連載小説
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第1話 切欠 OK
 チャイムが鳴り、授業が始まる。
「――であるからして、この世界の術業は――」
 (つまんないなぁ…)
術業の授業そっちのけで、ぼんやりと彼は青空の雲を眺めた。
(雲みたいだなぁ。
安定した世界だけど、だからこそ、つまらない)
 彼、龍禅 総十郎は日本屈指のエリート術士の家の二男だ。
兄は、どうも術業を使う適性がないらしい。
が、霊力だけは有り余っているので、使用術士ではなく構築術士になろうと頑張っている。
 使用術士と構築術士の違いと言えば、前者は魔法なり霊術なり兎に角『術業』と呼ばれる術を使う人の事であり、それら全ては『術式』と云う特定の演算記号で成り立っている。
術業を使うには、術業適正と各種術業適正を持っている必要があり、これがないと術式の編み方が雑になり、エネルギーロスや爆発事故に繋がる為、少なくとも日本の法律では適性試験に合格しないと術業を使えない。
 後者は自分が使うのではなく、術式だけを構築する人の事を言い、やっている事自体は電子機器へのプログラム構築と何ら変わらない。
それ故に構築術士は時折『術式プログラマー』なんて別名で呼ばれる事もある。
寧ろ此方の方が多いか。
 兄が後者を目指しているのは良い。
自分がなりたいのは使用術士だ。
所謂『魔法使い』や『陰陽師』とは、これに相当する職業であり、他にも戦闘系以外世界中で、その類の仕事で溢れ返っている。
 最も総十郎としては自衛隊の魔道連隊にでも入隊出来ればなぁ、位に思っている。
 飛来するチョークを首から上を半分程動かして回避する。
後ろで無関係の女子の顔面にチョークが激突した。
「先生、投げないで下さい。
関係ない奴に当たったじゃないですか」
「龍禅、お前なぁ!!」
先生が歩み寄る。
「何で俺の授業をちゃんと受けないんだよ!?」
「受けてますよ?
只覚えるのに他の人と違って必要とする集中力が低いだけで」
真顔且棒読みで答え、そして目を合わせない。
 総十郎は少しだけ、この男性職員が苦手なのだ。
「くぅう!?
 お前将来自衛隊に入りたいんじゃないのか!?」
「その為の予習なら完了してますよ?」
頭に入ってると言わんばかりに自分の頭を指さす総十郎。
 「…もう良い!!」
お決まりの流れだ。
 こっそりと女子に耳打ちする。
「何時も何時も流れ弾で悪いな」
「龍禅君、チョーク取れるでしょ〜〜!?」
 女子の抗議はスルーする。
「っちょ!?」
「…」
「はあ」
 
 授業が進み――終わる。
 この日、三年生の進路相談が始まるので午後は無い。
「久しぶりだなぁ…」
午前中の授業だけの日が、だ。
最近、あれやこれやと騒がれている。
≪テイガー・ガーディアン≫と呼ばれる、謎のテロ組織。
 只、偏にそう呼ぶには余りに不可解な点が多く、そうして発表した米国に世界は違和感を感じずには居られず、結果として世界一の大国は世界一胡散臭い国になってしまっている。 
 何故、今それを考えるかと言えば、単純に通学路の向こう側にあるビル街にあるビルの側面に引っ付いた巨大な液晶テレビに映るニュースでテイガー・ガーディアンの名を耳にしたからだ。
 (無駄な張力かもしれんな)
そう考え溜息を付く。
 以前授業で習った下級種族の使い魔の同時思考連結用術式を使った簡単なネットワークで、各ポイント周囲の音を術士の脳に認識させる事が出来る形で送信する魔法の一種で、これを見破るには解析魔法を使う必要がある。
逆に言えば、その程度で、事実として解析魔法に求めるレベルは素人レベルで良い。
 解析した場合、各ポイントを繋ぐ使い魔と、術士に繋がる一定間隔で流れる魔力を発見出来る。
地球上の生命が存在する限りに於いて、あらゆる条件下で魔力の流れが発生しているが、流れだけが一定の自然的魔力流動とは明らかに違う人為的な魔力流動さえ確認出来れば、後は状況を条件として考えれば全く問題がない。
少し必要とするのは≪考える力≫であって、馬鹿では無理だと言う事。
 やってから思う。
別に、こんな事をしなくても帰れば無駄に大きな液晶テレビがあるではないか、と。
(迫力があるのはゲームと映画だけで充分だ)
ニュースには無駄な情報が多過ぎる、と。
最もビルにくっ付いているタイプに関しては公共の物なので、事情が違う訳だが。
 ともあれ、それを止めてから数分後、彼の足は止まった。
可笑しいだろ、としか思えない規模の和が漂う屋敷。
背の高い建物があれば、完全に城となるだろう。
しかし、これが龍禅 総十郎の自宅なのだ。
標識には真っ黒な筆文字で龍禅家と書いてあるが、少し達筆すぎる気がしなくもない。
一般人には読み辛いのだ。

