連載小説
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中編
ロウケンさんとの勝負は激戦だったと言っていいだろう。
ちょっと汚い手を使って何とか、ステイルメイトに持ち込んで事なきを得たわけだ。
ステイルメイトというのは、自分の手番であり、相手にチェックはされておらず、反則にならずに動かせる駒が1つもない状態になることだ。
まあ、勝った時の状況としては上手くロウケンさんの駒を誘導して自分のキングが自殺手しかない様に誘導したのだ。
このルールはキリスト教の自害を禁じるところから来ていると言う。
余り宗教は信じて居ないが、此の事に関しては宗教に感謝しておこうか・・・
まあ、クイーンとキングさえ残っていれば案外、何とかなるもんだ・・・
双方に特に何もなしという感じで終わった・・・。
時はもう既に夜遅くになってしまっている。
結局、今日も杏子は行動を起こすことは無かったようだ。
俺はパジャマの上に少し厚めのコートを羽織り、椅子に座りワイン瓶がちょこんと乗ったテーブルに向かいながらワインの入ったグラスを持ちベランダで満月を見上げて居た。
砂漠と言うのは、日較差が大きく、昼は熱いが夜はとても冷える。
砂地は熱をすぐにため込むが、放出してしまう速度も速い。
太陽が沈んでしまえば、灼熱の砂の世界から冷たい砂の世界に変貌する。
「・・・ルナ。」
何故、俺がこんなことをしているかって?
今日はルナの月命日、決して宗教を信じているわけではない。
死者に対して弔いの意を示すのは人として当然のことだろう?
俺は月に向かってワインを向けて静かに言葉を呟いた。
部屋ではベッドの上でサンがスースーと可愛げな寝息を立てて寝ている。
「・・・!?」
唐突に部屋の方から扉が開く音が聞こえた。
俺はムッと訝しげに身体を動かしながらそちらの方を見た。
こんな時間に誰だ、何か緊急の連絡か?
頭の中で推理だけが行われているが、慌ててないところをみると侵入者と結論づけた。
ドアの向こうは廊下になっているので、ドアから光が漏れる。
逆光な為に侵入者の姿は見ることが出来なかった。
しかし、それも関係なくなり、ゆっくりとドアは閉じられて部屋はまた暗闇が支配し始める。
侵入者は部屋に入って気付かれない様に前進しているのか、押し殺している様な足音が聞こえた。
「痛ッ・・・全く、整理しろよな・・・。」
「それは悪かったな・・・。」
足音が聞こえてからしばらくして、ボスッと侵入者が何かを足にぶつけるような音がした。
それと同時に悪態を吐くような声が聞こえたが、その声は杏子の声だった。
どうやら廊下での光に慣れてしまっていて暗闇にはまだ目が慣れて居ない様だ。
尻尾をつかめたと思いつつ、俺は椅子から立ち上がりながら静かに言葉を言ってやった。
「・・・!?」
「何をしに俺の部屋に来た?」
杏子は声が返ってきたことにビクッとしているのか、特に何も言葉を言わなかった。
俺はそんな杏子に対してお構いなく威圧的に言葉を言った。
やはり、噂は本物か、利己的に行動する女、杏子・・・。
「へ、部屋を間違えただけさ。」
杏子は強がるような感じで言葉を返してきた。
何かを隠したい事があると言うのは、言葉の裏に完全に現れている。
俺の部屋に何か盗めるような物があったか、と考えながらゆっくりと俺はベランダから部屋の中に入った。
「・・・その箱は?」
人は明るい場所と暗い場所で視神経の状態を変えている。
明るい場所に適応する事を明順応、暗い場所に適応することを暗順応というが、明順応は40秒〜1分で完了できるのに対して、暗順応は30分〜1時間かかる。
ベランダからの月明かりしかない真っ暗な空間の中では杏子には殆ど何も見えないだろう。
俺はずっと暗闇の中に居たので杏子の姿も細部まで分かる。
手には何かを持っているようだが、この部屋の物ではない・・・。
「・・・た、誕生日プレゼントだ。」
「え?」
杏子は誤魔化せないと判断したのか俺の言葉を聞けば恥ずかしげに言葉を言った。
俺は余りの事に呆れてしまってその場で固まってしまった。
「アンタは弟の誕生日を忘れてるのかい?」
杏子は、今度は呆れたように俺に対して言葉を言って来た。
そういえば、そうだった・・・。
嗚呼、自分の事や隊の事にとらわれ過ぎて自分の弟の事を忘れてしまうとは・・・
俺もヤキが回ったか・・・。
「・・・なんでお前が誕生日プレゼントを?」
正直言うと信じられないが、杏子の表情を見て居れば信じざるを得ない。
俺は少し驚いた様な感じで言葉を言った。
「アタシはさぁ、コイツに感謝してるのさ。」
杏子は軽くハハッと笑いながら言葉を言った。
そういえば元はサンに誘われて隊に入ったんだったな・・・。
「感謝・・・?」
俺は杏子の言葉に対して真剣な面持ちで尋ねる。
まだ、完全に疑いを解いたわけではなく、杏子の本心という物が知りたかった。
「アタシに昔考えていたことを思い出させてくれたからね。」
杏子は言葉を途切れることなく言い切る。
その口調は何だか爽やかで吹っ切れた様な感じだ。
此の感じは嘘ではなさそうだ。
「・・・ワインでも飲むか?」
俺は杏子に対して誘いの言葉を掛けてみた。
「コイツを置いてからならな。」
杏子は箱を軽く視線に入れるようにしながら言葉を返した。
積もる話は酒の席で聞こうじゃないか・・・
12/05/28 19:34更新 / シャドウ
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■作者メッセージ
キャラの誕生日とか考えてたけどもどうしようかなー。
まあ、どうでもいっか・・・

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まろやか投稿小説 Ver1.50