前夜
星の綺麗な夜でした。
街頭の点々とともる住宅街を走る、一台のバンがありました。
その天井にはフォーラの自転車が備え付けてあります。
運転席にいるのはクレアです。その後にはデュオとフォーラが行儀よく座っていました。
「ねえ、楽しかったね。誕生会。次は誰の誕生日だっけ?」
上機嫌のクレアは、鼻歌交じりです。
「えーと、次はマーゲン隊長じゃないですか?確か12月1日ですよ。」
物覚えのいい後部座席のデュオは即答します。
「そっかぁ〜。じゃ、誰がパーティー料理作るのよ。そうだ、今度はフォーラちゃん、あ
たしと作ろっか。」
「えっ・・・あ、はい!よろこんで。」
クレアの提案にフォーラもご機嫌です。
3人は今、クレアのガレージに向かっているところです。
入隊して間もないデュオとフォーラは自分のガレージを持たないので、クレアのガレージ
にMTを置かせてもらっているのです。
「マーゲン隊長といえば、子煩悩ですよね。明後日はお子さんの学芸会に行かれるんです
って。」
「へぇ〜。お子さんかー。クレアさんは結婚の予定とかないんですか?彼氏とはうまくや
ってます?」
「うっ・・・。デュオ、余計なこと聞かないの。」
「あははは。」
車は滑るように、郊外の小さなガレージに入っていきました。
クレアのガレージは個人用としてはとても広く、設備も整っているため、隊員たちもよく
利用しています。
3人は車を降り、MTの置いてある整備場に入りました。
そこには2機の遠距離支援用MT「ランスポーター」と、1機の接近戦用MT「ギボン」があり
ました。
2機のランスポーターはそれぞれデュオとフォーラの、ギボンはクレアの愛機です。
「よーし。一応、レックがチェックしてくれてるけど、自分のMTは最後は自分でみとくん
だよ。」
「はい!」
クレアの指示に、デュオとフォーラはそれぞれのランスポーターへ向かいました。
作戦は明日。警備が任務とはいえ、いざという時は引き金を引くこともありえます。
駆動系はもちろん、武器の発射系統の整備も欠かせません。
「あらら・・・。左ペダルが重いですね・・。オイルを足しときましょう・・。デュオ、
オイル瓶貸して〜?」
フォーラはデュオを呼びましたが、返事がありません。
見れば、デュオはコクピットで居眠りをしています。すやすやと、まるで子供の寝顔で
す。
「デュオ・・・。もう・・。」
「あはは。疲れたのね。デュオは昨日からあなたの誕生会のセッティングをしてたの
よ。」
クレアがいつの間にかそこにいました。
「えっ・・・?」
「フォーラちゃんの誕生会やろって、言い出したのはデュオよ。ねえ、フォーラちゃん、
デュオのこと、どう思ってるの?」
「どうって・・・。」
フォーラもデュオが自分に好意を寄せているのに気づかなかったわけではありません。
ただ、きっかけがなかったのです。彼の気持ちを受け入れるきっかけが。
「あー、もう・・・若いわね〜。いいわね〜。あたしなんかもうマンネリよ・・・。さ、
続き続き。フォーラちゃん、はい、オイル。」
「あ・・・ありがとうございます。」
フォーラも作業に戻ります。
しばしの沈黙。
「クレアさん・・。クレアさん、レイヴンを目指しているんですか?」
フォーラの問いかけに、クレアは振り向き、にっこりと笑いました。
「そうよ。でも、もしACに乗ることになっても、5−FUは続けるわ。」
ACに乗ることは、多くのMTパイロットの憧れです。危険な任務は増えるものの、生活はぐ
っと安定します。
ただ、それにはACを買う資金と、ACテストに合格する力量が必要でした。
「嬉しいです。・・・レイヴンって、自分のマークを持ってるんですよね。クレアさんは
なにか考えているんですか?」
「エンブレムのこと?もう・・・フォーラちゃん、気が早いわね。そうね。・・・どうし
ようかしら。フォーラちゃん、考えてよ。」
「えっ・・・?」
思いがけない展開にフォーラは目を白黒。
「あんたの好きなもの描いてもらおうかしら。描いてよ。いいから、あたしのギボンの肩
にさ。」
「クレアさんも気が早いですね。うふふ。わかりました。私の好きなものでいいんです
ね?」
「そう。あなたの絵ならなんでもよさそうな気がするわ。よろしくね。はい、ペンキ。」
ほんとにいいのかな、と思いながら、フォーラはペンキを片手にクレアのギボンの肩に腰
掛けました。
既に整備の終わったクレアはガレージの椅子で小説を読んでいます。
30分後、クレアのギボンの左肩には、かわいい子猫の絵がありました。
「へぇ〜。かわいい。ありがとう、フォーラちゃん。大事にするね。」
クレアはフォーラの描いた絵が気に入ったようです。
「ありがとうございます。でも、やっぱりこんなのダメですよ。もしレイヴンになった
ら、もっとちゃんとした人に描いてもらってくださいね。」
「そうね。じゃ、次、ACが手に入ったら、またフォーラちゃんに描いてもらうわ。いいわ
ね?」
「そんな、クレアさん・・・。」
「あははは。」
こうして夜は更けていきました。明日は仕事。月の綺麗な夜でした。
