連載小説
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後篇
プレゼントをサンの枕もとに置いた後にベランダのこじんまりとしたテーブルで2人は向かい合っていた。
そしてお互いにグラスを持ってささやかな宴の様な物を始めて居た。
「へー、アンタにそんなことがあったなんてな。」
ちょうど、何をしていたのかと聞かれたのでルナの事について話しただけだ。
杏子の同情の言葉は淡泊でやはり汚い世の中を生きてきた様な雰囲気を感じる。
まあ、下手に同情されるよりもずっと良い。
「まあ、人には色々あるものさ。お前だってそうだろ?」
俺は分かりきった様な感じで杏子に対して言葉を言った。
そして軽くワインに口をつけて杏子の返答を待った。
「そうだな。アタシも大切な人と別れちまったんだ。」
杏子は静かに自分の身の上を話そうと言葉を繰り出した。
その口調は何だか寂しそうな感じで何時もの杏子の感じではない。
「家族か?姉弟か?」
俺は静かに杏子に対して言葉を言った。
杏子にも大切な人がいるとは、想像もつかないな・・・。
「家族は子供のころに亡くなっちまった。何も覚えてないさ。」
杏子は静かに言葉を言って特に詳しい事は喋らなかった。
「じゃあ、誰なんだ?」
「アタシの師匠と言えば良いのかな。とりあえず、今のアタシが居るのはあの人のおかげさ。」
俺は肩をすくめて杏子に対して問いただした。
すると杏子は昔の事を思い出す様に遠くを見ながら言葉を言った。
「杏子も1人で生きてきたわけじゃないんだな。」
俺は感想を述べるように言葉を言いながらまたワインを嗜む。
1人っきりで生きてきたかのような言動しか聞いたことが無かったので、意外だった。
「アタシの師匠は、サンと同じ様な性格だったよ。正直過ぎて、優し過ぎる人だった。」
フフッと純真な笑みを浮かべながら杏子は言葉を言った。
師匠と今も呼んでいることを聞けば、まだ尊敬の念は抱いているのかもしれない。
杏子の事だから、師匠も弱肉強食の考えをしていると思っていたが・・・
「・・・死んだのか?」
俺は杏子の言葉を聞いていて思った事を先に言葉に出した。
少し言い方が悪かった気がするが、余りオブラートに包めないのが俺の性格なんでね。
「どうだろうね。喧嘩別れしてそれっきりさ。」
杏子はハハッと過去の事を吐き捨てるように一笑した。
過去に後悔など微塵もなさそうな様子である。
いや、後悔をしない様にしていると言った方がいいのだろうか・・・?
「何で喧嘩なんか?」
俺は話を続けるために言葉を言った。
「師匠のやり方についていけなくなったのさ。」
杏子は素っ気なく言葉を返した。
「師匠はいつも他人の為に戦っていた。でもそれで世の中が生きていけるわけじゃない。」
杏子は言葉を続ける。
確かにこの荒廃した世界では、何の役にも立たない信念だ。
自分が生き残ることこそ、一番に考えること・・・。
それがこの世界での常識。
例え何を犠牲にしようともだ・・・。
「あの時は本当に食う物にも事欠く有様だった。」
過去の事を思い出し杏子は笑いながら語る。
俺は静かに聞く事しか出来なかった。
「昔は従順に師匠の言うことを聞いて憧れてたもんさ。そしてハッピーエンドを信じてた。」
杏子は過去を思い出しながらさらに言葉を続ける。
「でも、いつからだろうね。アタシは自分の為に戦うようになっていた。」
「・・・間違っては、いないさ。」
杏子は半分自嘲しながら過去の事を振り返った。
俺はそんな杏子に対してちょっとした慰めの言葉をかけるしかなかった。
今まで杏子の事を最悪の利己主義者だと思っていたが、反動でこうなってしまったことを加味すれば自分の評価が不当なのは明らかだった。
抑圧していた物が解き放たれる時という物は加減が分からないだろう?
「師匠はそんなアタシを止めようとした。でも私は尊敬してた師匠を退けた。それから今のアタシに至るわけさ。」
「・・・。」
俺の言葉には何も答えずに杏子は自分の過去を語り終えるのであった。
そんなことがあったなんてな・・・。
俺は杏子と同じ様な言葉を口に出そうとしたが、出せなかった。
この世界を呪う。人との別れをこうも単純に引き起こしてしまう世界に・・・。
「サンは、アタシが憧れてた物を思い出させてくれた。他人の為に、正義の為に戦うって事をね。」
杏子は何も反応を示さない俺に構わずに言葉を続けた。
「アタシはサンに証明してほしいんだ。かつてアタシが目指した物が正しかったって事を・・・。」
ハハッと杏子は微笑みながら視線を部屋で寝ているサンの方に向けてジッと確認した。
そうか、隊に入ったのはそういう理由があったのか・・・。
杏子・・・俺はお前を誤解をしていたようだ。
「サンがそんなに気に入ったのか?」
俺はフッと軽く笑いながら静かに言葉を言った。
確かにアイツはお人よしの甘ちゃんだが、人を引き寄せる才能はある。
それは余りに純真すぎるからだろうか。
「まあね。」
杏子はフフッと微笑みながら言葉を言ってワインを軽く飲んだ。
サン、お前は本当に幸せ者だよ。
こんなにも期待され、みんなに見守られているんだからな。
だから、これからもお人よしの甘ちゃんのままで居てくれよ・・・。
俺もサンの方に視線をやって軽くワインを飲んだ。
「・・・杏子さん。勘弁してくださいよぉ〜。」
当の本人は何も知らずにスースーと寝息を立てて夢の中に居るようだった。
そして寝言か、むにゃむにゃと眠そうな口調で言葉を言った。
サンの頭の近くには、綺麗に包装された箱が置かれていた。
12/05/30 19:10更新 / シャドウ
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■作者メッセージ
一応の完結だぜー。
後日談が見たい人は、感想で「きゅっぷい」って書いておいてくれ。

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まろやか投稿小説 Ver1.50