連載小説
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闇夜
夜も更けた頃、ひゅう、と冷たい風が吹いて、コロンさんは目を覚ましました。
寝室のドアが開いています。
隣のベットで寝ているはずのフォーラさんがいません。
コロンさんは弾かれたように飛び起きました。

「フォーラちゃん?フォーラちゃん!?」

暗い室内は、しんと静まり返り、答えるものはいません。
コロンさんは、ダダダッと廊下に飛び出しました。
ガレージが開いています。留めてあったはずの予備の”アディーナ”がありません。

「フォーラちゃん…!どこに行ったのかしら。まさか…また、チューマーを探しに!?」

パイロットスーツに着替えたコロンさんは、サイドカーで飛び出しました。
夜の街を疾走し、並木道を走りぬけ、いつかの喫茶店の前に止まりました。
フォーラさんがチューマーを探しに出たのなら、この喫茶店に来ているに違いないからです。
コロンさんは、そっと喫茶店の中に入りました。
夜更けの喫茶店は客も少なくなっており、人を探すのはそう難しいことではありませんでした。
店の一番奥。そこにあの男はいました。

チューマー=マリグナント。

ノデュールによる人相書きを見ていたコロンさんには、すぐにそれがチューマーだとわかりました。
しかし、フォーラさんの姿は見えません。

「…あいつがチューマーね。でも、フォーラちゃんはいないわ。でも、待っていたら来るかも。少し様子をみてみよう…。」

コロンさんは、チューマーから少し離れたカウンターに座り、様子をうかがいます。
ふと、チューマーが立ち上がりました。コロンさんの後ろを通り過ぎ、店を出て行きます。
コロンさんは、こっそりその後をつけました。

夜更けの道を、チューマーは振り返ることなく、どんどん歩いていきます。コロンさんがつけていることなど、全く気付く気配がありません。
民家もまばらになり、街灯も減り、道はだんだん寂しくなります。

「一体、どこへ行くのかしら…。」

チューマーが向かう先に、小さな明かりが見えてきました。
教会です。
チューマーは、小高い丘の上にある、その小さな教会に入っていきました。
コロンさんは、教会の小窓からそっと覗いてみます。

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ウェルファーマシティー、闘技場。
強力な防音壁のために、闘技場の外は静まり返っていますが、中では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていました。

AC”ジャンネッタ”が、AC”アディーナ2号機”を攻撃しています。
あまりに一方的です。
”ジャンネッタ”のばら撒く驟雨のようなマシンガン弾に追われ、”アディーナ2号機”は必死で逃げ回っています。

『な、なんでこんなことするんですか!?やめて、やめてください!』

『なにを言ってるの?私が、”ACで来い”と言った意味がわかっていらっしゃらなかったのかしら?死にたくなければ、踊るがいいわ。ヲホホホホホ!』

マシンガン弾が、幾度も”アディーナ2号機”を掠めます。コクピットのフォーラさんは、死に物狂いで機体を操ります。

あっ、”アディーナ2号機”が転びました。
”ジャンネッタ”はもう、すぐそこに迫っています。
危ない…!

全てを覚悟して、フォーラさんは目をつぶりました。
しかし、何も起こりません。
”ジャンネッタ”はマシンガンを”アディーナ2号機”に向けたまま、止まっています。

『お立ちなさい。なかなか動きがマシになってきましたわ。続けますわよ。』

アルピニー准尉の、凛とした声が響きます。
その時になって、フォーラさんは全てを理解しました。
アルピニー准尉は、フォーラさんに稽古をつけていたのです。
あれだけの攻撃を受けながら、”アディーナ2号機”には掠り傷の一つもついていませんでした。アルピニー准尉は、全ての狙いを紙一重で外していたのです。

『わかりました、准尉。続きをお願い致します。』

”アディーナ2号機”はスックと立ち上がりました。
そのカメラアイが、金色に輝きます。

『よく言いましたわね。さぁ、逃げるばかりでは、チューマーどころか、誰にも勝てませんわ!今度は、私を倒すつもりいらっしゃい!』

『はい、准尉!』

”アディーナ2号機”は、覚えたばかりの”オーバード・ブースト”で急加速し、”ジャンネッタ”に向かっていきました。

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町外れの丘にある、小さな教会。
簡素な祭壇があり、チューマーはその前にうずくまっていました。
コロンさんが、小窓から中の様子を覗いています。
チューマーは、コロンさんが覗いていることなど、全く気付いていないようです。
ふと、コロンさんの耳に、チューマーの呻くような声が聞こえてきました。

「…ロメア…。
俺は、今日も人を殺してしまった…。
止まらない…止められない…。後生だ。誰か俺を、止めてくれ…!
あの時から、全てが狂ってしまったのだ…。俺は、もう人間には戻れない。誰か、助けてくれ…!」

コロンさんは、息を殺してそれを見守ります。
その時、ぱたんとドアが閉まる音がして、誰かが入ってきました。
どこかで見たことがあります。
…あの男は、そうです。テロリストのノデュール=べナインです。

「チューマー。お前、またここに来ていたのか。」

「…ノデュールか。ふん。貴様こそ、なんの用だ。」

意外な人物の登場に、コロンさんは声を抑えるのに必死でした。

「ハッ。チューマー。お前に面白い話を持ってきたのさ。お前、狙われているぜ。」

「…俺を狙うやつなど、いくらでもいる。この前も、緋色の目をした女に銃を向けられた…。」

「おや、そうかい。俺が言いたかったのは、その女のことさ。諸事情あって、お前の居所を教えたのは、この俺だがな。
チューマー。お前、恨まれてるぜ。いつまでこんなことを続ける気だ。」

「…誰かが俺を殺す時までだ。俺はそれを待っている。」

「…そうか。あの時、あんなことが起こらなければな。
お前の愛していたロメアがACに殺されて、お前は復讐鬼になった。
MT乗りだったお前は、レイヴンになり、強化手術まで受けて、遂に仇を討った。だが…。」

「…俺には何も残らなかった。そうさ。いつの間にか、俺は人を殺すことしか考えられない男になっていたのさ…。
笑ってくれよ、ノデュール。復讐なんかのために、人間であることすら捨てた、哀れな男の末路を。
さらに、俺は貴様の仲間にまで手をかけた。」

「恨んじゃいないさ…。
チューマー、ここでさようならだ。俺はテロリストとして指名手配されている。
…最後に忠告だ。お前が依頼を受けたという噂の、クレストの新型兵器のテスト。あれは危険だ。気をつけろ。」

「…ふん。忠告ありがとう。せいぜい生き延びろ、ノデュール。」

ぱたん、と音がして、ノデュールは出て行きました。
それを見届けて、コロンさんはそっと教会を後にしました。
東の空が白んでいます。
10/02/25 18:56更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50