夕焼け小焼け、2
(さっきまであんなガキいなかったのに・・)
年の頃は四、五歳と言ったところか。
真っ直ぐな黒髪を肩のところで切りそろえている童女が一人立っていた。
すれ違う大人の顔を見ては泣きそうになる。
「母様どこ・・・・?」
ふぇっと見る見るうちに大きな瞳に涙が溜まった。
(ちっ!親とはぐれたのか。)
面倒な事になったと思いながらも、放っておく事が出来ずに子供に近づいて声をかけた。
「おい!」
土方が近づくと、童女の身体はびくりと反応してまるで怖いものを見るような目で土方を見た。
「親はどうした?」
土方が聞くと童女は首を振るだけだった。
「おまえ、名は?」
子供の視線に合わせるために腰を屈めた。
「さくら・・」
視線を合わせたことで安心したのか警戒心が少し解けたように感じた。
「さくら、どこからきた?」
「母様と一緒にお墓参りにきたの・・」
「墓参り?」
「うん!昨年父様が死んじゃったから、お世話になった人達に報告しようねって」
「こっちは父様や母様の大事な仲間やお世話になった人のお墓があるんだって!」
「お爺様や伯父様にもさくらを見せたいって言ってたよ」
「お寺に行く途中にめずらしいものがたくさんあって、見てたら母様とはぐれちゃったの。」
それを聞いて、土方はため息をついた。
今頃、母親も血相を変えてさくらを探しているだろう。
とりあえず番屋にこの子を預けるのが先決だろうか。
まさか屯所に連れて行くわけには行かないし、当てもなく母親を捜し歩くわけには行かない。
土方はさくらを肩車すると番屋に向かって歩き始めた。
「父様もよくこうしてくれたよ!」
さくらはうれしそうにはしゃいだ。
「でも、父様にしてもらったほうがもっと高かったよ!?」
さくらは頭上から逆さまに土方の顔を覗き込んだ。
「悪かったな!低くて」
土方は苦笑いした。
「・・・おまえの親父はどんな人だったんだ?」
「んーっとね」
さくらは顎に人差し指を当てて考え始めた。
「いつもニコニコしててね、でもお仕事の時はちょっと怖い感じなの。」
「でね、いつも一緒に遊んでくれるし、さくらは可愛いですねって言うの。」
「さくらは母様にそっくりだし、お嫁に行く時は父様は泣いてしまうかもしれませんっていうの。」
「ぷっ!」
さくらの話を聞いて思わず吹き出した。
なぜか頭の中にはいつも自分のところにいたずらにやってくる男の顔が浮かぶ。
「なんで死んじまったんだ?
土方の問いに一瞬にして顔が曇った。
それを感じて土方は内心、しまったと思った。
「わかんない・・」
「ごほごほって咳きするようになって、お部屋から出なくなったの。」
「遊んで欲しいのにお部屋に入ってきちゃだめですって怒るの。」
「・・・・・・・・・・・」
さくらの話を聞いて土方の頭には一つの病の名前がよぎった。
(労咳・・・)
この幼い少女にはその病がどんなに恐ろしいものか理解出来ないだろう。
この病に罹ればあっという間に死が近づいてくる。
「父様、さくらのこと嫌いになっちゃたのかなぁ」
「ちがうさ・・」
「おまえの親父だって辛かったさ」
「おまえの花嫁姿を見たいと思ったはずだぜ。」
土方の顔はいつのまにか鬼というには穏やかな笑みが浮かべられていた。
「本当?」
「俺は嘘つかねぇよ・・」
それを聞いてさくらは満面の笑みを土方に見せた。
その笑顔はどことなく新撰組のトラブルメーカーのそれととても良く似ていた。
「おじちゃんって父様のお話にでてきた母親みたいなトシさんに似てるね」
「はぁ?」
「いつも、怒ってばかりだけど優しくて温かい人なんだって!」
「さくらの名前もその人がつけたんだよ!」
「ばぁか!俺みたいな男は二人はいねぇよ!」
山に太陽が完全に身を沈めようとする頃、進む方角の方にある橋の向こうで女がうろうろとしていた。
「さくらー!!」
「母様だ!!」
日が暮れているため、姿は見えないが声を聞いてさくらは自分の母親と確信したようだった。
土方がさくらを下ろすとさくらは真っ直ぐに橋の向こうにいる母親の元へ走って行った。
「さくら!」
「母様!!」
さくらは母親に飛びついた。
「もう!心配したのですよ」
「ごめんなさい!!」
「いったい、今までどこに?」
「あのね、おじちゃんがここまで連れて来てくれたの・・」
さくらが指差す方には土方の姿はなかった。
「あれ?」
「おじさんだったの?」
母親が聞くとさくらは大きく頷いた。
「父様のお話に出てきた歳おじちゃんみたいな人!」
「副長に・・?」
さくらの母親は橋の向こうを見た。
「お礼、言いたかったね・・」
そこにはただ暗闇があるだけだった。
「消えた・・・?」
土方は呆然と橋の向こうを見た。
最後に少しだけ聞いたさくらの母親の声はどこか聞き覚えがあった。
「俺は夢でも見ていたのか?」
今だ立ち尽くす、土方の背後に気配を感じた。
「土方さ・・ん?」
「総司・・」
振り返るとニコニコと笑みを浮かべる総司と口元に手ぬぐいを当てて気分が悪そうに立っている神谷がいた。
「どうしたんです?こんな所で。」
「狐につままれたような顔してますよ?」
「けっ!なんでもねぇよ」
悪態をついていつもの副長の顔に戻る。
「神谷、調子はどうだ?」
セイが答えようとするのを総司が制した。
「屯所に帰ったら近藤先生と土方さんに二人で話があります。」
「なんだ?今じゃだめなのか・・」
「ええ、ぜひお二人揃ってから。」
総司は口元に笑みを浮かべているが目は真剣で、隣に立つ神谷が下腹部に手を当てる仕草が妙に気になった。
「・・・?・・・」
「まぁいい、帰るぞ!」
土方は踵を返して歩き始めた。
後ろからついて歩いてくるこの二人に一つの予感を感じていた。
だが、それは悲惨な結末さえも意味している。
(俺は未来に出会ったのか・・?)
それともこの日の夕焼けが見せた幻か?
(まぁ、いつかはわかることだ・・)
願うのは誰一人欠けることのない幸せな未来を手に入れることのみ。
あとがき
長い文章だし、意味不明です。
土方さん視点で書きたいと思ったんですけど
未熟ですみません。
もうちょっとちゃんとしたオチが書ける様になりたいです。
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