月下都市 8




                        (すっかり遅くなっちゃった)


                       立ち寄った本屋の自動ドアから一歩外に踏み出すと、
                     すっかり暗くなった空を見上げて内心焦った。

                       今日は学校の練習室の予約を取ることが出来なかった為、
                      月森の家にお邪魔していた。
                       しばらくは2人で練習したり、CDを聴いたりして過ごしていたのだが、
                      夕方も近くなった頃に早々と辞去してきた。

                       月森は当然のように「送る」と申し出てくれたのだが、音楽科には
                      今、課題がたくさん出されていることを森さんから聞いて知っていたので
                      泣く泣く「まだ明るいから大丈夫」と断った。

                      本当はもう少し一緒にいたかった。
                      でも恋人という位置に寄りかかって彼のお荷物になるような真似を
                     したくなかったと言うのも本当で・・・・。

                       何とも乙女心は複雑だ。

                      それから寂しさもあってか、真っ直ぐ家にも帰る気になれなくて
                     帰り道にある本屋に何となく寄ることにした。
                      最初は雑誌を見て歩いていたが、目的も無く立ち寄ったものだから
                     店を出るタイミングを見失い結構な時間をそこで過ごしてしまった。

                      店の中に一箇所だけついている時計に目をやった時、思った以上に時間が
                     過ぎていたものだから飛び上がりそうなほど驚いた。
                      そして慌てて外に出て今に至る。

                      最初は帰宅途中の人が多かったために軽い足取りで歩いていた
                     香穂子だったが、住宅街の奥に進むにつれ行き交う人の数は極端に
                   少なくなってくると心細くなってきた。

                      すると自然と歩く速さが増して来る。

                     いつしか小走り状態になっていたが、ふっと足を止めた。


                     何か白いものが香穂子めがけて飛んでくる。


                     それは目の前までやって来ると急降下して足元に着地した。
                     香穂子は身を屈めてそれを拾い上げる。

                    「紙飛行機?」

                     それはとても几帳面に折られたものだった。
                     どうしてこんな物が・・・と前方に目を向けた時、ある事に気づいて
                   ギクリと身を震わせた。

                     暗くてはっきりとは見えないが確かに少し離れた場所に誰かが立っている。

                     (痴漢?)
                     (まさか・・・そうとも限らない)

                     警戒する気持ちとそれを否定する気持ちが心の中を渦巻いていく。
                     

                     (どうしよう・・・)

                     このままずっと突っ立っているわけにも行かない。
                     家はもう目の前だ。
                     ここを通らなければ帰れない。

                     香穂子は鞄とヴァイオリンケースを抱くように持ち直し、身を守るようにして
                    再び歩き出した。

                     (大丈夫・・・少しでも危険を感じたら走って逃げよう・・)

                     腕の中の鞄とヴァイオリンケースを抱える力がグッと強くなる。

                     立ち尽くしている人物との距離が数メートルになった時、香穂子の後方
                    から一台の車がやって来て通り過ぎていった。
                     その車のライトが先に立つ人物の姿を徐々に照らし出す。


                     香穂子は再び足を止めた。


                     そこで香穂子を待っていたのは一人の女の子だった。


                   

                      書くたびに間があくので忘れちゃいますね〜。
                      ようやくオリジナルキャラが香穂子と絡みます。
                      この話は一応最後はこうしようとか決めてあるんですが、
                      パラレルな上に私にしては話が結構重いと思うので進むにつれて
                      本当に続けてよいのか迷ってしまいます。
                      まあ、ちゃんと最後まで書きますけどね。