連載小説
[TOP][目次]
機体を格納する迄が作戦です OK
 ――ボロボロのナストロファージ。
何とかスカルフォックスを移動用車両に格納した所で限界が来た。

「あ、ダウンだ。
――ああ、駄目だ。
これは完全に停止したぞ。
誰かが帰る迄が作戦ですって言ってはいたが…。

うわぁ、これ停止中に撃たれたら死ぬよな?」

 格納物資を漁ろうと、シート装置のコンソールを操作する。

操作…する。
する。
…操作…。

「駄目だ」
如何やら完全に機能停止したらしく、細々とした操作も出来ない。
完全に電源が消えたらしい。

 「取り敢えず、エンジンは停止して居るな」
後ろを振り向きながら確認する。
後ろは壁、それ所か真っ暗なので何も見えない。

 稼働音はしないので、行き場を失った電力でエンジン暴走する事はないだろう。
もし、そうなる様な状態だった場合、自分が爆弾なのだから怖い話だ。

事実、帰還中のミグラントの内、該当機が爆発した事があると聞く。
周囲ばかりを警戒していたミグラントが事に気付いたのはレイヴンの悲鳴だったらしい。

 ―――ドカン。
その一回の爆発だけで移動車両は勿論、広域作戦支援車両も吹き飛んだらしい。

 「どーすんだ、これ…」
そう言うしか、今の彼には無かった。


 ヴァーナイトがブースターを高出力状態で吹かしながら戦う。
相手は企業部隊だった。

 『傭兵風情が。
雇い主に反旗を翻すとは…ッッ!!』
バレーナ社社長の声が通信回線を通じて届く。

『全機、敵ACを撃破しろ!
幾らランカーとて、一機如きでは多勢に無勢だ!!』

防衛型のシールド装備MTが34センチロケット砲を乱発する。
 が、無限軌道のMTでヴァーナイトを捉えられる道理が無い。

『はや―――何なんだ!?』
オーバードブーストを吹かし、すぐに停止する。
少し浮いた状態で慣性を維持したままグラインドブーストで右へ移動する。
移動戦場に敵機が存在したコースから一瞬で離脱し、再びオーバードブーストを点火する。

 当然、オーバードブーストにはタイムラグがあるが、どの道MTの次元ではない。

 一瞬の内に大型の武装トレーラーへ近付き、それを蹴る。
空中へ飛び退いたヴァーナイトが両手のショットガンを同時撃ちする。

 グラインドブーストで弧を描きながらショットガンを的確に発砲する。
散弾が直撃したバルカン砲やロケット砲の損傷に気付かずトリガーを引き続けた結果、多くの防衛型MTが爆発する。
それで機能停止したかは兎も角、それしか武器のない機体は戦闘不能である。

 跳躍性能に特化すべく、装甲の殆どを廃し、別途で購入した補助ブースターを改造した物を取り付けた軽量級程の装甲しかない重量逆関節。
コアも腕部も腕部装備型キャノンを装備するには心許ない程性能を削った特化型を改造した物だ。

最早、ミグラントショップでなければ修理部品が手に入らない機体である。
しかし、ミグラントショップの方が遥かに安いのも事実だ。
結果、修理はし辛いが修理費自体は嵩張らないと言う、不思議な機体に仕上がったのがヴァーナイトだ。

 掃除を終えた所で、敵増援が通路から接近して来るのを確認する。
通路横に移動して、トリガー操作を一度だけグラインドブースト制御と同期させ、モーションスタート入力設定をグラインドブーストへと設定する。

グラインドブーストで通路前に飛び出し、そのまま右から左へ消える作戦だ。
攻撃は自動制御されたタイマーにより、機体が躍り出ている間に行われる。

 一度だけ確認し、確認し終えると同時に機体を反転、スタートモーションに設定した横グラインドブースト移動を開始する。

 乾いた轟音と共に機体が動く。
強いGと共にモニターの映像が流れ出す。

 その時、一瞬だがハッキリと姿が捉えられた。

(何だ、あの機体は!?)
ACではない。
大きさが違う。
MTにしても形状が可笑しい。

全くの未知なる兵器だ。

 セットしていたモーションが自動解除されたのを確認しつつ、グラインドブーストで他の通路へ隠れる。


 ―――ズゥオオオアァッシャアアアアッ!!
沢山の大きなブースターによって生み出された推力を押し留めながら旋回する正体不明機動兵器。

 エリア中央付近迄ブーストダッシュしたかと思うと、突然物凄い勢いで回転した。
同時に何か光った所から考えるとエムロード製エクステンションのターンブースターの様な物かと思ったが、そもそもACには見えない。
それ所か何処の企業や組織の兵器かも分からない。