 「只今〜」
若干気怠そうに言う総十郎。
「お帰り」
「ああ、カレンさん」
背の高い女性が柔らかく微笑んで出迎えた。
彼女は龍禅家と50年以上の付き合いを持つ海外勢、特に勢力が大きい龍禅グループのアメリカ支部と迄呼ばれる程、外交的力の強いエルード一族の中で、特に最重要視されている≪力の目≫と呼ばれる特別な能力を持っている≪清龍刀継承者≫で、この代に於いて継承者は彼女一人である。
 ≪清龍刀≫とは、魂を具現化する物である。――とは説明されたのだが、カレンも総十郎も首を傾げる事しか出来ず、結局他の人と一緒に、説明してくれた当時のエルード当主に対して「何言ってんだ、こいつは?」と疑問に思わざる得なかった。
 カレン本人の説明としては、総十郎の兄、善十郎の許嫁で本人達の仲の良さは大いに結構なのだが、見ていると稀に苦虫を頬張りたくなる事がある。
普段節度を守っている反動故、その時の地獄っぷりと言えば。
 又、去年弟の誠也が、それに陥ったらしく、余りの甘ったるさに暴走して家の壁が砲弾が着弾でもしかたの様に、地面諸共消し飛んだ事がった。
誠也曰く「壁を殴ろうとしたら、無意識に魔法を使ったらしい」との事。
父の怒鳴り声は雷と云うより某逆襲者のアニメ映画の敵役が巨大な小惑星を地球に落としたのか、と勘違いしてしまう領域であった。
 「ああ、総十郎。
貴方宛てに大蔵社から手紙が来てるわよ。
後、如月と叢雲も」
「スカウト、懲りない連中が…。
あれ、有沢?
初めての所だな」
言いながら階段を上る。
部屋に入って中身を確認すると、大手の造船工場らしい。

 貴方のユグラドライヴに大口径攻撃砲を搭載しませんか!?

そんな文句から始まった事に、総十郎は少し驚いた。
内容は至って簡単。
要は総十郎が搭乗するユグラドライヴに大口径のランチャーを付けたがっているのだ。
 『ユグラドライヴ』とは、魔道外骨格戦闘補助機構――つまり術士を使ったパワードスーツで、魔道とこそ銘打っているが、実際は霊術等もふんだんに使っており、又基本構造は科学による物だ。
 そんなパワードスーツに実弾砲、それも手紙の内容にある見取り図からしてユグラドライヴを少し超える様な大きさのランチャー等、初めから付ける気になれない。
1メートル50が日本のユグラドライヴ規格で、このサイズに合う規格と言えばヨーロッパ連合規格の2メートル80、通称『2−80』だ。
日本自衛隊規格『1−50』には合わない。
一応接続機構自体は『1−50』だが『2−30』も想定内らしい。
 ともあれ、却下する。
 
 今日の宿題はゴーレム作りだ。
厳密には制作途中の物で、期間は4月から始まって6月迄。
現在は5月13日だ。
 ゴーレムとは、術業を使った物で一般的には魔法が使われる。
これは魔力が僅かながらに質量を持っている為に、霊術より駆動制御の術式が簡易になるからだ。
 要は魔法版ロボットだが、総十郎は霊術主体に造る、と決めている。
霊力は実質的な質量は持たないが、他形態のエネルギーに干渉し易く、その部分さえ制御出来てしまえば、魔力流動が速い関係上、運動速度が非常に速い物となるからだ。
 動力機関こそモーターだが、逆に言えばモーターこそ唯一の科学部分だ。
 実は、電力と魔力、両方を互いに変換する装置もユグラドライヴと言い、今回モーターと一緒に支給されている。
 「さあて、前はお手伝い型だったからな。
バトルゴーレム大会用の奴でも作るか、とは決めたんだがなぁ…」
武器は、剣や刀、戦斧の類しか認められておらず、サイズも10センチ以内。
ブースターは無制限で、出力の合計推力こそ規定されているが、変形はゴーレム自体が人型形態を有するのであれば、それを含めた二形態以内なら認められる。
 パソコンを起動し、術式構築用ソフトを立ち上げる。
傍らで情報収集用のパソコンを起動する。
ソフトを使っている方はノートパソコン、情報収集(インターネット用)の方は据え置き型である。
 ネットで動画を確認、画像をフォルダに落とし込み、参考にする。
それと並列しノートパソコン側でデザイン用ソフトを起動、術式用ソフトと連動させ、準備が整う。
「えっと、デカい羽…は、っと」
 今回制作する大会出場用ゴーレムは宿題として提出した後、後日授業で稼働状態を各自で披露する事になっているが、それが終わり次第、疲労が組み込まれた授業のある日の、全授業が終わった段階、つまり帰宅段階で学校に寄付するか、寄付せずに持ち帰るかが選択出来る。
 今回は人型と狼型の二形態を採用する。
背中の巨大な翼はブースターとスラスターの両方を兼ね備えている。
大会用の定義として主力推進機関をブースター、推力発生による機体の姿勢制御用の物をスラスターと言う。
 「前年度は…いわあ、だっせぇ…」
物凄く不格好なゴーレムが検索に引っ掛かった。
片腕が剣を装備する為だけの形状、もう片方がシールドとなっている。
しかし大会用の認定装備に防具が無かった為、片腕のみで出場する事になったらしい。
 総十郎のゴーレムは、光子を集めたりプラズマを生成したりと、今迄出場して来た、どのゴーレムにも使用されていないタイプの魔道ブースターを使う予定だ。
 術業を使った物を、術業転換ブースターと総称し、中でも魔法系術式を使っている物は、マジックブースターとされる。
基本的に、魔道ブースターと言えばマジックブースターだ。
 厳密には魔力を使っている物の事だが、基本は定義が曖昧になっている。
 しかし、全十郎の場合は、魔力こそ使うが、その全てが魔力や魔力によって成形された術式、及び魔法形態ばかりではなく、一般的な術業転換ブースターがマジックブースターである事に対し、今回のゴーレムの物は、複数の術業の術式を使った演算式、及び複合型術業による統合術型化学推進システムと言えよう。
 何にせよ、ゴーレム自体は、当初二刀流を予定していたが、今年の大会では一刀流限定になってしまったので、最終調整の予定が大幅に狂い、宿題が発表された、この時期迄引っ張る事になってしまった。
当然宿題の為のゴーレムを制作する時間は無く、出場用ゴーレムを宿題用として提出し、手物にない内は、パソコンで術式の組み立てばかりしている訳だ。
 流す魔力や霊力の数値を入力して、予定ゴーレムを三次元物体認識装置で解析して、データをパソコンに読み込ませ、それを使って物理演算装置を外付けケーブルで繋げて、術式や出力を微調整しながら、数え切れぬ動作確認をし続け、失敗し続け、繰り返す内に徐々に成功に結果が近付きつつある。
 ゴーレム提出は明日。
しかし担当の教師は、バトル物を何故か極端に嫌う傾向がある。
何でも家族が自衛隊一家で、本人は自衛隊が嫌いらしい。
理由は家族も知らず、困っていると噂で持ち切りだ。
 総十郎は知っていて、それでも大会用の――バトル物のゴーレムを提出するつもりだ。
 提出時に一緒に取扱説明書も書いておく。
最後の一文は、こうなっていた。

