第1部

試された正義

 

第1話

 

  二番目の故郷と心に決め日夜休むことなく迫りくる脅威から地球を、

人々を守ってきた正義の超人スーパーマン。

 青いスーツ、赤いマント、ブーツ、ビキニ、そして胸には大きなSのシンボルマーク。

 そう・・・誰にもが知っている無敵の超人、スーパーマン。

 どんなピンチにも必ず駆けつけ、たちどころに解決してくれる救世主・・・

それがスーパーマン。

 そんな彼に今までに予想もしない、予想することも出来ない魔の手が迫っているなどとは

誰も想像していなかった。

そう・・・今日もいつもの様に襲い来る危機から人々を守る、

そんな日常が繰り返されるのだと思っていた。

まさか、大きな運命の歯車の一部だとは誰も思わなかった。

 

ズドォォォォォォォォォォォン

 平穏な時間を切り裂き、爆音を轟かせたデイリープラネット社のとある区画。

 爆発の中心部分には見たことのないロボットが立っていた。

4メートルは軽くあると思われる白いその機械人形は特に目立つ装備もなく、

何を目的としたロボットなのかがわからない姿をしていた。

筒状のボディーに頑丈そうな四肢ががついているだけ、とてもシンプルな姿をしていた。

 

 出現した目的は少なくとも人助けではないらしく、周りにある街灯を抜き取り、

捻じ曲げ地面に置く。

消火栓を引き抜き水柱を上げる。

人々を傷つける行動は今のところ行わないものの確実に街を破壊していった。

 

スーパーマン:そこまでだ!

 

ガシン!ドスっ!

 

スーパーマン:・・・?!・・・・見た目と違って頑丈だな・・・

 

 颯爽と駆けつけ破壊活動をする謎のロボットに正義の拳を見舞う正義のヒーロー。

 起伏の乏しいそのボディに殴りかかるものの、怯む様子は全くなかった。

怯むどころか自分に殴りかかる存在にすら興味も示す素振りもなかった。

 しかし、その直後・・・・

ボコッ

ヒュゥゥゥゥゥゥ・・・・・ズゴォォォォォォン

 頭部と思われる部分が仇なす者を見るわけでもなく、

スーパーマンを簡単に片手で簡単になぎ払った。

スーパーマンを視野に入れることさえせずにあしらってしまったのだ。

 辺りで戦闘を見守っていた人々も吹き飛ばされた本人も何が起きたのかわからなかった。

しかし、事実として遥か彼方の瓦礫の中にスーパーマンは吹き飛ばされていた。

 致命傷には至らず、即座に瓦礫をよけ起き上がる不屈の超人。

吹き飛ばされた距離を助走代わりに勢いをつけ機械人形に飛び掛る。

 

スーパーマン:くらえっ!・・・・・・・・なっ・・・?!

 

 振りかぶった拳をクリーンヒットさせる・・・はずだった。

 拳が命中すると思われた瞬間、踵落しの要領で、振り上げられたロボットの右足が

超人の首の付け根を捉え、そのがら空きな背中に強烈な一撃を打ち込んだのだ。

 地面には巨大な窪みが出来、その中心には機械人形の足に沈められたスーパーマンがいた。

 先の攻撃も、この蹴撃も全てノールックで行われていた・・・

本気の攻撃ではないのだ・・・その様な驚愕の事実を理解できるわけもなかった。

 

ロイス:・・・ど、どういうこと?!負けちゃだめ!スーパーマン

 

スーパーマン:ロ・・・ロイス・・・・・

 

ピーピロリリリリリリリリ

 

スーパーマン:な・・・何が起こるんだ?

 

 背中に加えられた強烈な一撃で未だ動きが取れない状態で、

自分を押さえつける存在が初めて見せる能動的な動きに顔を上げ警戒するが、

その後に起こる行動を予測できるわけもなく、今の彼に出来るのは何が起こるのか

見守ることだけだった・・・。

 見ることしか出来ない・・・スーパーマンが始めて味わう屈辱だった。

シュルルルルルルルル

 

ロイス:キャァァァァァァァ

 

スーパーマン:ロイスっ!!くそっ・・・体が・・・・

 

ロイス:な、何っ・・・嫌、嫌よ・・・・何よ、これ

 

 ヒーローを足で地面に繋ぎ止め、周囲で戦闘の状況を見ていた

スーパーマン=クラーク・ケントの最愛の人と知ってか知らずか、

突如として肩から伸ばしたロボットアームでロイスを捕まえ、引き寄せ、

そして腹部から出したカプセルに閉じ込めてしまった。

 超人でもない普通の人間であるロイスが内側からいくら叩こうが殴ろうが

一向に脱出出来る気配はなかった。

 

スーパーマン:く、くっそぉぉぉぉぉ・・・・・

 

グラッ・・・・・・・・ズゥゥゥン

 渾身の力を込めて背中に置かれた足を払いのけた。

 フラつく体で空中に舞い上がりその場を離れた。

もちろんエスケープのための飛行ではなく勢いをつけて体当たりをするための飛行だった。

ここまでの短い戦いの中でも、通常の打撃ではこのロボットを破壊することが出来ないことは

十分に理解できていたスーパーマンはこの強敵をより強力な攻撃で打破しようと考えていた。

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・・ズズゥゥゥン

小さく見えるほどにまで距離を取り可能な限りの速力でロボット目掛けて飛来した。

タックルの姿勢で防御などは一切考えずに、弾丸の如く体当たりを決める。

さすがにこの攻撃にはロボットも反応することが出来ず、

狙い通りにその巨体を吹き飛ばすことが出来た。

 ロボットからの2度に渡る攻撃、そして今の体当たりで蓄積したダメージで

鈍く動く体に無理を強いてカプセルに近寄るスーパーマン。

 

スーパーマン:だ、大丈夫・・・か・・・?

 

ロイス:え、えぇ・・今のところは・・・た、助けて・・・スーパーマン

 

スーパーマン:・・・くっ・・・なんて頑丈なんだっ!・・・

 

ロイス:あ、頭が・・・朦朧と・・・・

 

スーパーマン:(酸素が・・・・・時間がない・・)少し手荒になるが我慢してくれ

 

ロイス:し、信じてるわ・・・・

 

 カプセルの中で虚ろな瞳でクタっと壁に寄りかかるロイス。

 一刻の猶予も許されないことを示していた。

 ロイスに被害が及ばない様に配慮しながらヒートビジョンやスーパーブレスでカプセルの

破壊を試みるが壊れる気配がない。

それどころかヒビ一つ入ることもない。

時間がない焦りもあるのだろうが、それ以上に目の前で最愛の人を封印するカプセルの

素材が経験したことがない強度であるために救出作業が難航していた。

 自分の体当たりで破壊できたとは考えていなかったが、ロイスを救出出来ない事実に

ロボットの存在すらも思考の外においていた。

 渾身の攻撃で吹き飛ばされたが、まるでダメージを負うこともなく

平然と瓦礫から起き上がりカプセルにまとわりつくスーパーマンへと迫っていた。

 その足音も周囲の人の声にさえも気がつかず獲物として認識されたスーパーマンは

懸命にカプセルの破壊に取り組んでいた。

 

周囲の人:危なぁぁぁぁぁぁぁい

 

スーパーマン:・・・・?!・・・・ぐわっ・・・・・