恋って何ですか?
             愛って何ですか?
             簡単に口に出してしまえるほど
             わかりやすいものですか?
 

           


       恋とは?



           


           「最近、新しい茶店を見つけたんですよ」
           
            巡察が終わり、解散の号令と共に沖田先生が私の元にやってきた。
            沖田先生は両手をブンブンと大きく振り回しながら「お饅頭が最高なんです!」
            と破顔して言った。
           「はいはい、お付き合いすればいいんですね?」
            私が先を察して言うと沖田先生は勢い良く抱きついてきた。
           「さすが神谷さん!よくわかってるぅ」
           「先生!すぐに抱きつかないで下さいよ!!」
            私は振り払うようにして身体を引き離した。
            私が怒った顔をしていても、沖田先生は気にする風でもなく「お金とってきますね〜」
            と跳ねるように部屋に戻っていった。
           「まったくも〜」
            
           (人の気も知らないで・・・・)

            私は今だドキドキしている胸に手を当てた。
            沖田先生に抱きつかれるのは毎度のことだけれど、慣れることなんてない。
            いつも緊張して胸が苦しくなる。
            私はこんな思いを抱えているというのに、沖田先生は何の抵抗もなく私に触れようとする。
          
           (これって完全に女子として見られてないってことだよなぁ)

            沖田先生の傍にいるために武士であろうと自分で決めた筈なのに、いざ男扱いされる
           と虚しさを感じる。

           (恋って人をこんなにも我が儘にさせるものなんだ・・・・)

            人の心ってなんて複雑・・・・・・。



           「あぁ、あそこですよ!」
            沖田先生は少し先に見えてきた茶店を指差した。
            そこは若い兄と妹の二人で営んでいる店だった。
           「こんにちは、また来てしまいました」
           「いらっしゃい沖田先生」
            最初にお店の中からでてきたのは妹の千代さんだった。
           「沖田先生いつも有難うございます」
            奥から兄の嘉平さんも挨拶に出てきてた。           
           「こちらの方は初めてですね」
           「私の部下の神谷さんです」
           「神谷です」
            私は慌てて頭を下げた。
           「どうぞごゆっくり」
            嘉平さんは温かい笑顔を向けた。

           (優しそうな人だな〜)

           「男の方には失礼かもしれませんが綺麗な方ですね」
            千代さんがお茶を置きながら沖田先生に言った。
           「あはは、本人は結構気にしてるんですよ」
           「でも本当、思わず私も見とれてしまいました」
           「女子でないのが残念です」
            奥から嘉平さんが饅頭を運びながら私を見た。
            あまりにも真剣にじっと見るので何だか照れくさくなった。
           「もう!あんまりからかわないで下さい!!」
           「あはは、申し訳ありません」
           「お詫びに団子をつけさせていただきますよ」
           「え〜、いいなぁ神谷さんばっかり」
           「沖田先生・・・(呆れ)」
           「沖田先生には私から奢らせて下さいな」
            千代さんの言葉に沖田先生は勢い良く振り向いた。
           「本当ですか!?」
            そのせいか二人の手が軽くぶつかり合った。
           「きゃっ!」
            千代さんが小さく悲鳴を上げると、手から離れた茶碗が地面で粉々に割れた。
           「わ!すいません」
           「いえ、すぐに片付けを・・痛!」
           「手を切ったんですか?」
            破片を拾おうとした千代さんは指を傷つけたらしく血が滲んでいた。
            沖田先生はその白い手をとり、自分の手ぬぐいで押さえた。
           「少し切っただけのようですからすぐに止まるでしょう」
           「は、はい・・・」
            手ぬぐいで指を押さえる千代さんの頬は赤く染まっていた。
            それだけのことでわかってしまう。

           (千代さんって沖田先生のことが好きなんだ・・・)

            そう思うと私の心の中はもやもやとしたものが湧き立ってきた。
            千代さんは女子として沖田先生に接してもらえて、触れてもらえて、
            私は女子のままでは傍にいることも、触れてもらう事も叶わない。
            いや、きっと出会うことすら出来なかった。
            私が手を伸ばしても届かないものをこの人はこんなにも容易く手に入れている。

           (私、千代さんを羨ましいと思ってる・・・)
           (武士になるって決めたのに、女子として接して欲しいって思ってる)
           (そんなことになったら傍にいられないのに!!)


         

           「神谷さんさっきからずっと元気がありませんね」
           「どうかしたんですか?」
            帰り道、ずっと黙り込んだままの私を変に思った沖田先生は私の顔を覗き込んだ。
           「何でもありません・・・」
           「何でもないということはないでしょう」
           「顔色もあまり良くないし、風邪でもひきましたか?」
            沖田先生の大きな手が私の額に伸ばされた。         
           「やめてください!!」
            私は勢い良く先生の手を払い除けた。
           「なっ・・・・」
            先生は驚いたように私の顔をジッと見た。
           「お願いですから、もう私に触れないで下さい」
            私は先生の目を見ることが出来ずに顔を横に背けた。
           「神谷さん、どうしたんですか?」
           「私、何かしましたか?」
            沖田先生は私の肩を掴んで理由を聞こうとした。

           (違う、違うんです先生・・・)

            先生に触れられるたびに自分が恋の対象ではないとイヤでも自覚してしまうのが辛い。
            武士になると口で言ってはいても、女子に未練を残す自分がいる。
            そんな気持ちが触れられたら先生に伝わってしまう気がする。

           「黙ってちゃわかりませんよ、神谷さん!!」
            先生は強く私の身体を揺すった。
           「もう、私も子供じゃありません・・・」
           「先生とはいえ、他の人に誤解されるのは困ります」
            私は目線を合わせられないまま嘘をついた。
           「誤解って・・・・そんな誤解されたら困る人でもいるんですか?」
           「痛・・・」
            先生に更に強く肩を掴まれたせいで痛みが走ったけれど、先生はそれに
          気を止めることなく鋭い視線で私を見つめた。
           「どうなんです!?神谷さん!!」
           「・・・・・・・」

           「これは私事なので先生に報告する義務はないと思います」

            私の言葉と共に肩を掴んでいた沖田先生の手の力が抜けた。
            顔を上げなくてもわかる。
            そこには信じられないと言った面持ちの先生がいることを。
           「そうですか・・・・・」
           「私は私なりにあなたを大切に思っていたつもりでしたけど神谷さんは
          違ったんですね」
           「わかりました、今後一切あなたの面倒はみません」
           「もう勝手にしなさい!!」
            沖田先生はそう怒鳴るとどこかへと行ってしまった。
            一人残された私はハラハラと涙が零れ落ちるのを必死に堪えた。
        
            これでいい・・・。
            これでいいのだ。
            私の心の裏にある醜さを知られて軽蔑されるよりは嫌われた方がずっと良い。
            そう、嫌われた方が・・・・。

            沖田先生、お願いです。
 
            どうかずっとこの胸の奥にある醜さに気づかずにいて・・・・・。



                                                       続くらしい・・・

           

                 言い訳

             だいぶ前から書いてたものです。
             ようやくUP致しました。
             本当は千代さんとか京弁にしたいけど
             わからないので書けないのです。
             うむむ、どうにか知る方法ないですかね?
             
             次は総ちゃん視点で進みます。
             





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