555悲話(12)

 

壮行会が続く中、慎也は一人、司令室で防御システムのチェックをしていた。

慎也が構築した防衛システムとは、ASD(自動防御システム)と呼ばれる。

レーダーが島に接近する物体をキャッチすると、

コンピュータが距離・速度・コースを瞬時に計算し、

ビーム砲に迎撃を指示する。

航空機やミサイルはもとより、爆弾や砲弾までも空中で迎撃できる精度があった。

このコンピュータ制御のビーム砲を、海上(ADS1)と島の周囲(ADS2)に

設置し、二重の防衛線を敷いたのだ。

だが、ADSにも弱点はある。

 1.防御の為の兵器でしかない事。

   レーダーの範囲外の敵を攻撃する事は出来ない。

 2.島内に設置したADS2はともかく、海上のADS1へのエネルギーの補給は、

   戦闘が始まれば、事実上不可能になる。

 3.艦砲射撃や絨毯爆撃といった、物量による攻撃を受けた場合、

   どうしても撃ちもらしが発生する。

 4.破壊力が小さく、艦船に対しては効果が乏しい。

 

最終チェックを終え、慎也はバルコニーに出た。

目の前には、静かな海が広がっている。

だが明日には、いや数時間後には、この海を敵艦隊が埋めるだろう。

「負け戦だな」

慎也は小さくつぶやいた。

 

「慎也様、こちらでしたか」

武士道仮面だ。

「んっ?。君こそ、壮行会には出ないのか?」

「拙者、あのように敵に捕らわれ、なぶり者にされるような者どもなどに

 興味はござりませぬ。

 今も明日の戦(いくさ)に備えて、体を鍛えておりました。

 明日は老兵の意地、とくとご覧くだされ」

「うん。戦いは最後は気力だ。君には期待しているよ。

 私はもう少し、ここで敵の情報の分析をするが、君は明日に備えて休みなさい」

「はっ、有り難きお言葉。では、そうさせていただきます」

慎也は体(てい)よく武士道仮面を追っ払うと、再び視線を遠い海に向けた。

“私に、もう少しまともな副官がいたら・・”と、慎也は思う。

“体を鍛えて、勝てる相手ではないのだよ”

 

その頃、壮行会の会場では、ミニキングジョーとショウ・ナガレが対決する

特設リングの設営が終わっていた。

「赤コーナー、キングジョーーーーー」

司会兼レフェリーのトカゲ怪人の選手紹介に、戦闘員の歓声が響く。

「青コーナー、短小ナガレ」

「緑コーナー、お漏らしショウちゃん」

今度は、嘲笑とブーイングの嵐だ。

「ナッちゃんもショウちゃんも、用意は良いかなぁ〜。

 このキングジョーはミニチュア版なんで、破壊光線はないからね。

 腕力では負けると思うけど、頭を使って頑張ってね。

 って言っても、そこが問題かも知れないけど。

 ねっ。ナッちゃん」

場内が、また笑いに包まれる。

「そいじゃ〜、ファイト」

ゴングが鳴った。

「ちっきしょー」

頭からぶつかっていくナガレ。

ショウは背後から、キックを見舞った。

「ありゃぁ〜。見てられないわ、この二人。

 相手は鋼鉄でできたロボットなんだよ。

 鉄を蹴って何になるの?。ロボットが痛がるわけぇ?」

トカゲ怪人の言うとおりだ。

キングジョーは、二人がかりの攻撃にもビクともしない。

キングジョーのキックが、ショウを襲った。

無惨にもコーナーポストまで吹き飛ばされ、背中を叩きつけられる。

そのまま、コーナーポストを背にして、崩れ落ちた。

あっけなく、気を失ってしまうショウ。

「ありゃまぁ。寝てる場合じゃないでしょ、ショウちゃん。

 起こしてあげて、キングジョー」

トカゲ怪人の命令を受け、キングジョーはショウに歩み寄り、

その股間を踏みつけた。

「あぁーー」

悲鳴とともに目を覚ますショウ。

何とかショウを救おうと、背後からキングジョーを羽交い締めにするナガレ。

だが、キングジョーは何事もなかったかのように攻撃を続ける。

「あぁ、やめてくれー」

ショウの絶叫が会場に響く。

「やめろ。やめてくれ。頼む。もうやめてくれ」

後ろから、必死にキングジョーを引き離そうとするナガレの目にも涙が浮かぶ。

 

