第三話「デューク=カリスト」
カイトは声のする方向を振り向いていた。
カイトだけではない。
三人の仲間も、そしてカイト達を包囲していた無人MT達、全ての視線がそこに向けられていた。
入り口に悠然と立つ、純白のACに……。
中量級らしい細身の姿ゆえに、右腕に持った大型の銃が際立った。
MWG−KARASAWA。
俗にカラサワと呼ばれるこの銃は、レーザーライフルとしては最も高い破壊力を有している。
しかしその見た目通りの重量は、重量級以外の機体への取り回しを難しくしており、中量級の機体が扱うのは相応の腕が必要とレイヴン達の間では言われていた。
「ランカーAC、デュアルレイです」
ブルーストライカーに搭載されたコンピュータが、ACの名称を答えた。
カイトはその名前を知っていた。
それはレイヴンの間では有名な名前だった。
デュアルレイはゆっくりと、右手のカラサワを構える。
銃口から放たれた青い閃光は、無人MTの胸部に着弾と同時に爆発した。
後に残ったのは、無人MTの下半身のみ。
ようやく敵と見なしたのか、無人MT達が一斉にデュアルレイへライフルを向けた。
だが遅い。
既にデュアルレイは、左腕を無人MT達が密集している場所に向けている。
左腕に装着されたグレネードライフル。
右手のカラサワとは対照的に小型の銃から放たれた紅蓮の火球は、着弾と同時に起きた爆発で、無人MTの群れを吹き飛ばした。
デュアルレイを一番の脅威と判断したのだろう。
無人MT達はAC四機の包囲を解くと、たった一機のACへと殺到した。
二十機を越えるライフルで武装した作業用MT。
ACとMTの性能差を覆すのには充分な数だった。
デュアルレイが部屋の入り口へと後退していく。
その後を無人MT達が追う。
デュアルレイが逃げ込んだ通路は狭く、MT達は一機ずつ通路に入っていく。
だがその後を追わないMTもいた。
部屋に残った六機の無人MT達が、AC四機を取り囲む。
ライフルを構える無人MT達に、AC四機も応戦の構えを見せる。
「あのACが作ってくれたチャンスだ! 皆行くぞ!」
カイトが力強く飛ばした激に、仲間達の了解という声が続いた……。
ACとMTとの機動力には埋め難い差があったが、先頭のMTはすぐにデュアルレイに追いついた。
いや、追いついたのではない。
デュアルレイは待ち構えていたのだ。
カラサワを持った右手を迫ってくるMTに向けて……。
青い閃光が先頭にいた無人MTを破壊した。
AIに仲間意識など存在しないのか、破壊された無人MTには目もくれず、後続の無人MTがデュアルレイへと向かっていく。
デュアルレイは左腕のグレネードライフルを発射した。
胴体に着弾と同時に起こった爆発が、無人MTを破壊する。
後ろにいた無人MT数機は、爆発に巻き込まれて動かなくなった。
その残骸を乗り越えて、無人MTがライフルを構える。
だが狭い通路の中では一機や二機が撃った弾丸など、デュアルレイの火力の前には豆鉄砲に等しい。
それこそデュアルレイの狙いだった。
デュアルレイの火力がいくら高かろうと、ライフルで武装した三十機のMTを正面から相手取るのは厳しい。
そこでデュアルレイは、まずその数の不利を消す事から始めた。
MT数機を破壊し、此方に注意を引き付ける。
そして一機が通れる程度の狭い通路へと誘いだす事で、デュアルレイは一対一の状況を作り出した。
後は向かってくる無人MTを一機ずつ破壊するだけだ。
デュアルレイは接近してくる無人MTへ向けて、カラサワの引き金を引いた。
ブルーストライカーのレーザーブレードが、無人MTのライフルを腕ごと斬り裂く。
よろめく無人MTの胴体に、カラミティファングが右腕の射突ブレードを突き刺した。
刺された無人MTは残った腕で、カラミティファングの右腕を掴もうとする。
しかし拘束を目的としたその行為は、カラミティファングに蹴り飛ばされる事で阻まれた。
倒れこんだ無人MTのカメラからは、急速に光が失われていく。
無人MT二機のライフルが、自分達に向けられているのに気づいたカイトとレインは、左右に飛び退いた。
先程までブルーストライカーとカラミティファングのいた場所を、銃弾が通り過ぎる。
着地したAC二機は、銃撃してきた無人MT達に向かうが、そこを別の無人MTが妨害しようとライフルを構えた。
