連載小説
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黒い鏡
それから間もなく。
フェアレ君の実戦テストは、思いのほか早かった。
小雨の降る、少し肌寒い日。
我が社の管理する市街地に不法侵入した、ミラージュ小部隊の掃討作戦である。
敵はMT数機。
フェアレ君をそのコクピットに乗せ、AC”イエロードック”はただ一機、作戦領域に到着した。

フェアレ君に通信が入る。
『目標はターゲットの全滅。市街戦である。民間へのダメージは避けよ。以上だ。』

フェアレ君は無言で通信を切った。


数分後。


ターゲットの敵MTは、全て原形をとどめぬ鉄屑となっていた。
市街地は燃え上がり、暗い空に赤い炎を映している。
路上には、累々と、人々の骸。
フェアレ君は、たった数分のうちに、平穏な市街地を地獄へ変えてしまったのだ。
一切の躊躇もなく、ただ無言で。


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巡洋艦”ジュピター”、ブリーフィングルーム。
丸テーブルを数人が囲んでいる。
作戦から帰還したフェアレ君、そしてリンダ君と本作戦指令のアーテリー中佐だ。

「フェアレ。作戦の目的は、敵MTの掃討だったはずだ。無関係な市民を殺害する理由はなかったはずだが?」

アーテリー中佐の問いに、フェアレ君は少し不満げな顔でこう答えた。

「…邪魔だったから。だから殺した。」

リンダ君は眉をひそめる。
アーテリー中佐は小さなため息をついた。

「それは答えにならんよ、フェアレ。彼らには死ぬ理由がなかった。」

すると、フェアレ君は、こう言った。

「…死ぬのは、あいつらが弱いから。殺したのは、あいつらが必要ないから。」

その瞬間。がたん、と音を立てて、リンダ君は立ち上がった。

「な、なによ、それ!それは…!」

リンダ君の華奢な肩はわなわなと震えている。
かみ締めた唇は、真っ青だ。
死んだ少年の顔、死の色が脳裏に蘇る。
視界がゆがむ…。

「…リンダ君。どこかで聞いた台詞だな。
君は、人のことを言えるのか?
まるで君にそっくりだ。」

アーテリー中佐の声もうつろに聞こえる。
同じ…。これは、自分と同じ…!
いや、違う…!
私はこんなんじゃない!!


フェアレ君は、声を立てずに笑った。
10/02/28 08:06更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50