 ――尚、本機の破壊目的で行動した場合、防衛機能が起動し対象を無力化します――

 大方、泥棒対策用のゴーレムとして提出するので、大会用術式内容はパソコンのフォルダの中にあるままだ。
 防衛機構に関しては、単に泥棒対策用ゴーレムが持っていても可笑しくないから、と云う事と、それを盾前にした先生にゴーレムを破壊させる事に対しての対策であり、真の目的は言わずもがな後者である。
翼に関しては、調整が終わっていないので、危険と判断した。
幾ら泥棒対策としても(誤魔化しだが)人に怪我をさせる可能性は少ない方が良いからだ。
 先生自身は、こう言っていた。

 「それからゴーレムは何でも良いですが、人の役に立てるなら良いですね。
特にお手伝いとか…。
っま、バトル物でも良いんですけどもね」

 お手伝いを矢鱈と強調していたのが気に食わず、総十郎含め、男女問わず大多数のクラスメイトが、教室に集まって会議する事となった。
 中には、それを機に交際相手を見つけようとする男子も多かったが、女子も割と、その様に見受けられたのも事実だ。
 総十郎のクラスの教室以外でも、彼が友人らと共に帰宅する際、かなり連続して、その様な教室が多かったのは印象的だった。
勿論、同じ時間に同じ授業を受けている訳ではないのだが、あの先生は多数のクラスで同じ内容を連続で行っていたらしく、それ以前からの悪い印象もあって非常に評判が悪かった。
総十郎自身、他の教師と、黒い色の会話をした経験は先生相手の面識が少ない物の、それを考慮すれば多い方だと自分でも思っていた。
クラスメイト内での会話で似た様な会話をした回数は、勿論先生相手よりも遥かに多く、総十郎は勿論、他の生徒も数えていないと、面倒臭そうに言っていた。

 三日後の朝だった。
調節が終わったゴーレムを専用のバックパックに詰めて、何時も使う鞄を何時もの様に自転車の籠に入れる。
 二日前漸く壊れていた自転車の修理が完了したばかりで、僅かに乗り心地が変化していたが、気にする程でもなかった。
空気が充分入っているかを手が汚れない様に、専用のクロスを介して感触を確かめ、大丈夫と判断して漸くバックパックが落ちないかを確認し始める。
紐で縛っているのを再確認してから、鍵を刺して後輪のロックを解除、スタンドを蹴って、後輪が地面でバウンドする感触と音を感じながら、Uターンし、そして漕ぎ始める。
 角度のきつい上り坂だが、総十郎は難なく駆け上がる。
十分程して、漸く女子の日向 葵と男子の横山 武が待っている所に到着できた。

 かくして、三人は学校へ登校するのだが、その際小さな獣を見つけて…
13/05/14 17:24更新 /
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■作者メッセージ
2013年5月14日17時23分
現内容を以て本話を完結とする。

報告者;天
報告対象;全読者 コロニー大和総司令官アンタレス

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