 敵機の残骸で潰れた柱や穴の開いたコンテナに隠れて様子を窺うヴァーナイトの搭乗者。
 相手は敵か味方かも分からないのだから、見つかるのは危険だ。
念の為、全ての通信回線を遮断する。

 唐突に光り出した、かと思った瞬間途轍もない爆音と衝撃が周囲を薙ぎ払った。
辛うじて正体不明機に近い方のコンテナ等だけの被害で済んだが、その被害は凄まじかった。
完全に消えていたり、コンクリートの床に巨大なクレーターが出来たりしているのだ。

 天井裏にある設備にもダメージが届いたのか、天井が崩れて水が落下する。
一時的に滝が出来るが、その真下に居る機体には触れる事なく、何故か蒸発する。
機体周辺にバリアの様な物が展開されており、干渉による現象だと思われる。

 正体不明機が来た道へ旋回し――背部に光をためた直後、すっ飛んで行った。
(お、オーバードブースト!?
ば、馬鹿な…、何なんだ!)


 ナストロファージを見つけたMT部隊が寄越したトラックが到着したのは、三時間後の事だった。

 無事、トンネルを脱したエグは後からMT部隊に護衛された小型トレーラーに載せられたスカルフォックスを見て、余計に心配した。

損傷が酷いからだ。

 地下のレジスタンス専用トンネルに入り、レジスタンス同盟専用合同キャンプのガレージで修理が始まる。

 と言っても、エグやシャドーミラのACが修復されるのは一月後戸の事だ。
後からエグも聞いた話だが、第一MT部隊はバレーナ社現社長の乗ったハイエンドMTと交戦したらしく、その損傷が酷いから、との事だった。

ACと違って、交換用規格制定ジョイントが無い為修理作業はACと比べて格段に早く済む為、全体の戦力復活としてはMTの修理を優先した方が効率が良いと説明された。

ACは強力だが、それ故に面倒な部分が多く整備士からすれば面倒が少ないMTの方が管理が遥かに楽で、各コロニー代表も安価なMTの方が全面戦争であれば要戦力が相手でない限り問題が少ないと結論を出したのだ。

 「それにしてもスカルフォックスの弾薬費が嵩みますね」
「企業の製品だからな。
ジオ社のだったか?」
「ああ、チューンして初速も高めた。
如何せバズーカだ、多少精度が落ちても問題ない、と思ってな」
「道理で口径数に見合わない高火力な訳だ」

 「お蔭で内部フレームが痛みやすいんですよ?」
そう言いながら整備士が脚立に跨りながらスカルフォックスの取り外された左腕部バズーカの株装甲の内部を掃除する。

 「あ、45SSの9番…あれ、ああ8番です。
あー、それ…違う横、隣…逆!」
「これっすかあ?」
「それそれ!」

「ああ、これも酷い状態だなぁ」
「ジョイント装置がもぎ取られちゃってますね」
「良くもまあ、管制ユニットが耐えれたもんだ。
やっぱ企業の製品は品質が良いのかねぇ?」


 ――――「宜しいか?」
「お、イギリスさんの所の整備班長じゃねェか?」

「何の用で?」
「ああ、先の戦闘で子飼いのミグラント達が敵MTの残骸を得た。
その収入と一部パーツの入手の関係で、頼み事があってな」

 脚立から降りた整備士がクリップに纏められた資料を確認する。
「うぉお〜〜…。
120万って所か、大収穫じゃねェか…――――――――お?」

一番下の所に不明装置と言う項目があった。
掲載されている写真には、何処かで見覚えのあるAC用武器が吊るされていた。

 「ナストロファージの敵機体データ97番をロード、端末にダウンロード」
「は、はい!」

 「何か覚えが?」
「まあ…一応。
まーあ、取り敢えず気のせいか気のせいじゃないかってのは重要だしな」

「ふむ、見た所熱エネルギー系のライフルらしいが、詳細が不明でな。
一応我々も解析してはみたが、全く駄目でな。
政府も困り果てた末、他国の力を借りようとした訳だ」

「だが、そんな連絡はない」
言ったのはエグだった。
「仮にそうなら連絡の一つ寄越すのが道理だろう。
届いていたなら上が俺達に言わない筈がない。
今力を借りようとしているのは俺の部隊の遠征整備班だ。
俺の耳に入っていないのは可笑しいんじゃないか?」

「オペレーター止まりじゃないのか」
「あいつは重要な情報は管理出来ている。
必要な情報を連絡しないのはオペレーターにあるまじき判断や行為だ。
それに、俺も信頼しているがエレンの名は腕利きとして多少は知られている」

「ああ、彼女が此処の…。
是非引き込みたい…分かったから睨まないでくれ。
冗談だよ、冗談」
「今度から冗談を言う時は内容に気を付けろ?」
「あ、ああ。
わ、分かった…」


