愛しいエース  

 

2・1・2 情

第6話

 

 サトシが消えてから間もなくして歪みは閉ざされ、

エースは監禁された状態になってしまった。

 動けず、死ぬことも出来ない体・・・

拷問以外の何ものでもなかった。

エース:た、助けに来てくれるだろうか・・・・

 瞳の力を失われ、サトシが呼んでくれるだろう仲間からの救援だけを

希望にひたすら耐えるエース。

 その耳には嫌らしい音が絶えず流され、快楽エネルギーを常時生産出来るようにされていた。

時間が経てば立つほどにエースの体は闇に染まり、壊れていく仕組みだった。

 サトシがいなくなったからなのか、部屋の温度が急激に下がり、

エースの体に付着する粘液が粘度を増し、床には霜さえ下りている状態だった。

 時間の感覚もなく、体には興奮しか残されていない・・・

そんな状態の中、心だけは守りながら必死に助けが来るのを待ち続けた。


 あれからどれだけの時間が経っただろうか・・・・。

 ヘドロを垂れながす装置もホコリが詰まったのかすでに粘液は放出されておらず、

時間の経過具合を伝える道具に成り下がっていた。

 部屋の温度はあれからもどんどん低下し、今ではレオが処刑された身体処理室と

見間違えるほどの部屋に変わっていたのだ。床を這う極低温の冷気・・・。

 その中に正座するエースの体は粘液ごと凍りつき、氷像と化していたのだ。

 しかし、ヤプールの仕掛けた罠により死ぬことも出来ずに、

数えるのも馬鹿らしいほどの時間、嫌らしい音を餌にエースは生き続けた。

エース:も・・・もう・・・殺して・・・くれ・・・・・・だ、誰か・・・・・・・・

 すでに生きる気力を失い、耳に詰め込まれる音にも鳴れ、

エネルギーの生成が出来ずにいたエース。

 死なない体ではあるが、快楽のエネルギーを生産出来ないと

体に巡らせるエネルギーか確保できない・・・。

 この言葉を最後にエースは仮死状態になり、苦痛からは解放されることになった。




謎の声:−ス・・・・エース・・・・起きて・・・エース!

エース:・・・・・?・・・・き、君は・・・・誰だ・・・・・・・

謎の声:忘れちゃったの?エース・・・僕だよ・・・・・

エース:・・・・トシ?・・サトシなのか?

サトシ:あぁ・・・そうだよ・・・

エース:ど、どうしてここに?

サトシ:あれから頑張って勉強して科学者になったんだ・・・

     宇宙ロープの解き方も異次元空間の破り方も見つけて、迎えに着たんだよ


エース:・・・・・?!・・・・・

 サトシの言葉の通り、あれほど雁字搦めに体を縛り付けていた悪魔のロープもなくなり、

ベッドの上で成長したサトシの膝に頭を乗せて話をしているのだった。

 まさか、あの状態から助かるなどとは思わなかったエースは

今の自分の状態が信じられなかった。

サトシ:あの時の約束・・・守ってもらうよ?

エース:・・・?!・・・・・

サトシ:色々聞かせてよ・・エースの故郷のこと

エース:あ、あぁ・・・いいだろう・・・・

     また、君に助けられたな・・・これで3度目だ・・・・


 震えながら手を伸ばすエースの腕を優しく掴み、

サトシとエースはいつまでも語り合った・・いつまでも・・・・・。



謎の声:どうだ?何かわかったか?

謎の声:はい、順調です・・・機密情報がこうも簡単に手に入るとは・・

謎の声:この人間も役に立つではないか・・・ふふふふふふふ・・・・・・

 謎の声の視線の先にはあの忌まわしい拘束が解けていない状態で保存液に漬けられ、

頭にはヘッドギアが装着されているエースと、

同じく保存液に漬けられているサトシの二人がいた・・・。

 エースがサトシに助けられた・・・これはヤプールの作り出した夢だった・・・・。

 現実はなんとも残酷なものだった・・・。ヤプールがサトシに憑依した時、

二人ともヤプールの空間に拉致され、この装置につながれていたのだ。

あとは、ヤプールの描いたシナリオを現実のものと誤解して

二人がそれぞれ進めていっていただけだったのだ。

 エースを思い、必死に勉強したのも夢の中・・・・

永久に続く拷問に死にたいと思うようになったのも夢の中・・・・

全てはヤプールの手のひらの中のことだったのだ。

 
サトシ:そうなんだ・・・行って見たいな・・・エースの故郷・・・。

エース:あぁ・・・いつか、行こう!

 二人の会話は終わることを知らず進んでいくのだった・・・

ヤプールの手の中で・・・・。