悲しみの果て
また、私の工房に戻ってみましょう。
おや? 応接室にも、ロビーにも、救急室にも、誰もいません。
ああ、ガレージの方から声がします。
行って見てみましょう。
夕方になり、ちょっと薄暗くなってきたガレージですが、ここには色々な乗り物が留めてあります。
コロンさんの青いAC、”アディーナ”。
フォーラさんの少し壊れたMT、”ジェムザール”。
コロンさん自慢のサイドカー。
免許を取ったばかりのフォーラさんのスクーター。
私の救急ヘリコプター、”ひばり”。
そして、隅っこにはもう一機ACが留めてあります。
このACは、”アディーナ”の予備のパーツを組み合わせたもので、色違いですが、”アディーナ”とよく似た形をしています。あくまで予備ですので、普段使われることはありません。
乗り物の他にも、工具が床に落ちていたり、塗装のための機械が壁から下がっていたりしています。
これらのものを夕日が包んで、真っ赤に染めています。
奥から声がします。
「コロン先輩、行かせて下さい!」
「だめ。そんな敵討ちなんか、あたしは認めないから。」
スクーターの横で、コロンさんとフォーラさんがもめているようです。
フォーラさんの手には、冷たく光る拳銃が握られています。
「先輩には、私の気持ちなんかわからないんです!
大切な人を、まるで虫けらみたいに殺された、私の気持ちなんか!」
「あら、あたしだってわかってるつもりよ。
フォーラちゃんにはあまり言ってないけど、あたしだって、いろいろあったんだから。」
普段仲良しの二人が、まるで敵同士のように睨み合っています。
「だったら、わかってください!
私、あいつを殺してやるって、死んでいった皆に誓ったんです。
今から…今から行って、殺してやるんです!あいつを!」
「それとこれとは話が別よ。
いい?殺されたからって殺し返してたら、きりがないのよ。それが大きくなって、今の物騒な世の中ができてるの。わからない?」
「だったら…だったら、先輩は、やられっぱなしでいろって言うんですか!?そんなの、あんまりです!」
フォーラさんの手は、細かく震えています。
その緋色の瞳には、うっすらと涙さえにじんでいます。
コロンさんは、少し黙ったあと、ゆっくりとこう言いました。
「耐えるのよ、フォーラちゃん。
そして、この物騒な世の中が、一時も早く終わるように努力するの。
もう二度と、そんな悲しいことが起こらないように。
それが、生き残ったものの努め。
フォーラちゃんの仲間たちも、敵討ちなんか望んでいないわ。
望んでいるのは、きっと、平和な世の中と、フォーラちゃんの幸せよ。」
「…!」
フォーラさんは、唇をかんだまま。
「いい?さあ、その拳銃を置いて、お部屋に戻りましょう。」
「…先輩、ごめんなさい!」
「え!?」
フォーラさんが、何かを握り締めました。
あっ、塗料のスイッチです。
ACを塗装するためのスプレーが自動で動き出し、真っ赤な塗料をコロンさんに”シューッ”と吹きかけました。
「きゃっー!?」
その隙に、フォーラさんはスクーターに飛び乗ります。
「ちょっと、待ちなさい!?」
「先輩、これまでありがとうございました。私、私…。もう帰って来れないかも…!」
フォーラさんを乗せたスクーターは、勢いよく走り出しました。
「フォーラちゃん!!」
コロンさんの絶叫も虚しく、フォーラさんのスクーターは、夕闇の町に消えていきました。
「フォーラちゃん!…追わなきゃ。えっと、サイドカーの鍵、鍵!」
塗料で真っ赤になったコロンさんは、慌ててサイドカーの鍵を探しますが、見つかりません。
「あっ、倉庫の裏!あんなところに捨ててある。フォーラちゃん、やったわねー!」
コロンさんは鍵を取るための道具を探しに駆けていきました。
これではとても追いつくことはできないでしょう。
では、私たちは一足早く、フォーラさんの目的の場所、すなわち、チューマーがいるという喫茶店へ行ってみましょう。
