第六話「Temps fin et une question」
メリーゲートとの交戦から数日。
フランシスとユリエールは屋敷から数キロ離れた所に位置する都市へとやってきていた。
あの戦闘の後、父の意向で二人に休暇と外出許可が下りた。
親の愛情や優しさといったものより手持ちのリンクスの体調管理といった意味合いが強い今回の休暇が、それでも二人にとっては嬉しいらしい。
「良い天気でよかったわね、ユリエール」
「そうですねぇ」
雲ひとつない晴天の下、運転手に手をとってもらい送迎用の車から降りた二人は伸びをする。
いつも丁寧な所作のユリエールも今日ばかりは少しはしゃぎ気味だ。それを見てフランシスも頬が緩む。
「では、七時間後に。ええ、職務は全う致します」
二人の後ろではブロンドをショートカットにした細身の女性が無表情のまま送迎車の運転手と言葉を交わしている。
女性は、外出時に「監視役」を務めることになっている二人のオペレーターのクレア・ブライフォードである。
ローゼンタール内ではその敏腕ぶりとクールで毅然とした態度に憧れる女性も少なくない優秀なスタッフである。
送迎車が見えなくなったのを確認して、クレアは疲れ気味に大きく息を吐いた。
「すみません、クレアさん…折角の休暇なのに」
フランシスの謝罪の言葉にクレアは苦笑を浮かべて彼女の額を人差し指で軽く小突いた。
「若い娘がそんな事言うもんじゃないの。フランもユリィも年頃なんだからいっぱい遊んでおくべきよ?」
クレアは普段の任務時の機械的な態度とは打って変わって、とても明るい口調でそう切り返した。
「は、はぁ…」
フランシスが自分の額をおさえて目を瞬かせる。
実はクレアは、仕事中こそ真面目でクールで機械的に仕事をこなす近寄りがたい雰囲気をかもしてだしているのだが、素顔は明るく饒舌で、年下好きでエロいというなんとも対照的なものなのである。
仕事とプライベートの割り切りがはっきりしているのでローゼンタール内で彼女の素顔を知るものは少ない。
クレアのフレンドリーな性格もあって三人は任務以外、プライベートでも非常に仲が良い。
昔から籠の中の鳥状態で一般世間の知識に乏しいフランシスとユリエールに対してクレアがファッション講座や流行に関しての話題提供などを行っている。
そのためフランシスとユリエールの私服もほとんどクレアが選んでコーディネートしたもので実際、今日の服装も同年代の女性と比べればやや控えめではあるが、名門出身のお嬢様というイメージはまずない。
「んじゃ、行きましょっか!」
「わっ、ちょ、ク、クレアさん…」
仮にも仕事だというのに一人はしゃいでいるクレアに腕を引っ張られて、フランシスとユリエールはショッピングモールの中へと歩いていった。
それからクレアの指導(?)のもと、これからの季節の服を選んだり、バッグやアクセサリー、そして半ば無理矢理ランジェリーなども購入し、一通りの買い物を終えた一行はオープンスペースのカフェで休憩をとることにした。
「少し休憩しよっか」
クレアが荷物を置いて屋外の適当な席に腰掛ける。その後ろからついてきたフランシスとユリエールもクレアと同じテーブルの席に座る。
「お、お姉様大丈夫ですか?」
少し疲れた溜息を漏らすフランシスをユリエールが心配そうに覗き込む。
「クレアさんが試着室に乱入してきたときはどうしようかと思ったわ…」
因みにランジェリー売り場での出来事である。
「ブレンドコーヒーと、ダージリン二つ」
「聞いてくださいよぉ…」
当のクレアはどこ吹く風といったようにフランシスの言葉をサラリと受け流して店員に注文をする。
それからにっこりと笑顔を浮かべたまま二人に向き直った。
「さてさて、じゃあ休憩中はちょっと雑談ターイム」
「さっきの話には触れないんですね…」
「まぁまぁ、堅いこと言わないの。二人の良いところでもあるけど悪いところでもあるわよソレ」
それから、しばらくはクレアが主導権を握る形で様々な話をした。
最近の流行、これからの予定、そして仕事――リンクスに関する話。
仕事中とは違うクレアとの話は会うのが久々と言うこともあってかかなり弾む。
そして注文した飲み物が運ばれてくる頃、フランシスは前々からの疑問を思い浮かべていた。
「あの…クレアさん…」
「うん?」
フランシスが目の前に置かれたティーカップの中の紅茶に目を落とし、不意に口を開く。
クレアはコーヒーカップを持ったまま小首を傾げた。
「……私の、母のこと、知ってますか?」
カップを口に運ぼうとしていたクレアの手が止まった。
ユリエールも少し目を見開いて視線をフランシスの方へ向ける。
漆黒の水面から立つ湯気の向こう側。そのクレアの意外そうな色を滲ませた表情がフランシスにとってとても印象的だった。