それにカイトとレインは気づいていたが、構わず目の前の無人MT二機へと向かう。
無人MTがライフルの引き金を引こうとした瞬間、その頭部を横から飛来した弾丸が撃ち抜いた。
自分が撃った標的を冷たく一瞥すると、ヒスイは次の標的を探してエメラルドホークを移動させた。
向かってくるブルーストライカーとカラミティファングに対して、無人MT二機はライフルを撃ち続ける。
だがAC二機はそれに怯む事無く、無人MTの懐深く接近した。
振るわれた赤と緑の光刃は、無人MT二機の身体をほぼ同時に斬り裂く。
「これで残り二機か……」
カイトはそう呟いて、残りの無人MTを探した。
「いえ。今ので反応は全部消えましたよ」
そう言いながらエルクのブラックハウンドが近づいてくる。
言われてみると、確かにレーダーから赤い光点が全て消えていた。
デュアルレイが誘い出した分の光点も消えている事から、どうやら向こうも終わったらしい。
マリーから通信が入った。
「暴走していた無人MTは、どうやらこれで全てのようですね。皆さん、お疲れ様でした」
レインが疲れた声を出しながら、操縦席の中で身体を伸ばした。
「はぁー、疲れた……。これだけやって赤字ってのが辛いわよねぇ……」
「うっ……、そうだった……」
思い出した途端にカイトも疲れを覚え始めた。
計五十六機の無人MT破壊に使用した弾薬費、更に僅かとはいえライフルで受けた機体の修理費。
AC四機分という事も考えると、収支報告を見るのが怖い。
とはいえ依頼が終わったという気持ちから、全員の気持ちは穏やかに緩んでいた。
だからこそ、誰も気づけないでいた。
それはエルクが破壊した無人MT二機の片割れ。
背中に散弾を浴びて倒れこみ、動かなくなったはずだった。
しかし再起動してカメラに再び光を取り戻した無人MTは、倒れながらも離す事無く持っていたライフルを向ける。
銃口の先に在るのは、無防備なブルーストライカーの背中。
最初に気づいたのはマリーだった。
「カイトさん! 後ろにまだ一機います!」
だが気づくのが遅すぎた。
声を掛けるのが遅すぎた。
無人MTは既にライフルの引き金に掛けた指をゆっくりと引いて……。
しかしその銃口から、弾丸は一向に飛び出さなかった。
引き金を引くよりも先に、飛来した青い光弾が無人MTの頭部を砕いていたからだ。
その場にいた全員が青い光弾の飛んできた先を見た。
純白のAC、デュアルレイがゆっくりと歩いてくる。
「最後まで油断をするな。気の緩みは死を招く」
諭すような言い方に、カイトは素直に頷いた。
「はい。助けてくれてありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。私も依頼でここに来たんだからな」
「依頼? もしかして貴方もここのAI開発者から?」
レインが質問をぶつける。
しかし返ってきた答えは予想外のものだった。
「いや、依頼者は工場の上役達だ。そもそもあれは作業用MTではない」
「えぇっ!?」
全員が驚きの声を上げた。
「詳しい事はお前達の隊長に聞くといい。私はやり残した事があるのでこれで失礼する」
それだけ言うと、デュアルレイは奥へと歩いていく。
カイトは慌てて呼び止めようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください! 隊長が知っているって……」
だが止める間も無く、デュアルレイは去っていく。
その後ろ姿が見えなくなったところで、エルクがふうと溜め息をついた。
「やれやれ、彼が来てくれて助かりましたね……」
その言葉にカイトも同意する。
「ああ、噂通りの実力だったな……」
二人のそんな会話にヒスイが首を傾げた。
「どういう事だ? あのレイヴンについて何か知っているのか?」
「あら? ヒスイちゃん、ひょっとして知らないの?」
意外そうな口調のレインに、ヒスイがむっとした声で答える。
「レイヴンになって、まだ二ヶ月しか経っていない……」
「あらら、それじゃまだ知らなくても当然ね。彼はね……」
その後をカイトが続けた。
「アリーナトップランカーにして、無人兵器暴走事件を解決に導いた人物……。いかなる依頼も完璧にこなし、企業だけでなく、レイヴンからも絶大な信用を得ている最強のレイヴン……」
デュアルレイの去っていった通路を見つめ、カイトは言った。
「『英雄』、デューク=カリストだ……」