 ―――夜の荒野を駆け抜ける大型MTが四機、遠くから小型MT一機。
『タンゴ1よりタンゴチーム!!
間もなく作戦領域内だ。

 作戦領域侵入後、予定ルート上を各機速やかに移動せよ。
移動完了次第現状報告だ』
『ブラックドーターよりタンゴチーム。
此方は全タンゴ所属機に対し作戦管制を担当する。

敵勢力、並びにイレギュラー要素を確認した場合、即時指示を出す。
皆不安定的指示に心備えよ!!』

『タンゴ1了解』
『タンゴ3了解』
『タンゴ2了解』
『タンゴ4了解』

MT達の了解を訊き、女性オペレーターが宣言する。
『状況開始!!』

『タンゴリーダー、状況開始了解!!』

 次いで通信音声の中で、相手が回線を起動させる音が聞こえた。
ブラックドーターにも聞こえているが隊長は気にも留めずに言った。

『タンゴチーム全機、聞いた通りだ。
作戦第一段階を開始する!!』

2と3が了解と返答、4が一息後れて了解と答える。

 長距離滑走装置の推進装置が停止しMTが超低空飛行状態から解放される。
「タンゴ1、着地。
パイロット・バイタル、脈拍、呼吸数、心拍数、脳波…オールグリーン。
機体同調システム、安定しています」
「タンゴ2、オールグリーン状態を維持したまま着地に成功しました」
「タンゴ4、異常ないまま着地成功。
移動を開始すると連絡が入りました」
「タンゴ3、着地後、同調バイタル安定。
パイロット・バイタルも良好です!」

 ホバー移動する各機の反応座標を閉め示すレーダー上の表示が表示される。
同時に各表示座標に各機の情報が表示される。

機体から送られる物やスーツから送られて来る物もある。
航空管制機に乗ったオペレーター達の解析情報も表示されている。

 それぞれのリンク情報がシステムの安定を示しているのだ。

 『タンゴ1、哨戒任務中と思しき機影を確認。
現在目標ポイント迄後470を突破』

「タンゴ1、目標座標到達迄…。
5、4、3、2、1…タンゴ1、停止。
現状報告せよ」

『逆関節型の…偵察や索敵にはお馴染みの軽量MTだ。
ライトを使ってる』

それを聞いた作戦管制官――最初の女性オペレーターが指示を出す。
「撃破だ、隠密用弾薬を装填、2秒後に発射。
発射後、ブリーフィング内容通りの行動に復帰せよ」
『了解』

 隊長機に乗ったパイロットがコンパターを操作する。
特殊ガス圧型薬莢を採用した2ミリ口径弾を装填する。

この砲弾の長さは4メートルもあり、中は比重が凄く重いガスが入っている。

 「目標ロック…発射タイマーをセット!」

――。

パスッ!―――――――キュィン!!

砲弾の発射音にしては情けない音だ。
決して轟音ではない。

しかし、轟音か否かと性能の成否は無関係である。

 甲高い音と共に上半身が零れ落ち、急激な重心の変動により下半身が前のめりになって転倒、無力化する。
「敵機が真っ二つになった。
動体反応健在。

 だが、あれで…戦えるか疑問だ。
映像を送信する」

 ブラックドーターに映像が送信される。
 「第二射装填、完了次第発射。
今度はタイマーは不要だ、破壊確認次第移動開始だ」
『了解、第二射装填。
…撃つ!!』

 映像でも確り命中する瞬間が見れた。


 ―――――――――――――――部隊が動く。
『自立型索敵用MTが一機破壊された!
AT463番64ポイントの機体だ!!』

『全機発進、全機発進!!』

 『迷彩リコン、敵機キャッチ!
敵航空管制機と思われる飛行機と機動兵器らしき機影を確認。
この勢力をMT破壊の犯人とみて間違いない筈です!!』

 戦車が狙いを付け――複数台が一斉に連続砲撃を開始する。

『タンゴ2よりタンゴチーム、及びブラックドーターへ!!
敵の砲撃が始まりまし――こ、この精度は…馬鹿な!?』
『ブラックドーターよりタンゴ2、如何した!?』
苛立っている様な声音で大きく声を張るオペレーター。

 「タンゴ1、リンクロスト!」
「タンゴ2、機体被弾!
損傷率…駄目です、撃墜されてる…」

 「――っく、タンゴ3、4を後退させろ!!」
 「タンゴ4反応消失!」
「タンゴ3、タンゴ4脱出機構の作動を確認」

「タンゴ3、4を援護しろ!
タンゴ4を回収出来る状況になる迄、こっちから…―――。
駄目か、それはそれで敵に位置を知らせる事になる…!!」
13/09/11 18:09更新 /
前へ 次へ

TOP | 目次

まろやか投稿小説 Ver1.50