ジュピターの最期
「『生き残れるのではないか。』という空気が流れ始めた時だった。突如、大爆発と共に前部甲板が吹き飛んだ。そこにいたAC”ジャンネッタ”は弾けとび、第二副砲の基部に叩きつけられた。続けて、艦首付近に火柱が上がった。爆発は、艦前部の大型格納庫からだ。
信じられないことだが、格納されていた無人の”ダークネススカイ”が、突如暴走を始めたのだ。
クレストの新兵器たる”ダークネススカイ”にはブラックボックスが多く、『極秘裏に発掘された旧世代の兵器の技術が流用された』という噂が絶えない。”ダークネススカイ”の開発期間は極めて短く、短期間のうちにこれだけの性能を持つ機体を作り出すには、やはりそれなりの裏があったには違いない。後でわかったことだが、噂は的中していたし、暴走もそれに基づくものだったのだ。これについては後で話す。
無人の”ダークネススカイ”は、爆発で吹っ飛んだ前部甲板から、艦上へ起き上がった。その全高はACの2倍を超え、圧倒的な威圧感を放っていた。特攻してくる”奴ら”は、なぜか”ダークネススカイ”には攻撃を加えようとしなかった。一瞬ひるんだAC”ジャンネッタ”だったが、果敢にも”ダークネススカイ”にグレネードキャノンによる砲撃を加えた。”ダークネススカイ”の動きは緩慢で、その砲撃をまともに受け、大きく後ずさった。だが、倒れない。”ダークネススカイ”は被弾しつつも前進し、AC”ジャンネッタ”に強烈な右ストレートを見舞った。AC”ジャンネッタ”は紙くずのように吹っ飛ばされ、大きく弧を描いて、俺のいる後部甲板に叩きつけられた。俺はAC”ジャンネッタ”を後ろに、”ダークネススカイ”に銃口を向けた。そうしている間にも、無数の”奴ら”は俺たちに襲いかかってくる。”ダークネススカイ”は艦前部に向かって狂ったように砲撃をはじめ、艦前部はあっけなく壊滅していった。ジャック率いるMT部隊もなすすべなく全滅し、AC”ドゥルカマーラ”も、”ダークネススカイ”の熾烈な弾幕と、驟雨のごとく降り注ぐ”奴ら”の前には、防戦一方だった。
空気は一転した。もはや全てが絶望的だった。
艦前部を中心に火災が発生し、続けて爆発が起こった。弾薬庫に延焼したらしい。爆発が一つ起こるごとに艦は大きく揺れ、防御はますます手薄になった。弾幕は途切れ途切れとなり、”奴ら”は次々に艦に命中した。
そして、遂に最期の時が来た。後部甲板の深部が貫かれ、エンジンが大爆発を起こした。激震が起こり、艦載物がばらばらと海に落ちた。俺はかろうじて機体を立て直したが、艦は大きく傾き、沈没は目前のように思われた。そして…
”総員、退艦!”
スピーカーから、ノルバスクの搾り出すような声が聞こえた。
AC”ジャンネッタ”は、はっとしたように、その攻撃の手を止めた。AC”ドゥルカマーラ”はぎくりと立ち止まった。
”ノルバスク閣下!?”
ジャックの悲痛な声が聞こえた。
”総員、退艦だ。これは、命令だ。”
”…閣下!”
ジャックのAC”ドゥルカマーラ”は甲板を蹴り、わずかな生き残りの兵と共に、艦を離れた。ノルバスクに忠誠を誓ったジャックには、身を切られるような選択だっただろう。
AC”ジャンネッタ”は艦橋下部にすがりついた。ノルバスクが艦と共に沈む覚悟なのを、悟ったに違いない。
”嫌です!私は、最期まで、閣下のおそばに!”
”リンダ、私の命令を聞けんのか。”
”ノルバスク閣下のために、今まで戦ってきたのです!私は、閣下のために戦う為に、今まで生きてきたのです!閣下を置いて、どうしてこれ以上生きていけましょう!?”
”…リンダ。お前は、戦う為に生まれてきたのではないし、戦う為だけに生きているわけではない。
人間は、もっともっと、たくさんのことが出来る生き物だ。…戦って死ぬだけが、能ではないぞ。”
”閣下!”
”行け!リンダ!
…チューマー君、リンダを頼む。”
”閣下ァーッ!!”