カイトだけではない。
三人の仲間も、そしてカイト達を包囲していた無人MT達、全ての視線がそこに向けられていた。
入り口に悠然と立つ、純白のACに……。
中量級らしい細身の姿ゆえに、右腕に持った大型の銃が際立った。
MWG−KARASAWA。
俗にカラサワと呼ばれるこの銃は、レーザーライフルとしては最も高い破壊力を有している。
しかしその見た目通りの重量は、重量級以外の機体への取り回しを難しくしており、中量級の機体が扱うのは相応の腕が必要とレイヴン達の間では言われていた。
「ランカーAC、デュアルレイです」
ブルーストライカーに搭載されたコンピュータが、ACの名称を答えた。
カイトはその名前を知っていた。
それはレイヴンの間では有名な名前だった。
デュアルレイはゆっくりと、右手のカラサワを構える。
銃口から放たれた青い閃光は、無人MTの胸部に着弾と同時に爆発した。
後に残ったのは、無人MTの下半身のみ。
ようやく敵と見なしたのか、無人MT達が一斉にデュアルレイへライフルを向けた。
だが遅い。
既にデュアルレイは、左腕を無人MT達が密集している場所に向けている。
左腕に装着されたグレネードライフル。
右手のカラサワとは対照的に小型の銃から放たれた紅蓮の火球は、着弾と同時に起きた爆発で、無人MTの群れを吹き飛ばした。
デュアルレイを一番の脅威と判断したのだろう。
無人MT達はAC四機の包囲を解くと、たった一機のACへと殺到した。
二十機を越えるライフルで武装した作業用MT。
ACとMTの性能差を覆すのには充分な数だった。
デュアルレイが部屋の入り口へと後退していく。
その後を無人MT達が追う。
デュアルレイが逃げ込んだ通路は狭く、MT達は一機ずつ通路に入っていく。
だがその後を追わないMTもいた。
部屋に残った六機の無人MT達が、AC四機を取り囲む。
ライフルを構える無人MT達に、AC四機も応戦の構えを見せる。
「あのACが作ってくれたチャンスだ! 皆行くぞ!」
カイトが力強く飛ばした激に、仲間達の了解という声が続いた……。
ACとMTとの機動力には埋め難い差があったが、先頭のMTはすぐにデュアルレイに追いついた。
いや、追いついたのではない。
デュアルレイは待ち構えていたのだ。
カラサワを持った右手を迫ってくるMTに向けて……。
青い閃光が先頭にいた無人MTを破壊した。
AIに仲間意識など存在しないのか、破壊された無人MTには目もくれず、後続の無人MTがデュアルレイへと向かっていく。
デュアルレイは左腕のグレネードライフルを発射した。
胴体に着弾と同時に起こった爆発が、無人MTを破壊する。
後ろにいた無人MT数機は、爆発に巻き込まれて動かなくなった。
その残骸を乗り越えて、無人MTがライフルを構える。
だが狭い通路の中では一機や二機が撃った弾丸など、デュアルレイの火力の前には豆鉄砲に等しい。
それこそデュアルレイの狙いだった。
デュアルレイの火力がいくら高かろうと、ライフルで武装した三十機のMTを正面から相手取るのは厳しい。
そこでデュアルレイは、まずその数の不利を消す事から始めた。
MT数機を破壊し、此方に注意を引き付ける。
そして一機が通れる程度の狭い通路へと誘いだす事で、デュアルレイは一対一の状況を作り出した。
後は向かってくる無人MTを一機ずつ破壊するだけだ。
デュアルレイは接近してくる無人MTへ向けて、カラサワの引き金を引いた。
ブルーストライカーのレーザーブレードが、無人MTのライフルを腕ごと斬り裂く。
よろめく無人MTの胴体に、カラミティファングが右腕の射突ブレードを突き刺した。
刺された無人MTは残った腕で、カラミティファングの右腕を掴もうとする。
しかし拘束を目的としたその行為は、カラミティファングに蹴り飛ばされる事で阻まれた。
倒れこんだ無人MTのカメラからは、急速に光が失われていく。
無人MT二機のライフルが、自分達に向けられているのに気づいたカイトとレインは、左右に飛び退いた。
先程までブルーストライカーとカラミティファングのいた場所を、銃弾が通り過ぎる。
着地したAC二機は、銃撃してきた無人MT達に向かうが、そこを別の無人MTが妨害しようとライフルを構えた。
それにカイトとレインは気づいていたが、構わず目の前の無人MT二機へと向かう。
