555悲話(13)

 

「これより、トレーシー島に向けて出撃する。

 全員、トレーシー島に注目。敵将に対し、敬礼!」

出撃を前にした防衛艦隊の司令官室で、モンドは木戸少将の訓辞を聞いていた。

いや、耳では聞いていたが、声は頭には届いていない。

頭の中では、捕虜となったままのショウや、脱走したナガレの事でいっぱいだった。

 

木戸少将の話がいつ終わったのかも分からなかったが、気が付くと木戸少将は

司令官席にどっかと腰を下ろすところだった。

「慎也に敬礼するとは、あなたの気が知れない。

慎也が君の親友に敬礼した事への返礼のつもりかも知れないが、

 彼は、捕虜虐待の戦争犯罪者ですぞ」

「最初に言っておくが、君を乗艦させたのは、防衛軍司令部からの指示があったからだ。

 それによると、君はオブザーバーという事になっている。

 余計な口出しは、無用に願いたいね」

「分かった。しかし、息子達はどうなるんだ」

「私の任務は、敵の秘密基地を壊滅させる事だ。

 555のヒーロー諸君の事は、特殊部隊の担当になっていてね。

 すでに、ダイゴ大佐が行動を開始している。

 ご子息の尻拭いの為にね」

木戸少将それだけ言うと、“話は終わりだ”と言わんばかりに手を振った。

唇を噛み締めて引き下がるモンド。

“俺は、お前が死んでも敬礼するつもりはないよ”

その背中に、木戸少将の冷たい視線が浴びせられていた。

 

「敵艦隊に動きがあります。ポートタウンを出港しました」

「慎也様。敵艦から入電。降伏を勧告しています」

秘密基地の司令室に緊張が走った。

「慎也様。返信はいかが致しましょう」

バカめと言ってやれ」

「はっ?」

「聞こえなかったのか!。『バカめ』だ!」

 

「ふふふ。『バカめ』か。それでこそ、戦い甲斐があるというものだ」

木戸少将は、慎也の返信に、むしろ満足の笑みを浮かべた。

「巡航ミサイル発射準備。爆撃機隊発進せよ。

 ミサイルの着弾と同時に攻撃を開始する。

 全艦、全速前進。一気に突撃する」

 

「敵爆撃機多数、急速接近中」

「敵艦よりミサイルの発射を確認。巡航ミサイルと思われます」

オペレータ戦闘員の悲鳴にも似た声が響く。

「いいか。空からの攻撃には、島内のADS2で迎え撃つ。

 対空砲迎撃準備。ADS2作動」

奴隷小屋で一夜を明かしたダイゴとナガレは、島内に響く轟音に叩き起こされた。

小屋を出て空を見る。

遙か彼方に、ミサイルと爆撃機の大編隊が見えた。

「見ろ、ナガレ君。防衛軍の攻撃が始まったぞ。

 これで、君達も助かる」

「ミサイルと爆撃機で助けるって言うんですかぁ?」

ナガレのいじけた声が返ってきた。

「いっ、いや。この混乱を利用すればいいんだ」

“ナガレの言う事にも一理ある”と思いつつ、

ダイゴはすっかり落ち込んでいるナガレを励ました。

と、その時、島のあちらこちらから、眩しいばかりの光が放たれた。

ADS・・レーダーと連動したビーム砲による、迎撃が始まったのだ。

遠い空が赤く染まっていく。

ミサイルは、島に近づく事すらできず、次々に打ち落とされた。

後続の爆撃機も餌食にされる。

光が消えた時、青い海がミサイルと爆撃機の残骸で黒く埋まっていた。

「ダメだ。やっぱりダメなんだ」

ナガレは暗い表情で小屋に戻った。

 

「敵艦隊、縦列体型で突撃してきます。

 艦砲射撃が始まりました」

「なっ、なにー!」

敵の第一波を完全に撃破した喜びに浸る間もなく、

木戸少将の単純な攻撃に奈落の底に落とされた。

島を取り囲んだ上で、艦砲射撃をするものとばかり思っていたのだ。

その場合、島を囲むように配置した海上のADS1で、敵艦船を攻撃できる。

しかし、一点から集中的に攻め込まれれば、持ち堪えるのは困難だ。

「ADS1作動。ちきしょー、何て奴だ」

今度は、海上のビーム砲が火を噴き、防衛艦隊への攻撃を始める。

ADSの攻撃力はそれほどでもないが、塵も積もれば山となる。

度重なる攻撃を受け、先頭の戦艦が大爆発を起こした。

だが、後続の戦艦は、屍(しかばね)を乗り越えるように、前進を続ける。

ADS1は激しい攻撃を受け、一つ、また一つと破壊された。

そして、島を中心に、円を描くように設置されていたADS1の円の一部が

突破される。

防衛艦隊は、その隙間をついて、次々に突入した。

艦砲射撃が島に降り注ぐ。

ADS2も次々に破壊されていった。

「慎也様。もはや、キングジョーの出撃しか策はありません」

ゴリラ怪人が進言する。

「ダメだ。こんな状況で、キングジョーは出せない」

「しっ、しかし・・」

その時、一機の戦闘機が島を離陸した。

慎也専用の超高速戦闘機だ。

「慎也様、武士道仮面様が出撃しました」

「なにっ!。そんな命令は出していない。武士道仮面につなげ!」

オペレータが、急いで戦闘機と交信する。

「武士道仮面、どういう事だ」

「慎也様。老兵に死に場所をお与えいただき、感謝いたします。

 武士道仮面、一死をもってご恩に報いる所存」

「まっ、待て。早まるな。戻ってこい」

「♪功名なんぞ夢の跡

 ♪消えざるものは、ただ誠」

武士道仮面の歌声が聞こえる。

「♪人生、意気に感じては

 ♪成否を誰か、あげつらう」

通信が途絶えた。

敵空母が炎に包まれるのが見える。

「うぅっ。何という事を・・」

“俺が乗って逃げる為の戦闘機だったのに・・”

慎也は最後の言葉を飲み込んだ。