リンダの、狂わんばかりの絶叫。俺は、AC”ジャンネッタ”を艦橋から引き剥がし、甲板から跳躍した。
直後、”ジュピター”は爆発した。
”ジュピター”の巨体は二つに折れ、耳を劈く爆発音と共に、ゆっくりと海面へ没していった。艦上の”ダークネススカイ”は、艦と運命を共にした。
永らくクレストの制海権を支えてきた第二大隊は、ここに消滅した。
生き残ったのは、俺とジャックとリンダ、そして数人の兵だけだった…。」
信じられないことだが、格納されていた無人の”ダークネススカイ”が、突如暴走を始めたのだ。
クレストの新兵器たる”ダークネススカイ”にはブラックボックスが多く、『極秘裏に発掘された旧世代の兵器の技術が流用された』という噂が絶えない。”ダークネススカイ”の開発期間は極めて短く、短期間のうちにこれだけの性能を持つ機体を作り出すには、やはりそれなりの裏があったには違いない。後でわかったことだが、噂は的中していたし、暴走もそれに基づくものだったのだ。これについては後で話す。
無人の”ダークネススカイ”は、爆発で吹っ飛んだ前部甲板から、艦上へ起き上がった。その全高はACの2倍を超え、圧倒的な威圧感を放っていた。特攻してくる”奴ら”は、なぜか”ダークネススカイ”には攻撃を加えようとしなかった。一瞬ひるんだAC”ジャンネッタ”だったが、果敢にも”ダークネススカイ”にグレネードキャノンによる砲撃を加えた。”ダークネススカイ”の動きは緩慢で、その砲撃をまともに受け、大きく後ずさった。だが、倒れない。”ダークネススカイ”は被弾しつつも前進し、AC”ジャンネッタ”に強烈な右ストレートを見舞った。AC”ジャンネッタ”は紙くずのように吹っ飛ばされ、大きく弧を描いて、俺のいる後部甲板に叩きつけられた。俺はAC”ジャンネッタ”を後ろに、”ダークネススカイ”に銃口を向けた。そうしている間にも、無数の”奴ら”は俺たちに襲いかかってくる。”ダークネススカイ”は艦前部に向かって狂ったように砲撃をはじめ、艦前部はあっけなく壊滅していった。ジャック率いるMT部隊もなすすべなく全滅し、AC”ドゥルカマーラ”も、”ダークネススカイ”の熾烈な弾幕と、驟雨のごとく降り注ぐ”奴ら”の前には、防戦一方だった。
空気は一転した。もはや全てが絶望的だった。
艦前部を中心に火災が発生し、続けて爆発が起こった。弾薬庫に延焼したらしい。爆発が一つ起こるごとに艦は大きく揺れ、防御はますます手薄になった。弾幕は途切れ途切れとなり、”奴ら”は次々に艦に命中した。
そして、遂に最期の時が来た。後部甲板の深部が貫かれ、エンジンが大爆発を起こした。激震が起こり、艦載物がばらばらと海に落ちた。俺はかろうじて機体を立て直したが、艦は大きく傾き、沈没は目前のように思われた。そして…
”総員、退艦!”
スピーカーから、ノルバスクの搾り出すような声が聞こえた。
AC”ジャンネッタ”は、はっとしたように、その攻撃の手を止めた。AC”ドゥルカマーラ”はぎくりと立ち止まった。
”ノルバスク閣下!?”
ジャックの悲痛な声が聞こえた。
”総員、退艦だ。これは、命令だ。”
”…閣下!”
ジャックのAC”ドゥルカマーラ”は甲板を蹴り、わずかな生き残りの兵と共に、艦を離れた。ノルバスクに忠誠を誓ったジャックには、身を切られるような選択だっただろう。
AC”ジャンネッタ”は艦橋下部にすがりついた。ノルバスクが艦と共に沈む覚悟なのを、悟ったに違いない。
”嫌です!私は、最期まで、閣下のおそばに!”
”リンダ、私の命令を聞けんのか。”
”ノルバスク閣下のために、今まで戦ってきたのです!私は、閣下のために戦う為に、今まで生きてきたのです!閣下を置いて、どうしてこれ以上生きていけましょう!?”
”…リンダ。お前は、戦う為に生まれてきたのではないし、戦う為だけに生きているわけではない。
人間は、もっともっと、たくさんのことが出来る生き物だ。…戦って死ぬだけが、能ではないぞ。”
”閣下!”
”行け!リンダ!
…チューマー君、リンダを頼む。”
”閣下ァーッ!!”
リンダの、狂わんばかりの絶叫。俺は、AC”ジャンネッタ”を艦橋から引き剥がし、甲板から跳躍した。
直後、”ジュピター”は爆発した。
”ジュピター”の巨体は二つに折れ、耳を劈く爆発音と共に、ゆっくりと海面へ没していった。艦上の”ダークネススカイ”は、艦と運命を共にした。
永らくクレストの制海権を支えてきた第二大隊は、ここに消滅した。
生き残ったのは、俺とジャックとリンダ、そして数人の兵だけだった…。」
10/02/28 08:29更新 / YY