街頭の点々とともる住宅街を走る、一台のバンがありました。
その天井にはフォーラの自転車が備え付けてあります。
運転席にいるのはクレアです。その後にはデュオとフォーラが行儀よく座っていました。
「ねえ、楽しかったね。誕生会。次は誰の誕生日だっけ?」
上機嫌のクレアは、鼻歌交じりです。
「えーと、次はマーゲン隊長じゃないですか?確か12月1日ですよ。」
物覚えのいい後部座席のデュオは即答します。
「そっかぁ〜。じゃ、誰がパーティー料理作るのよ。そうだ、今度はフォーラちゃん、あ
たしと作ろっか。」
「えっ・・・あ、はい!よろこんで。」
クレアの提案にフォーラもご機嫌です。
3人は今、クレアのガレージに向かっているところです。
入隊して間もないデュオとフォーラは自分のガレージを持たないので、クレアのガレージ
にMTを置かせてもらっているのです。
「マーゲン隊長といえば、子煩悩ですよね。明後日はお子さんの学芸会に行かれるんです
って。」
「へぇ〜。お子さんかー。クレアさんは結婚の予定とかないんですか?彼氏とはうまくや
ってます?」
「うっ・・・。デュオ、余計なこと聞かないの。」
「あははは。」
車は滑るように、郊外の小さなガレージに入っていきました。
クレアのガレージは個人用としてはとても広く、設備も整っているため、隊員たちもよく
利用しています。
3人は車を降り、MTの置いてある整備場に入りました。
そこには2機の遠距離支援用MT「ランスポーター」と、1機の接近戦用MT「ギボン」があり
ました。
2機のランスポーターはそれぞれデュオとフォーラの、ギボンはクレアの愛機です。
「よーし。一応、レックがチェックしてくれてるけど、自分のMTは最後は自分でみとくん
だよ。」
「はい!」
クレアの指示に、デュオとフォーラはそれぞれのランスポーターへ向かいました。
作戦は明日。警備が任務とはいえ、いざという時は引き金を引くこともありえます。
駆動系はもちろん、武器の発射系統の整備も欠かせません。
「あらら・・・。左ペダルが重いですね・・。オイルを足しときましょう・・。デュオ、
オイル瓶貸して〜?」
フォーラはデュオを呼びましたが、返事がありません。
見れば、デュオはコクピットで居眠りをしています。すやすやと、まるで子供の寝顔で
す。
「デュオ・・・。もう・・。」
「あはは。疲れたのね。デュオは昨日からあなたの誕生会のセッティングをしてたの
よ。」
クレアがいつの間にかそこにいました。
「えっ・・・?」
「フォーラちゃんの誕生会やろって、言い出したのはデュオよ。ねえ、フォーラちゃん、
デュオのこと、どう思ってるの?」
「どうって・・・。」
フォーラもデュオが自分に好意を寄せているのに気づかなかったわけではありません。
ただ、きっかけがなかったのです。彼の気持ちを受け入れるきっかけが。
「あー、もう・・・若いわね〜。いいわね〜。あたしなんかもうマンネリよ・・・。さ、
続き続き。フォーラちゃん、はい、オイル。」
「あ・・・ありがとうございます。」
フォーラも作業に戻ります。
しばしの沈黙。
「クレアさん・・。クレアさん、レイヴンを目指しているんですか?」
フォーラの問いかけに、クレアは振り向き、にっこりと笑いました。
「そうよ。でも、もしACに乗ることになっても、5−FUは続けるわ。」
ACに乗ることは、多くのMTパイロットの憧れです。危険な任務は増えるものの、生活はぐ
っと安定します。
ただ、それにはACを買う資金と、ACテストに合格する力量が必要でした。
「嬉しいです。・・・レイヴンって、自分のマークを持ってるんですよね。クレアさんは
なにか考えているんですか?」
「エンブレムのこと?もう・・・フォーラちゃん、気が早いわね。そうね。・・・どうし
ようかしら。フォーラちゃん、考えてよ。」
「えっ・・・?」
思いがけない展開にフォーラは目を白黒。
「あんたの好きなもの描いてもらおうかしら。描いてよ。いいから、あたしのギボンの肩
にさ。」
「クレアさんも気が早いですね。うふふ。わかりました。私の好きなものでいいんです
ね?」
「そう。あなたの絵ならなんでもよさそうな気がするわ。よろしくね。はい、ペンキ。」
ほんとにいいのかな、と思いながら、フォーラはペンキを片手にクレアのギボンの肩に腰
掛けました。
既に整備の終わったクレアはガレージの椅子で小説を読んでいます。
30分後、クレアのギボンの左肩には、かわいい子猫の絵がありました。
「へぇ〜。かわいい。ありがとう、フォーラちゃん。大事にするね。」
クレアはフォーラの描いた絵が気に入ったようです。
「ありがとうございます。でも、やっぱりこんなのダメですよ。もしレイヴンになった
ら、もっとちゃんとした人に描いてもらってくださいね。」
「そうね。じゃ、次、ACが手に入ったら、またフォーラちゃんに描いてもらうわ。いいわ
ね?」
「そんな、クレアさん・・・。」
「あははは。」
こうして夜は更けていきました。明日は仕事。月の綺麗な夜でした。
10/02/25 12:54更新 / YY