月下都市 2
冬に近付くにつれ、日が暮れるのもだいぶ早くなった。
蓮と香穂子が練習室から出ると、空はすっかり闇に染まっていた。
「もう生徒は残っていないようだな」
蓮の言葉に香穂子も校舎を振り返った。
校門を出て行く生徒は二、三人いるものの、二人の後ろを歩いてくる
生徒の姿は見られなかった。
静かな夜道を二人で並んで歩く。
今は駅前の通りはきっと帰宅する人も多くて賑わっているだろう時間帯だ。
だが、二人が歩いているのはそこから少し外れた住宅街。
煉瓦造りの歩道が二人の足音を静かな街に響き渡らせる。
「今日は満月なんだね」
「すごく明るい」
見上げれば空には丸い大きな月が浮かんでいた。
青い光が天を仰ぐ蓮を優しく照らす。
それは、端正な蓮の姿を一層美しく際立たせて、まるで神聖な
様にさえうつる。
思わず見惚れた香穂子の視線に蓮が気づいて振り返る。
香穂子は慌てて蓮から視線を逸らした。
その様子に蓮が悪戯っぽい表情を浮かべる。
蓮の手が香穂子の肩に回されて耳元で囁かれる。
「どうかしたのか?」
「べ、べつに何でもないよ!」
「熱い視線を感じたんだが?」
「蓮の勘違いだよ!!」
「じゃあ、今、香穂子の顔がキスした後みたいに赤いのも
気のせいか?」
「!?」
思わず両手で自分の頬を包む。
「嘘だ」
からかうような蓮の言葉に香穂子は頬を膨らませた。
「騙された・・・・」
「君は嘘がつけないから隠し事が出来ないな」
「素直すぎてすぐ表情に表れる」
「それって単純とも言えない?」
香穂子の言葉に蓮は首を振った。
「俺はそう思わない」
「心が純粋なんだ」
「純粋だから、色んな事をありのままに感じてあの音色が生まれる」
「俺はその音色や君の表情で、君のその時の思いを知る事が出来る」
「でも・・」
「でも、逆に私は不安だよ」
「私はすぐに表情に出ちゃうほど子供なのに、蓮はいつも大人というオブラートに
うまく自分を隠してしまうから・・・・」
「私は何もわかってあげられなくて」
そう、蓮は常に香穂子の感情を読み取って気を配ってくれる。
それなのに、自分の事は香穂子に心配させないようにと
上手く隠してしまう。
香穂子よりも一枚も二枚も感情のコントロールに長けている
蓮の心を読み取るのは至難の業だ。
その度に香穂子は思うのだ。
「そんな私に・・・いつか蓮が飽きられちゃったらって・・」
そんな日が来たら、私はどうしたらいい・・?
俯く香穂子の指先を蓮の冷たい手が握る。
「そんなことを考えてたのか?」
顔を上げると、息がかかるほど近くに蓮の顔があった。
「そんなことは無用の心配だ」
「俺が君に飽きるなんてありえない・・」
「これからもずっと・・絶対にだ・・」
香穂子の温かい唇に蓮の冷たい唇が重ねられた。
さっきまで顔を出していた満月は照れたように雲に身を隠した。
月明かりに照らされた街は闇に包まれる。
”香穂子以外の誰かに心揺れるなんてありえない・・”
そう思っていたのに・・・・・?
あけましておめでとうございます。
月下都市二話目でございます。
この話、日記にも書きましたがLaLaの
応募者CD聴きながら書きました。
日野ちゃん可愛い。
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