おや? 応接室にも、ロビーにも、救急室にも、誰もいません。
ああ、ガレージの方から声がします。
行って見てみましょう。
夕方になり、ちょっと薄暗くなってきたガレージですが、ここには色々な乗り物が留めてあります。
コロンさんの青いAC、”アディーナ”。
フォーラさんの少し壊れたMT、”ジェムザール”。
コロンさん自慢のサイドカー。
免許を取ったばかりのフォーラさんのスクーター。
私の救急ヘリコプター、”ひばり”。
そして、隅っこにはもう一機ACが留めてあります。
このACは、”アディーナ”の予備のパーツを組み合わせたもので、色違いですが、”アディーナ”とよく似た形をしています。あくまで予備ですので、普段使われることはありません。
乗り物の他にも、工具が床に落ちていたり、塗装のための機械が壁から下がっていたりしています。
これらのものを夕日が包んで、真っ赤に染めています。
奥から声がします。
「コロン先輩、行かせて下さい!」
「だめ。そんな敵討ちなんか、あたしは認めないから。」
スクーターの横で、コロンさんとフォーラさんがもめているようです。
フォーラさんの手には、冷たく光る拳銃が握られています。
「先輩には、私の気持ちなんかわからないんです!
大切な人を、まるで虫けらみたいに殺された、私の気持ちなんか!」
「あら、あたしだってわかってるつもりよ。
フォーラちゃんにはあまり言ってないけど、あたしだって、いろいろあったんだから。」
普段仲良しの二人が、まるで敵同士のように睨み合っています。
「だったら、わかってください!
私、あいつを殺してやるって、死んでいった皆に誓ったんです。
今から…今から行って、殺してやるんです!あいつを!」
「それとこれとは話が別よ。
いい?殺されたからって殺し返してたら、きりがないのよ。それが大きくなって、今の物騒な世の中ができてるの。わからない?」
「だったら…だったら、先輩は、やられっぱなしでいろって言うんですか!?そんなの、あんまりです!」
フォーラさんの手は、細かく震えています。
その緋色の瞳には、うっすらと涙さえにじんでいます。
コロンさんは、少し黙ったあと、ゆっくりとこう言いました。
「耐えるのよ、フォーラちゃん。
そして、この物騒な世の中が、一時も早く終わるように努力するの。
もう二度と、そんな悲しいことが起こらないように。
それが、生き残ったものの努め。
フォーラちゃんの仲間たちも、敵討ちなんか望んでいないわ。
望んでいるのは、きっと、平和な世の中と、フォーラちゃんの幸せよ。」
「…!」
フォーラさんは、唇をかんだまま。
「いい?さあ、その拳銃を置いて、お部屋に戻りましょう。」
「…先輩、ごめんなさい!」
「え!?」
フォーラさんが、何かを握り締めました。
あっ、塗料のスイッチです。
ACを塗装するためのスプレーが自動で動き出し、真っ赤な塗料をコロンさんに”シューッ”と吹きかけました。
「きゃっー!?」
その隙に、フォーラさんはスクーターに飛び乗ります。
「ちょっと、待ちなさい!?」
「先輩、これまでありがとうございました。私、私…。もう帰って来れないかも…!」
フォーラさんを乗せたスクーターは、勢いよく走り出しました。
「フォーラちゃん!!」
コロンさんの絶叫も虚しく、フォーラさんのスクーターは、夕闇の町に消えていきました。
「フォーラちゃん!…追わなきゃ。えっと、サイドカーの鍵、鍵!」
塗料で真っ赤になったコロンさんは、慌ててサイドカーの鍵を探しますが、見つかりません。
「あっ、倉庫の裏!あんなところに捨ててある。フォーラちゃん、やったわねー!」
コロンさんは鍵を取るための道具を探しに駆けていきました。
これではとても追いつくことはできないでしょう。
では、私たちは一足早く、フォーラさんの目的の場所、すなわち、チューマーがいるという喫茶店へ行ってみましょう。
10/02/25 18:51更新 / YY