フランシスとユリエールは屋敷から数キロ離れた所に位置する都市へとやってきていた。
あの戦闘の後、父の意向で二人に休暇と外出許可が下りた。
親の愛情や優しさといったものより手持ちのリンクスの体調管理といった意味合いが強い今回の休暇が、それでも二人にとっては嬉しいらしい。
「良い天気でよかったわね、ユリエール」
「そうですねぇ」
雲ひとつない晴天の下、運転手に手をとってもらい送迎用の車から降りた二人は伸びをする。
いつも丁寧な所作のユリエールも今日ばかりは少しはしゃぎ気味だ。それを見てフランシスも頬が緩む。
「では、七時間後に。ええ、職務は全う致します」
二人の後ろではブロンドをショートカットにした細身の女性が無表情のまま送迎車の運転手と言葉を交わしている。
女性は、外出時に「監視役」を務めることになっている二人のオペレーターのクレア・ブライフォードである。
ローゼンタール内ではその敏腕ぶりとクールで毅然とした態度に憧れる女性も少なくない優秀なスタッフである。
送迎車が見えなくなったのを確認して、クレアは疲れ気味に大きく息を吐いた。
「すみません、クレアさん…折角の休暇なのに」
フランシスの謝罪の言葉にクレアは苦笑を浮かべて彼女の額を人差し指で軽く小突いた。
「若い娘がそんな事言うもんじゃないの。フランもユリィも年頃なんだからいっぱい遊んでおくべきよ?」
クレアは普段の任務時の機械的な態度とは打って変わって、とても明るい口調でそう切り返した。
「は、はぁ…」
フランシスが自分の額をおさえて目を瞬かせる。
実はクレアは、仕事中こそ真面目でクールで機械的に仕事をこなす近寄りがたい雰囲気をかもしてだしているのだが、素顔は明るく饒舌で、年下好きでエロいというなんとも対照的なものなのである。
仕事とプライベートの割り切りがはっきりしているのでローゼンタール内で彼女の素顔を知るものは少ない。
クレアのフレンドリーな性格もあって三人は任務以外、プライベートでも非常に仲が良い。
昔から籠の中の鳥状態で一般世間の知識に乏しいフランシスとユリエールに対してクレアがファッション講座や流行に関しての話題提供などを行っている。
そのためフランシスとユリエールの私服もほとんどクレアが選んでコーディネートしたもので実際、今日の服装も同年代の女性と比べればやや控えめではあるが、名門出身のお嬢様というイメージはまずない。
「んじゃ、行きましょっか!」
「わっ、ちょ、ク、クレアさん…」
仮にも仕事だというのに一人はしゃいでいるクレアに腕を引っ張られて、フランシスとユリエールはショッピングモールの中へと歩いていった。
それからクレアの指導(?)のもと、これからの季節の服を選んだり、バッグやアクセサリー、そして半ば無理矢理ランジェリーなども購入し、一通りの買い物を終えた一行はオープンスペースのカフェで休憩をとることにした。
「少し休憩しよっか」
クレアが荷物を置いて屋外の適当な席に腰掛ける。その後ろからついてきたフランシスとユリエールもクレアと同じテーブルの席に座る。
「お、お姉様大丈夫ですか?」
少し疲れた溜息を漏らすフランシスをユリエールが心配そうに覗き込む。
「クレアさんが試着室に乱入してきたときはどうしようかと思ったわ…」
因みにランジェリー売り場での出来事である。
「ブレンドコーヒーと、ダージリン二つ」
「聞いてくださいよぉ…」
当のクレアはどこ吹く風といったようにフランシスの言葉をサラリと受け流して店員に注文をする。
それからにっこりと笑顔を浮かべたまま二人に向き直った。
「さてさて、じゃあ休憩中はちょっと雑談ターイム」
「さっきの話には触れないんですね…」
「まぁまぁ、堅いこと言わないの。二人の良いところでもあるけど悪いところでもあるわよソレ」
それから、しばらくはクレアが主導権を握る形で様々な話をした。
最近の流行、これからの予定、そして仕事――リンクスに関する話。
仕事中とは違うクレアとの話は会うのが久々と言うこともあってかかなり弾む。
そして注文した飲み物が運ばれてくる頃、フランシスは前々からの疑問を思い浮かべていた。
「あの…クレアさん…」
「うん?」
フランシスが目の前に置かれたティーカップの中の紅茶に目を落とし、不意に口を開く。
クレアはコーヒーカップを持ったまま小首を傾げた。
「……私の、母のこと、知ってますか?」
カップを口に運ぼうとしていたクレアの手が止まった。
ユリエールも少し目を見開いて視線をフランシスの方へ向ける。
漆黒の水面から立つ湯気の向こう側。そのクレアの意外そうな色を滲ませた表情がフランシスにとってとても印象的だった。
10/02/27 14:03更新 / セーフティハマー