無人MTがライフルの引き金を引こうとした瞬間、その頭部を横から飛来した弾丸が撃ち抜いた。
自分が撃った標的を冷たく一瞥すると、ヒスイは次の標的を探してエメラルドホークを移動させた。
向かってくるブルーストライカーとカラミティファングに対して、無人MT二機はライフルを撃ち続ける。
だがAC二機はそれに怯む事無く、無人MTの懐深く接近した。
振るわれた赤と緑の光刃は、無人MT二機の身体をほぼ同時に斬り裂く。
「これで残り二機か……」
カイトはそう呟いて、残りの無人MTを探した。
「いえ。今ので反応は全部消えましたよ」
そう言いながらエルクのブラックハウンドが近づいてくる。
言われてみると、確かにレーダーから赤い光点が全て消えていた。
デュアルレイが誘い出した分の光点も消えている事から、どうやら向こうも終わったらしい。
マリーから通信が入った。
「暴走していた無人MTは、どうやらこれで全てのようですね。皆さん、お疲れ様でした」
レインが疲れた声を出しながら、操縦席の中で身体を伸ばした。
「はぁー、疲れた……。これだけやって赤字ってのが辛いわよねぇ……」
「うっ……、そうだった……」
思い出した途端にカイトも疲れを覚え始めた。
計五十六機の無人MT破壊に使用した弾薬費、更に僅かとはいえライフルで受けた機体の修理費。
AC四機分という事も考えると、収支報告を見るのが怖い。
とはいえ依頼が終わったという気持ちから、全員の気持ちは穏やかに緩んでいた。
だからこそ、誰も気づけないでいた。
それはエルクが破壊した無人MT二機の片割れ。
背中に散弾を浴びて倒れこみ、動かなくなったはずだった。
しかし再起動してカメラに再び光を取り戻した無人MTは、倒れながらも離す事無く持っていたライフルを向ける。
銃口の先に在るのは、無防備なブルーストライカーの背中。
最初に気づいたのはマリーだった。
「カイトさん! 後ろにまだ一機います!」
だが気づくのが遅すぎた。
声を掛けるのが遅すぎた。
無人MTは既にライフルの引き金に掛けた指をゆっくりと引いて……。
しかしその銃口から、弾丸は一向に飛び出さなかった。
引き金を引くよりも先に、飛来した青い光弾が無人MTの頭部を砕いていたからだ。
その場にいた全員が青い光弾の飛んできた先を見た。
純白のAC、デュアルレイがゆっくりと歩いてくる。
「最後まで油断をするな。気の緩みは死を招く」
諭すような言い方に、カイトは素直に頷いた。
「はい。助けてくれてありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。私も依頼でここに来たんだからな」
「依頼? もしかして貴方もここのAI開発者から?」
レインが質問をぶつける。
しかし返ってきた答えは予想外のものだった。
「いや、依頼者は工場の上役達だ。そもそもあれは作業用MTではない」
「えぇっ!?」
全員が驚きの声を上げた。
「詳しい事はお前達の隊長に聞くといい。私はやり残した事があるのでこれで失礼する」
それだけ言うと、デュアルレイは奥へと歩いていく。
カイトは慌てて呼び止めようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください! 隊長が知っているって……」
だが止める間も無く、デュアルレイは去っていく。
その後ろ姿が見えなくなったところで、エルクがふうと溜め息をついた。
「やれやれ、彼が来てくれて助かりましたね……」
その言葉にカイトも同意する。
「ああ、噂通りの実力だったな……」
二人のそんな会話にヒスイが首を傾げた。
「どういう事だ? あのレイヴンについて何か知っているのか?」
「あら? ヒスイちゃん、ひょっとして知らないの?」
意外そうな口調のレインに、ヒスイがむっとした声で答える。
「レイヴンになって、まだ二ヶ月しか経っていない……」
「あらら、それじゃまだ知らなくても当然ね。彼はね……」
その後をカイトが続けた。
「アリーナトップランカーにして、無人兵器暴走事件を解決に導いた人物……。いかなる依頼も完璧にこなし、企業だけでなく、レイヴンからも絶大な信用を得ている最強のレイヴン……」
デュアルレイの去っていった通路を見つめ、カイトは言った。
「『英雄』、デューク=カリストだ……」
11/04/16 15:13更新 / 謎のレイブン