席替え(月森視点)



                      月曜日の3時間目は1週間で唯一の体育の時間だ。
                      あまり着慣れていないジャージに着替えて運動場に向う。

                     「今日、短距離のタイム計るってよ」
                     「マジ?ダルイな〜」

                      音楽科の人間にとって、体育の時間というものはほとんど
                   必要性を感じないものだ。
                      中学の時までは体育の時間になると異様に張り切る奴がいたが、
                    今のクラスメートにはそんな人間は皆無だ。

                      別に運動するのは苦手じゃない。
                      けれど、怪我をしやすい時間だと思うとやっぱり気が重くなる。
                      しかも音楽科担当の体育教師が妙に熱い人間だから余計にやりにくい。
                     
                     「はぁ〜」

                      そんなつもりはなくても溜息が零れる。
                      ふっと視線を感じたような気がして普通科校舎を見上げた。

                      そこに、見知った顔がこっちを見下ろしていたのでついつい足を止めた。

                     「日野・・?」

                       窓枠に肘をついてこっちを見ていた。
                       今までこの時間にその姿を見たことがなかった。
                       席替えでもしてあの辺になったのだろうか?

                     (なんか危ないな・・・)

                       下から見上げると、妙に挙動不審で手を滑らせるんじゃないかと
                      ハラハラする。
                       声を出して注意したいが、かなり大きな声をださないと聞こえないだろうし、
                      周りを歩くクラスメートの目もある。
                       仕方なく口だけを動かして注意を促した。

                     ―― そんなことしてると危ないぞ ――

                       ゆっくりと口を動かしたが彼女にはわからなかったらしい。
                       余計に窓から身を乗り出した。

                      (あぁ、逆効果だった・・)

                       今度はもっとゆっくり、はっきりと口を動かした。

                     ―― 危ないから気をつけろ ――

                       やはりわからないらしい。
                       日野は頭を抱えて首を捻っている。
                       一生懸命考えているようだが・・。

                       何だかその仕草が可愛くて、自然と笑みが零れた。
                       とりあえず、考える為に少し身を引いたから良しとしよう。
                       俺は再び運動場に足を向けた。

                       体育の時間が終わり、再びさっきの場所を通ると
                      日野がノートを開いてこちらに向けていた。
                       そこには油性マジックで書かれた大きな文字が並んでいる。

                     ―― さっきの答え ――
                     ―― カツサンド買ってみた?――

                       書かれている文字を読んでガクリと脱力した。

                       何でそうなるんだ。全然違う。
                       火原先輩じゃあるまいし。
                       俺は首を振った。
                       日野はちょっと不服そうだった。

                       放課後、屋上であった日野にさっきの答えを教えた。

                      「なんだぁ〜絶対あれだと思ったのにな」
                       口を尖らせて今も不満そうだ。
                      「なんでそうなる」
                      「明らかにあの場で言うセリフじゃないだろう」
                      「それはそうだけど〜」
                      「でも次こそは絶対当ててやるんだから!!」

                       ノートを抱えて意気込んでいる。
                       すると、次も俺に口パクしろということか。

                       まあ、良いだろう。
                       彼女が俺の暗号をすべて解けるようになったら、とっておきの
                      暗号を出すから。
                       その時は、その暗号の答えよりも返事を返してくれ。

                      「ところで、君はあの時間は何の授業なんだ?」
                      「数学!暗号を解いてたから授業が短く感じたよ」

                       ちょっと日野の数学の成績が心配になった。
                       

          
                
               私が書く話はなぜかお題と関係ない方向に行ってしまいます。
          

         

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