「あ〜ぁ。ぜんぜん弱いじゃん。

 何か、こんなに弱いとつまんないんだよねぇ〜。

 キングジョー、弱い者イジメはその辺にして、もう許してあげて」

攻撃をやめ、ショウのチンポを踏みつけていた足を上げるキングジョー。

股間を押さえてうずくまるショウ。

ナガレはその場に座り込んだ。

無力感が二人を襲う。

 

「さぁ〜て、TVをごらんのみなさん、555の戦いぶりはいかがだったでしょうか。

 みなさんからの激励、慰め、批判、罵倒、揶揄、罵詈雑言などなど。

 ファックスでお受けいたします。

 お電話番号を間違えないように、ファックスしてくださいねぇ〜。

 待ってま〜す」(^_^)/

トカゲ怪人の言葉が終わってしばらくすると、ステージにセットされたファックスが

動き出した。

「え〜っと、まずは東京都にお住まいの○山○夫さんからですね。

 『敵の前で何たる醜態。恥を知れ!』

 う〜ん。手厳しいですねぇ。でも、その気持ち、分かりますよ。

 今まで頼りにしていた555が、このザマなんですからねぇ」

場内から笑いが起きる。

「次に、大阪にお住まいの匿名希望の中学生君。

 『僕は短小で、クラスのみんなからバカにされてますが、

  ナガレさんのチンポを見て、自信がつきました』

 ほ〜っ。ナッちゃん、偉いよぉ〜。君のチンポは、少年に勇気を与えたんだ」

今度は拍手が起きた。

次々にファックスが送られてくる。

中には激励のメッセージもあるのだが、戦闘員が破り捨てている。

「それから、福岡の大学生さんからです。

 『ナガレさんへ。ショウさんのチンポのお味はいかがでしたか?』

 ナッちゃん、ご質問ですよ〜。

 あれっ?。ナッちゃん、どうしちゃったの?」

ナガレはうつむいたまま、顔を上げようとしない。

自分は正義の為に闘ってきた。

自分の戦いは、世の為・人の為、ひいては地球全人類の為だったはずだ。

その自分が、どうしてこんな恥辱を受けねばならないのか。

ナガレの目から涙がこぼれ落ちる。

「さぁさぁ、ナッちゃん。いい子だから、泣いてないで、お返事してください。

 ショウちゃんのチンポはどんな味でしたか?」

「もっ・・。もうイヤだぁーー」

ナガレはいきなり立ち上がると、泣きはらした顔を隠そうともせず、

リングを飛び降り、一目散に駆けだしていく。

その姿は、あたかもいじめっ子から走って逃げるいじめられっ子のようだ。

途中、戦闘員に足をかけられ、ドテッと倒れるナガレ。

場内に、嵐のような拍手と歓声が響き渡る。

しかし、すぐに起きあがると、涙を拭きながら走り去った。

背中に嘲笑の渦を浴びながらも、ナガレは振り向く事はなかった。

 

「ありゃっ?!。これって・・もしかして・・脱走だったりして・・」

しばらくの後、我に返ったトカゲ怪人が気づいた時には、

すでにナガレは会場となった格納庫を出ていた。

 

「あのぅ〜、誠に申し上げ難い事なんですが・・」

そろそろ司令室を出ようとしていた慎也を、トカゲ怪人が呼び止めた。

「ナガレの事か?」

「はい。実は・・」

「知っている。が、放っておいてもいいだろう。

 変身できない555など、取るに足らないし、精神的にも参っているようだ。

 それに、正直なところ、明日の事を考えると、

 捜索に兵を裂くワケにもいかないからね。

 まぁ、この埋め合わせは、明日の戦いでしてくれればいいよ」

「はっ。承知しました」

 

「みんな、みんな、嫌いだぁー」

その頃、ナガレは砂浜に腰を下ろし、打ち寄せる波に向かって石を投げていた。

ふと、背後に人の気配がする。

振り向こうとした瞬間、首を押さえつけられ、ナイフを突きつけられた。

「殺されたくなかったら、声を出すな」

「こ、殺されてもいいです。いえ、もう殺してください」

「えっ?」

ナガレの意外な言葉に、相手は手をゆるめた。

「君は・・ナガレ君か?。

 僕は防衛軍のダイゴだ。君達を助けに来た」