キャプテン  

  

僕は中尾達也。

私立の工業高校に通う3年生で、バレーボール部のキャプテンをしている。

もうすぐ市の大会なので、日曜日の今日も朝から練習だ。

僕の高校はその大会の優勝候補になっていて、生徒が悪さをした時以外は

新聞に名前が載った事のない高校としては期待も大きい。

僕はそのチームをキャプテンとして引っ張ってきた。

僕がいればこその優勝候補だと、自他共に認めている。

 

でも、僕は決して天狗になっていない。

どこかの総理大臣が言ったみたいに、僕は自分を客観的に見る事ができる。

市の大会では優勝できるとしても、県大会で勝つのはかなり厳しい。

まして、その上の全国大会で僕のバレーが通用するとは思えない。

所詮そういうレベルだと思ってる。

 

そんな僕が高校3年の夏になっても部活を続けているのは、

今さら勉強しても仕方ないのが最大の理由だけど、もう一つ大きな訳がある。

それはバレー部の顧問をしている速水先生。

シゴキで有名な中央体育大学を出て4月から教師になったんだけど、

めっちゃカッコイイ人!!

正直言って、あこがれの人。

こんな人にしごかれたいと思うけど、まだ新人として遠慮してるのか

そんな素振りは見せていない。

 

 

 

 

僕が部室に入ると、中には僕以外のレギュラー5人が着替えていた。

同じ3年の山根・吉原・津田・川本と、2年の青木だ。

他の部員はすでに体育館で練習の準備をしている頃だけど、

レギュラーにはそれが免除されていた。

僕が着替え終わると5人は体育館に向かおうとした。

 僕「ちょっと待ってよ。

   練習前にチョット一服しない?」

僕はそう言ってバッグからマイルドセブンとライターを取りだした。

山根「おお!さすがキャプテンは気配りができるね」

吉原「大丈夫かよ、ここで」

 僕「平気平気。まだ時間あるんだし」

僕はそう言いながら、みんなにタバコを配った。

青木「そうっすよね」

青木は灰皿に缶ジュースの空き缶を用意した。

 

その時だ。

部室のドアが勢いよく開いて、速水先生入ってきた。

まるで、ドアの外でみんなが火を付けるのを待っていたようなタイミングの良さだ。

手には竹刀が握られている。

速水「お前ら、ここで何をやってるんだ!!

   レギュラーだと思って特別扱いしてやったらこのザマはなんだ!!

   他のみんなは練習の準備をしてるんだぞ!!」

ものすごい怒り方だった。

僕以外の5人はシュンとなって下を向いてしまった。

速水先生に匿名で「部室で喫煙する部員がいる」とメールしていた僕は

心の中でほくそ笑んだが、そんな気持ちを隠してやはり下を向いた。

 

僕ら6人は体育館に連れて行かれ、体育館の入口に正座させられた。

速水「みんな集合しろ」

他の部員が僕らの周りに集まってくる。

体育館の床に正座したキャプテンの僕を、みんなはどんな目で見ているのだろうと

見てみたい気持ちになったけど、他の5人と同じように下を向いている事にした。

 

速水「こいつらは、お前達が練習の準備している時部室でタバコを吸っていた」

速水の言葉に僕のざわめきが起きた。

中には授業をサボってトイレで吸っている奴がいるのも僕は知っている。

でも「みんなもやってる事ですし」なんて、言えるわけがない。

そういう奴も一様に、僕らに冷たい視線を投げてきた。

 

速水「こいつらには罰を受けてもらう。

   よし、立て!!」

僕ら6人は立ち上がった。

速水「お前ら、裸になれ!!素っ裸だ!!」

速水の言葉に僕は内心「やったー」と叫んだ。

でも、もちろん他の5人はそうではない。

吉原「えっ!!ここで脱ぐんですか?」

津田「そんな〜、勘弁して下さいよ〜」

速水は竹刀で床をドンと鳴らした。

速水「ウダウダ言ってないで、さっさと脱げ!!。

   それとも喫煙を職員会議で報告しようか」

 

速水に一喝され、僕らはTシャツを脱ぎ、シューズ、ソックスと脱いでいき、

ハーパンも脱いでトランクス一枚になった。