだ。

   オラの家族と仲間がここに来たはずなんだが、おめぇ知らねぇか?

 

アメミット:お仲間とはこの人たちのことですかな?

 

 アメミットの言葉を受け、別な場所のカーテンがタイミングよく開いた。

 

悟空:お、おめぇら・・・・・・

 

アメミット:彼らがあまりにも仲間にして欲しいというのでサーカスに加えてあげました。

      どうです?似合っているでしょ?

 

 開いたカーテンの中にいたのは紛れもなく悟空が探していた仲間達だった。

しかし、まるで人形の様に全く動かず、生気が感じられない。

 いや、正確に言うと悟天とトランクスの二人は人形の様に動かなかった。

悟天とトランクスはピエロの服装をしてアメミットの少し後ろに立っていた。

彼らはまだ人の姿だったのでさほど驚きはしなかった。

催眠術か何かでそうなっているのだと思ったからだ。

 問題はこの二人ではなかった。

悟飯とベジータは人形の様に動かないというレベルの話ではなかった。

悟空は本当に「それ」が彼らなのかから疑う必要すらある状態で目の前に「あった」のだ。

彼らはギリシャの遺跡などで見つかる様な立派な円柱の柱に体の一部を

取り込まれた形で置物にされているのだ。

本当に生き生きとした、それが彫刻ならばまるで生きている様にと表現するところである。

ベジータは銀の柱に取り込まれた形で銀の置物に、

悟飯は銅の柱に取り込まれた形で銅の置物になっているのだ。

「二つ」の共通点は、まず体が半分柱に埋め込まれ、両手の扱いが少々特殊で、

反対側の腕の肘を反対側の手のひらで包み、そうして組んだ状態で後頭部に固定された状態である。

両足は自然体の仁王立ちのまま足首から先だけが台座に取り込まれている感じだった。

体の後ろ半分が均等に柱に取り込まれている、そういう構図である。

「これら」は実にリアルな苦しみの表情を浮かべている、まるで苦しみながら固まった様な・・・。

いや、まだこの時点ではこの4人が本当に本物かはわからない。

気を遮断する場所に閉じ込められていて、「これら」は偽者かもしれない。

むしろ、そうであって欲しいと悟空は考えた。

自分と同様に最強になったはずのベジータ、そしてあのセルを倒した悟飯、

力及ばずともトランクスと悟天が同時にいてたった一人に負ける、

ましてこの様な好き放題にしてやられた姿でオブジェにされるなど、

悟空でなくとの理解の範疇をとうに超えていた。

 

悟空:お、おめぇ、本物の4人をどこに隠したぁ?

 

アメミット:おや?あなたは目が悪いのですか?

      目の前にいるじゃないですか?

 

悟空:ベジータと悟飯が二人もいて負けるはずがねぇ。

 

アメミット:仕方ないですねぇ。

      彼らは団員ではなくオブジェなので普段はおしゃべりしないんですが・・・・・

 

 アメミットの右手にある指輪が目を覆いたくなるほどの赤い光を発すると

ベジータと悟飯の像に異変が生じた。