連載小説
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満身創痍
「”イオ”と”エンケラドス”が沈み、”奴ら”は”ジュピター”に集中した。”ジュピター”は重巡洋艦に分類されてはいるが、戦艦クラスの性能を持っている。先に沈んだ2艦とは違い、多少の攻撃ではびくともしない。しかし、その弾幕も装甲も、徐々に切り崩されつつあった。
既に第二副砲はその動きを止め、無数の機銃砲塔もその3割近くは打ち砕かれ、黒煙を上げていた。対艦、対要塞用攻略兵器として絶大な威力を誇った大口径の主砲も、群がる”奴ら”に対しては大した役には立たなかった。

”リンダの姉御、後ろ、後ろですッ!”

”弾がないわ。アルサー、カバーして!”

前部甲板のリンダとアルサーも必死だ。後部甲板を守る俺とて一瞬の油断が命取りの状況にある。弾幕を抜けて接近した一機の”アレ”が、俺の機体をかすめて第三副砲の天蓋に命中し、破片を散らした。その副砲が止まった一瞬の隙を突いて、十数機の”奴ら”が下部艦橋を直撃した。轟音と無数の破片。艦橋に備えられた第二高角砲は潰れ、第三高角砲は台座ごとひっくり返った。
”奴ら”の数は増える一方で、その自爆攻撃は激しさを増した。先行した、ジャックのAC”ドゥルカマーラ”率いるMT一個中隊も、”奴ら”に行く手を阻まれ、港から帰艦することが出来ないらしい。ミラージュ側からの反応が無い所をみると、彼らも俺たちと同じ状況なのだろう。
防御が手薄になった艦橋に”奴ら”が殺到した。俺は愛機”メタスターシス”を跳躍させ、今だ炎を上げる下部艦橋の上に着地した。そして、夏の羽虫の群れのごとく襲い来る”奴ら”を片っ端から撃ち落していった。

”後部甲板、どうした!弾幕が薄いぞ!”

ロドムのやや上ずった声が響く。俺が後部甲板から離れたのだから、そんなことは当たり前でわかりきっている。しかし、艦橋をやらせるわけにもいかない。艦橋に群がり襲い来る”奴ら”を撃ち砕き、叩き落し、切り払い、俺はそこを必死で守った。だがやはり、艦橋を含めた後部を一機のACで守りきれるはずもなかった。機銃群の弾幕を抜けた”奴ら”が後部甲板を直撃し、火柱を上げた。後部の垂直ミサイル砲台は根元から吹っ飛び、第三副砲の砲身は飴の様に曲がった。しかし、さらに恐ろしいことが起こっていた。後部甲板の下に包まれたエンジンが、この爆発で装甲をはがされ、剥き出しになってしまったのだ。エンジンをやられれば、艦はただの鉄の棺おけと化す。俺は、やむなく艦橋を離れ、後部甲板へ戻った…。」

チューマーは、そこでキリッと唇をかみました。

「その瞬間だった。俺が艦橋を離れるのを待っていたかのように、”奴ら”が一斉に上部艦橋を襲ったのだ。なす術も無かった。一瞬の間をおいて、艦橋は紅蓮の炎に包まれた。そこにいたロドムは即死だったに違いない。司令塔たる艦橋がやられたことで、全ての指揮系統が停滞した。機銃砲塔は次々と潰され、弾幕の薄くなった所から”奴ら”は突入し、”ジュピター”の艦体を砕いていった。
前部甲板の守りも壊滅的となった。第一副砲は遂に沈黙し、艦首に並んだミサイル砲台群からも火の手が上がった。そんな中、無数の銃弾をばら撒いて必死に防戦するリンダのAC”ジャンネッタ”が、煙にかすんで見えた。艦前方から突入してくる”奴ら”を辛うじて叩き落すAC”ジャンネッタ”だったが、その死角をついて、”奴ら”の一塊となった大群が彼女の頭上へ急降下した。時は凍り、AC”ジャンネッタ”がスローモーションのように天を仰いだ…。
そこへ、アルサーのAC”ヴィオラ”が飛び込んでいた。この刹那のどこにそんな隙があったのか、俺にはわからない。

”姉御は…俺の…”

雑音に混じって、アルサーの最期の声が聞こえたようだったが、雑音にかき消された。

”アルサーッ!”

リンダの悲痛な叫びが響き、大音響と共に、AC”ヴィオラ”は爆発四散した。その爆煙は天をつき、爆風は艦を揺るがした。
人一倍リンダのことを思っていたアルサーだ。奴らしい最期と言えなくもない。だが、AC一機を失った損失は致命的だった。もはやこれまでか、と俺も覚悟を決めた。

しかし、艦橋の被弾後、統制を失っていた砲塔群が、突然息を吹き返したかのように稼動を始めたのだ。狂いのない連携で再び”奴ら”を撃退してゆく。何が起こったのか、俺は咄嗟にはわからなかった。
放送が入った。

”諸君。遅くなってすまない。艦隊指令のノルバスクだ。これより、名誉の戦死を遂げたロドム=ザンタック中佐に代わり、私が本艦の指揮を執る。ジャック=ファイザーの隊も帰艦した。敵の数は多いが、無限はあり得ず、個々は弱い。迷うな。我々は、必ず勝つ。”

艦深部にいたノルバスクが、消火を終えた艦橋に上がったのだ。
見れば、傷ついてはいるものの、MT数機を従えたAC”ドゥルカマーラ”が右舷に到着している。
ノルバスクの登場とジャックの帰艦で、兵たちの士気は一気に高揚した。”奴ら”の数も心なしか少なくなってきたようだ。生き残った砲塔群は高々と砲身を上げ、俺も熱で火を噴き始めたマシンガンを予備に取り替え、再び”奴ら”に銃口を向けた。
しかし、甘い話は無かった。誰も予想しない、最悪の事態が”ジュピター”を襲ったのだ。」
10/02/28 08:29更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50